暗殺者レオンの目的

side.イリーナ・イェラビッチ



磯貝が救急箱をフロントへ返却しに部屋を出て行って暫く。
部屋には私とベッドに横たえているナマエのみ。タコはしぶしぶといった様子で出て行った。…まあ追い出したのは私だけど。


「……ぅ」

「! 目が覚めた?」

「イリーナ……?」


水色の瞳と視線が合う。顔が赤く目がとろんとしていて如何にも弱っていますと言った様子だ。
……こんな姿、ガキ共には見せられないわね。


「視覚も意識もはっきりしているみたいね。良かったわ。……ナマエ、一体何があったの?」

「……ちょっとしくじった」


視線を外しそっぽを向きながら、ナマエはボソリとそう言った。
あのナマエがしくじったって……。

……そういえばナマエ、昨日事情聴取を受けていて眠ってないんだっけ。睡眠が取れなかったからミスをしてしまったのかしら……?


「とにかく今は休みなさい。ベッドはもうひとつあるし」


私に当てられた部屋は二人部屋だった為、ナマエに1つベッドを貸し出しても問題無い。
……しかし、さっきから気になる事がある。ナマエの顔だ。あぁ、容姿がどうとかって言う話では無く……顔が赤いのだ。
まるで熱にでもうなされているような……


「ってまさか!熱あるの!?」

「ねつ……?おかしいな、そんなはずは……」


なんて言っているナマエの額に手を伸ばし、熱があるかどうか計ろうと触れた瞬間。


「……ッ」


明らかに身体を跳ねさせたナマエ。
……顔が赤くて触れただけでこんなにも反応する感度……まさか!


「ねぇ……まさか盛られた?」


この状態は私の経験上ひとつだけ当てはまるものがある。……媚薬だ。
欲望だらけの人間が遊び感覚で使ったりするけど……実はこの媚薬、使い方次第では人を殺せる。
呼吸が乱れているのもただ熱に浮かされているからじゃない。ホルモンを刺激されて興奮状態だからだ……!


「媚薬……あぁ、なるほど。この熱さも納得だ」


きっととてつもない程の精神力で理性を繋ぎ止めているんだろう。……恐ろしい精神力だ。


「ところで……部屋の前に誰かいないか?気になって眠れない」

「あのガキ共……さっさと部屋に戻れって言ったのに……!」


ナマエの言葉は的中し、部屋の前にはさっきと同じメンバーがそこにいた。ガキ共にナマエが気になって眠れないから早くどっかに行けと言うと、漸く部屋に戻りだした。


「はぁ……って!何してるの!?」

「何って……見ての通りだろ」


ガキ共を追い返して溜息を着きながらナマエの元へ行くと、そこにはどこから取り出したのか分からない注射器を刺そうとしていたナマエがいた。


「私がやるから!それ渡しなさい!」

「イリーナ使った事あるのか?」

「……ないけど」

「じゃあ自分でやる」

「ダ・メ・よ!貴女怪我人なんだから!!」


私がやる!自分でやる…の言い合いをしていた時だ。


「なら俺がやりますよ」

「い、磯貝……」


いつの間に部屋に入ってきたのか、そこには救急箱を返却に出て行っていた磯貝がマグカップを持って存在していた。
机にマグカップを起き、磯貝はナマエの手から自然と注射器を奪った。


「打つ前に教えてくれ。この液体はなんだ?」

「……君達の言う点滴に使われているものと同じだと思ってくれれば良い」


磯貝の質問にそう答えたナマエだが……どうにも私にはあの子が言ったような効果のある液体に見えない。
……何か別の効果が隠されているんじゃないかって思うの。


「……本当なんだな?」

「嘘はついてない」


ナマエは磯貝の目を見て答えた。
暫く見つめ合っていたが、磯貝が溜息をついてナマエの腕を優しく取った。どうやら磯貝の方が折れたらしい。


「お前を信じてこれを打つからな」

「……頼む」


磯貝はナマエに薬を打ち込んだ後、持ってきたマグカップに入っていた水を飲ませていた。


「よし。……さっき渚に聞いたけど、今日一睡もしてないんだって?ちゃんと寝るんだぞ?」

「あぁ……」


ナマエは素直に返事をすると、磯貝は私に一礼して部屋を出ていった。
それを確認してベッドに横たえてボーッと天井を見上げているナマエに声を掛けた。


「ねぇナマエ。聞きたい事があるの」

「なんだい?」


少しだけ話し方が流暢になっている。さっき打ち込んだ薬の影響なのかしら。……だとしても。私はナマエに聞きたい事がある。
今私とナマエは教師と生徒という関係だけど、これは同じ暗殺者として…友として聞く事だ。


「貴女がE組に来てから思っていたことがあるの。……ナマエ、貴女何かヤバいことに手を出しているんじゃ無いの?」

「!」


ナマエは私の質問に目を見開いた。……その反応は肯定と受け取るわよ。


「…………そうだな。確かに僕は、ヤバいことに手を出しているかもしれない」

「!! どうしてそんなことを……」

「……それは言えない。だけど……」


偽り・・の青い瞳が私を捉える。
少しだけ熱っぽい瞳をこちらに向けたままナマエが放った言葉は___


「僕は今、死ぬわけにはいかない。……ある人を殺すまでは」



***



(磯貝)


「はぁ……」


水を届けに来たと思えば何か注射器持ってた苗字。
苗字の言葉を信じてあの注射器を打ち込んでしっかり寝ろと伝えた後、ビッチ先生の部屋を出たわけだが……。


「すごく緊張した……」


今まで以上に一番緊張したかも知れない。……それは相手が苗字だったからだ。
実は今日、事故で苗字を押し倒している状態になってしまい、それに加えて苗字の胸を態とでは無いが触ってしまったのだ。

あの後前原や寺坂達と言った男子達や中村率いる数人の女子に弄られたのだが、流石ゲスの集まったクラス……今日のビッチ先生の件を含めて改めて再確認したよ。
因みに苗字に好意丸出しのカルマには「ズルい!!」と言われた……。


全力で謝ったが、苗字は『触られ慣れてるから気にするな』と言ってあっさり許してくれたが……何故かもやもやする。

ビッチ先生が言ってたが苗字もハニートラップを使う事もあるそうだ。だからそういう事も経験があるんだろう。
分かっているのに納得いかないこの気持ちは一体何なのか……。


「……考えても仕方ない。部屋に戻ろう」


その場にしゃがみ込んでいた身体を起こし、部屋に向かって足を進めようとした時だ。


「___僕は今、死ぬわけにはいかない。……ある人達を殺すまでは」

「!」


聞こえてしまった言葉。……苗字の声だった。
間違いなく聞いてはいけない言葉だった。……だけど、聞いてしまったからなのか更に苗字について知りたくなってしまった。

そう思った動機がなんなのか、俺にはまだ分からない。



暗殺者レオンの目的 END





2021/04/04


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