一触即発の中で問われた炎



「俺の記憶が正しければ、教令院にいた頃はあまり関わりがなかったはずだろう。偶然会っただけだというのに、その態度はどうしたことか……大マハマトラ殿」

「運よくこの一槍を避けられたとしても、”審判”から逃れられるとは限らないよ、アルハイゼン」

「審判? 先程の君の行為は……審判か粛正だったのか」

「俺は全力を出していない。もし出していれば、その旅人では俺を止められなかっただろう」


アアル村に到着したアルハイゼンと旅人の元へ一槍を仕掛けたが、旅人に止められてしまった。まぁ、全力ではなかったから、止められても仕方ないだろう。もしこの程度のものを止められなければ、各国で名を馳せたことが嘘であると思わざるを得ないからな。

その後も何度かアルハイゼンへ攻撃を仕掛けたが、攻撃は全て弾かれた。……ほう、手加減はしていたが、中々な腕をしているじゃないか。追っていたターゲットではあるが、少し感心した。


「一件暗殺に見えただろうが、ターゲットの反抗心と逃亡意欲を失わせるためやったことに過ぎない。これがマハマトラのやり方だ。お前も知っているだろう?」

「……あくまで君個人のやり方に過ぎないと思うが」


少なくとも、俺はこのやり方で任務を遂行してきた。彼奴と……ナマエと共に。その任務は全てが楽ではなかったし、時として非道にならなければならない時もあった。

その日々も今の俺を形成する1つだ。欠けてはならないものである。


「こ、こいつ誰なんだ? アルハイゼン、さっき”大マハマトラ”って言わなかったか?」

「ああ、教令院のマハマトラたちのトップ、大マハマトラのセノだ。学術犯罪の領域において、彼は誰もが恐れるハンターさ」

「お前達はアルハイゼンを深く信頼しているようだな。それどころか、そいつのために俺を阻むとは……」


やはり、共に行動しているという点を踏まえて、同じ目で見た方が良いだろうか。
……教令院側という目で。


「仮に俺がお前達だったら、そいつの方には決してつかない。何を話されても、信じたりはしない。その書記官は、俺が長きにわたって”追っていた”ターゲットだ。お前達の立場をはっきりさせてもらおうか。もし、また邪魔立てするようであれば、お前達も巻き込まれると思え」


しかし、俺の決めつけで決定してはいけない。相手は異邦から訪れた旅人だ。それも、割と最近スメールへ訪れた人間のはず。まずは彼らの話を聞いてからだ。

……スメールの人間であれば、ここまで慎重にはならなかっただろう。さあ、お前達は俺の問いに何と答える?
虚偽は俺には効かない。いくら初対面であれ、相手が嘘を付いているかどうかは判別できる目と耳を持っている自信がある。


「……でも、黙って見るつもりもない」

「アルハイゼンがなにをしたって言うんだよ? おまえが言うほど悪い事はしてないだろ?」


なるほど、そう来たか。
アルハイゼンを信用しているかどうかではなく、この状況を見て見ぬフリができないという奴か。これがお人好しというものなのだろう。

彼らからの返答は聞いた。
ならば次は……


「無駄口は叩きたくないんだ。アルハイゼン、さっき一閃交えたときに気づいたんだが___お前が隠している”神の缶詰知識”を渡してもらおう」


アルハイゼン、お前が隠している”物”について問おう。


「それとも、俺の助けが必要か?」

「……フン。さすがマハマトラ、嗅覚が鋭いな」


アルハイゼンが取り出したもの……それは神の缶詰知識だ。
彼らはアルハイゼンがこれを持っていた事に気づかなかったのだろうか?
まあ、その話については今置いておこう。

神の缶詰知識というのは、元々教令院にあったもので、それを使うと神の知識が手に入るという。ただし、人間が使うと常人では耐えられないようで精神が崩壊する危険な物だ。

俺はそれが教令院から消えたという話を道行く先にいたマハマトラから聞き、途中でそれの回収を目的に加えた。

その神の缶詰知識を、偶然にもアルハイゼンが手に入れていた。さて、話では砂漠で消失したと聞いていたが、今アアル村に来たばかりであるお前が、何故持っている?


「この神の缶詰知識……! たしかオルモス港にいたとき、マハマトラの手に渡ったはずだよな?」

「確かに嘘を付いていたみたいだね」


旅人たちにも話していないとは……ますます疑いが深くなったな、アルハイゼン。
俺の問いにお前は何を答えるんだ、アルハイゼン?


「どおりでそんなに自信ありげに話していたわけだ、セノ。だが一つ気になる。これは君にとって何を意味している? それに君は、教令院の大マハマトラであるにも関わらず、単身で砂漠に来た……いつも傍に置いていたナマエ彼女も連れずに」


……俺はいつも通りの顔を保てていただろうか。
突如出てきた彼女というワード。それは間違いなく俺の右腕……ナマエを指しているのは分かっている。

動揺するな、冷静であれ。
俺はナマエを信じると決めたんだ……彼奴なら必ず役目を果たすと。


「俺が知る限り、マハマトラたちまでもが、みな君の失踪の話をしている……まさか、他人には見られたくない任務でも行っているのか? 仮にその任務のターゲットが俺だったとしよう。それでも君は権力と資源を使って教令院で俺を裁決できたはずだろう?」

