炎隼に別れを、金狼は孤独へと進む



「教令院を離れる、ですか?」



ナマエに教令院の動きに着いて話してから数日後。独自に調査を進めていると、彼らの動向が更に怪しいと思うようになった。そして、同時にその動きについても謎が深くなっていく。

……このままでは、状況が明るみになるまでに時間がかかってしまう。時間が経つにつれ、真相が奥へと追いやられていくだろう。

だからこそ探る必要があるのだが、探りを入れるというのは非常に危険が伴うもので、1つでもボロを出せば台無し……酷ければ、取り返しの付かないことになる。
特に、俺の立場はこのような探りが必要な場面においては不自由だ。内部で起こっていることであるなら、尚更である。

だから決めた___一度教令院を離れて、独自で調査しようと。身を暗ませ、教令院の目から姿を消すことを決めた。
その件について、俺はナマエに伝えた。誰よりも信頼できる彼女に、俺の考えを。


「ああ。自分自身に罪を突きつけ、教令院を出る事もできるが……上層部の目を欺くために、お前に一芝居打って欲しい」

「……私がその立場というのは」

「却下だ。……お前には、俺が抜けた後のマハマトラを統制してほしい」


お前がいるから、俺は独断で行動できる。
……安心して任せられる。

俺が告げた言葉は、敢えて口に出さなかったこの言葉も含まれている。言わずとも、ナマエには伝わると判断したからだ。


「……私が役不足なばかりに、申し訳ございません」

「いや、お前が気を落とすことじゃない。前にも言っただろう、あまり深く探りを入れすぎれば怪しまれると」

「だから、自分の立場を捨てて上層部を調査したいんですね」


……承知しました。
俺の言葉に絞り出すような声で返事し、ナマエは頷いた。


「先輩がいなくなることなんて、考えた事もありませんでした。ですが、スメールの未来のためには、必要なことですから」


現在勤務中のため、いつもなら仕事モードであるナマエが出てくるというのに、今のは……普段の彼女だった。


「内容については既に考えている。お前はその通りに動けばいい」

「……はい、お聞きします」


ナマエは俺が話す内容を静かに聞き、度々頷いていた。
これからの俺の行動と、俺の代役として動くナマエのこれからについて等々、俺にしては珍しく長く真面目な話をしたと思う。どこかでジョークを挟んで、雰囲気を柔らかくした方が良かっただろうか?


「……質問はあるか?」

「合間合間にさせていただいたので大丈夫です。先輩の仕事の代役も、ずっと傍で見ていましたから……マハマトラをダメにすることはないはず、です」

「そうか。……ならば今を持って俺は失踪した大マハマトラ」

「そして、私は……失踪した大マハマトラに変わり、マハマトラを統制する者」


俺に続いて発せられた言葉は震えていた。……あぁ、俺は好きな人になんて酷い事をさせているのだろう。

下げた顔に連動し垂れた髪で、俺の顔は見えていないはずだ。……自信の髪で隠れた表情を、ナマエに見られてはならない。
今俺は間違いなく情けない顔をしている。格好が付かないのは勿論だが……なによりもも、好きな相手に酷い事をさせている自覚があるんだ。

顔を隠すというより……彼女の顔を見れない。
彼女は表情豊かな人だ。マハマトラをやっていると、私情を殺さなくてはならないことが多い。そして、俺の右腕として傍にいるため、そのような場面を多く見ている。


プライベートになると、彼女は雰囲気が変わると話しただろう?
仕事中には一切見せない普段のナマエが、今俺の前にいる。……赦されるならこの腕に抱きしめて落ち着かせたい。

だが、今を持って俺達は決別したのだ。それがフリだと分かっていても、他からは事実と思わせなければならない。



「___頼んだぞ、ナマエ」

「……お気を付けて、セノ先輩」



___事が終わるまで、お別れだ。ナマエ。
その意味を込め言葉を告げた俺は、黒いローブを纏い部屋を出た。

……時間帯はいつの間にか夜になっていた。
俺としては闇夜に姿を紛らわせ、失踪を図りやすいため都合が良いが……何故だろう。


「……どうして、不安が拭えない」


スメールシティを出て少しは慣れた場所。遠くから見える見慣れた街を振り返って思うのは、右腕として傍においた彼女のこと。
頼りなのは間違いの無い事。ミスを犯すことは考えていない。

俺が抱える不安は……大切な人が危険な目に遭わないか、ということ。
……いや、信じよう。部下だろうと、好きな人だろうと……不安を抱えるというのは、彼女を信じていないことと一緒だ。


今回はスメールシティだけではなく、スメールという国自体に関わる可能性が高いのだ。……大丈夫、ナマエなら。

再度、スメールシティを眺めた後、俺は背を向けて歩き出した。
頭の中で考えていた調査内容に思考を切り替え、目的地へと向かう。……スメールの未来を明るいものへするために。


こうして俺は、偽りの罪状によりスメールシティを離れることになった。大マハマトラ・セノの名前がそれによって広がるのは時間の問題だろう。
せめて、俺の目的が教令院に暴かれる前に奴らの目的を解明し……審判する。

奴らが企んでいることは確定なのだ。
……絶対に暴かなければ。



___そうしてナマエの傍を。スメールシティを離れて数ヶ月が経った。
風の噂で耳に入ったマハマトラの現状は、俺が失踪した後も変わらないということに安心した。

また、失踪した大マハマトラに変わり、右腕のナマエがマハマトラを統制しているという内容も入ってきた。普段、マハマトラの者からナマエは、気難しく冷静という印象を持たれており、その噂も同時に入ってきた。


彼奴は上手くやれているんだな。
きっと、俺が抜けた穴を埋めようと厳格なイメージを保っているのではないだろうか?

偶には気を落ち着かせる時間を作るように、と言っておいた方が良かっただろうか?
……やはり、ジョークを挟んでおくべきだったかな。


そう思いながら向かうのは砂漠の先にある小さな村……名を、アアル村。
とある情報を耳に入れたからだ。

俺が警戒している相手___アルハイゼンがそこに向かったと。
そして、彼の隣にはある存在もいるという。各国で名を残しているという、旅人というもの。

いくら名を馳せた者とはいえ、警戒する相手と共に行動している以上、彼等も対象だ。この目で見極めなければならない。……全てはスメールの未来のために。






2023/12/02


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