「まさか賢者の依頼?」


アルハイゼンの言葉を黙って聞いていれば、俺の問いに答える前に問いを投げかけてくるとはな。
それに、アルハイゼンの言葉を受け、旅人は俺が賢者の使いだと疑っている。


「……やはり、お前は厄介だ」

「そんな……どっちも信用できないみたいだぞ……どうすればいいんだ?」


どうやら、もう一戦交える必要がありそうだ。
武器を構えようとした、その時だ。


「コホンッ……だいぶ盛り上がっているようだな、二人とも」

「ん? えっ!? ディシア! なんで此処にいるんだ? そんなことはどうでもいいぜ。良かった、やっと信頼できる人が来たぞ!」


旅人の傍にいる小さな浮遊物体……妖精か何かか?
そいつが後ろからやって来た女性に声を掛ける。そいつの口から出た名で会っているなら、女性の名はディシアだろう。


「ディシア、早く助けてくれ。 じゃないとこいつら、また喧嘩を……」

「ああ、確かに”教令院の大物”二人がまたやり合ったりしたら、大変な事になるな。独り善がりな道理を並べ、教令院の虚しい規則と道義ばかりを口にする……あんたらは、そんなくだらない紛争を、このアアル村という浄土に持ち込んだ……」


だが、俺には突然現れた女性の相手をしている暇はない。アルハイゼンから神の缶詰知識を奪い、その目的を吐かせるだけだ。


「おいおい、あんたら……あたしの話が聞こえなかったのか!」


ディシアがまだ何か言っている。そう思った時だ___突然、強い風が吹き荒れたのは。
これは……砂嵐か。


「うわっ、どういうことだ! 強い風が……砂嵐か!? 吹っ飛ばされるぞ!」

「おーい、そこの方々、こっちです! 早くこっちに避難を!」

「誰かが呼んでるぞ。風が強すぎる……はやく行こう!」

「キャンディスの声か……。おい、教令院のやつらは脳みそが使えないのか? 早く行くぞ!」


……さすがの俺も、任務を遂行するには悪い状況なのは分かっている。


「そう騒ぐな」

「……ふんっ」


今は一時休戦と行こう。砂嵐が止んだその時、また問えば良い。



***



「……」

「……」

「……」

「……」

「き、気まずい……さっき戦おうとした三人が、こんな小さな空間に押し込められてるなんて……。うぅ、オイラも飛べなくなるくらい空気が重いぞ……」


突然の砂嵐に見舞われ、急遽避難した俺だが、そこにいるのは俺だけではない。アルハイゼン、ディシア……そして、旅人と小さなやつがいる。

空気が重い、か。……当然だ。
ターゲットであるアルハイゼンがいるんだ。今は九千としているだけで、砂嵐が過ぎ去ればすぐに再開するつもりだ。


「すみません、皆さん。ここはアアル村の村長の家です。砂嵐が過ぎるまでは、ここで凌いで頂くしかありません」


そんな空気の中、こちらへ声を掛けたのは、避難するように声を掛けてきた女性だ。


「自己紹介をさせてください。私はキャンディス、アアル村のガーディアンです」


キャンディスと名乗った女性は、アアル村のガーディアンと名乗った。……ほぅ、ガーディアンか。


「あぁ、やっと助っ人が来たぞ……! オイラはパイモン! 会えてうれしいぞ。えへへっ、おまえがオイラたちをここに連れてきてくれたおかげで助かったぜ。ありがとな、キャンディス!」

「本当にありがとう」

「ふふっ、災いを前にしたとき、助け合うのは当然のことです。どうかお気になさらず」


助け合う……もし彼奴もこの場にいたら、きっと救助を優先するだろう。彼女は自分より他人の方を優先するんだ。あぁ、言っておくが善良な人間である事が前提だ。


「わぁ……このお姉さん、すっごく優しいな。ほんと、あいつらとは大違いだぜ……」


あの小さいやつはパイモンと言うらしい。中々失礼な事を言うな、俺はマハマトラとして動いているだけだというのに。
それほど今、スメールは危険な状況だという事を分かっていないのだろう。

俺が教令院を離れてから、上層部について分かった事があるのだ。だからこそ、アルハイゼンを疑っている。


「さて、挨拶はこの辺にして、後の時間は___ガーディアンとして、村に影響がないことを確認するためにも、実は砂嵐がやって来る前から遠くであなた方の衝突を見ていました」


だが、審判を行うには……どうやら目の前にいるガーディアンの試練を乗り越えなければならないらしい。


「しかし今、あなた方はアアル村にいます。脅威を排除するのが私の責務。どうか、率直にしっかりと話し合ってください。お互いへの殺意を何とか消し去れませんか? この屋根の下で、もしまだ争おうとする者がいるなら……砂嵐の中の獣たちにもてなしてもらう他ありません」

「オ、オイラ……前言撤回するぞ……」


俺は上層部の企みについて、その真相を知り、審判しなければならない。そのためにも、教令院でも立場が高いアルハイゼンから何としてでも情報を引き出さなければ。


「チッ……」

「貴女も例外ではありませんからね、ディシア。……お返事は?」

「はぁ……わかったよ、キャンディス」

「ふふっ、いいでしょう。では、どなたから話をなさいますか?」

「一応あたしは止めに入った身だ……やり方がちょっと過激だったのは認めるがな。先に教令院の二人が話をしたらいい」

「あれって止めようとしたって言えるのか……」


どうやらこちら側が先に話さなければならないようだ。


「……別に、俺には隠すべき事はない。言っても良いだろう」


順序の違いだ。
どうせ話す事になるのならば……俺から先に話そう。






2023/12/02


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