とある夜叉の嘆き
※仙衆夜叉の口調は外見から想像したもの
『うぅ、暑いです応達さん…』
『いいじゃない♪ あんたに抱きつくと、冷たくて涼しいのよね』
『この子は火に弱いんだから、加減しなさいよ』
『んもうっ、分かってるわよ。伐難』
名前に引っ付いている赤いやつは応達。氷の力をもつ名前に良くくっついている。その行動は悪戯から来ているというよりは、その冷たさを気に入っている様に見える。名前は熱そうに顔をしかめているが。
そんな応達を冷めた目で見つめるのは伐難だ。応達と違って名前にくっつく所はあまり見かけないが、一緒にいることが多いのを知っている。水の力を持つ伐難と氷の力を持つ名前は戦場で共闘している所を見かける。
『見すぎだぞ、金鵬』
『……浮舎』
『それほど彼女を愛していると言うことですよ。そうでしょう?』
『……』
後ろから聞こえた声。振り返ればそこには浮舎と弥怒がいた。弥怒の言葉は事実だ。しかし素直に答えることに気恥ずかしさを覚えてしまい、言葉を返せなかった。
1度そっぽを向いたが、やはり自然と視線はあいつの元へ向いてしまうわけで。その時、応達と目が合った。それと同時に、なにか企んでいるような笑みを向けられた。そして伐難に耳打ちをし始めたではないか。
何を考えている、と思っていた時だ。応達と伐難があやつに思いっきり飛びついたのは。
『ぎゅーっ!!』
『きゃっ!?』
『本当だ、抱き心地いい。通りで応達がよく抱きつくわけね』
『ば、伐難さんまでっ』
顔を赤くしてどこか照れている様子の名前。同性であるから許しているものの、何故か腑に落ちない。落ち着かない心のままその様子を見ていると、浮舎が大きく笑った。
『はっはっは! 金鵬は本当に愛しておるのだな!』
『浮舎!!』
『照れることないだろう? 周知の事実なのだから』
『あなた方が有名なだけで、他にもあなた方と同じような関係の同士はいます。素敵な事ではありませんか』
弥怒に上手く言いくるめられたような気もするが……そう思っているとあいつがこちらを見ていることに気づいた。
『
』
名前が我をもう一つの名で呼ぶ。
あやつは我以外には敬語で話す。決して人見知りという訳ではないらしい。現に2人に心を許しているからあのようなことをされても平気なのだ。前にその事について訪ねたのだが、特に理由はないという。
まあ、過去の出来事が多少影響して、敬語が抜けないのかもしれない。だが、本人がそのことを特に気にしていないようだから、そのままにしている。
それでも、自分だけが特別なのではと錯覚してしまうほど浮ついた気持ちになる。こっちに来て、と言いたげな目で我を見つめる名前の元へ我は歩いた。
『……なんだ』
『私を見てたから』
青と緑の中間のような珍しい色をした目がこちらを捉えた。……その瞳には当然だが我が映っていた。名前も同じだったのだろうか。我が名前を見つめていた時、後ろから誰かに押されてしまった。
『なっ!?』
『ええっ!?』
突然のことに驚いてしまったが、名前に抱きつく形で体制を元に戻す。密着した身体に動揺しているが、このまま地面に倒れ怪我をさせる事がなかったことに安堵する。
『おい!!』
『すまんすまん、あまりにもじれったいものだから手が出てしまった!』
悪気のない態度に怒りが冷めていく。確かにじれったかったのかもしれんが……そう思っていると腕の中に閉じ込めていた名前がもぞもぞと動く。
『ねぇ、
……そろそろ』
こちらを見上げる名前に変な気を起こしそうになる。……落ち着け、ここには我と名前だけではないのだぞ。
『…………分かった』
本音を殺し、閉じ込めていた愛おしい存在を腕の中から解放する。すると後ろからこんな声が飛んできた。
『不満そうだな』
『ですね』
『名残惜しそうだわ』
『うんうん』
『煩いぞ!!』
思わず怒鳴ってしまったが、4人は変わらず面白いものを見るような顔でこちらを見ている。そんな4人に言い返す言葉を探していたときだ。
『……絶対に失うなよ』
浮舎の言葉で先程までの空気がなくなった。この頃まだ夜叉一族は我と名前以外も存命だった。しかし、戦いの中で命を落とした者、業障に囚われ消えた者は存在していた。
だからこその言葉だったのかもしれない。しかし、そんな事言われなくても分かっていた。
『……当然だ』
分かっていた、はずだったのに。
……浮舎、応達、伐難、弥怒。
あの時我はお前達の前で名前を守り抜くと誓ったのにどうだ。……気づかぬうちにやつは消息を絶ってしまった。
「……情けない」
今日も妖魔を退治し、月が昇る璃月の町を見下ろす。……以前であれば隣には愛おしい存在がいたのに、今は独りだ。
「今、お前はこの夜空を見ているのか……?」
番の関係になり、あやつとの繋がりが生まれた。その繋がりは名前が死んでいない事を裏付けている。……今も僅かだが感じるのだ。まだ名前は生きている。だから我は今でもやつを探し続けている。
「……誰が我から名前を奪った」
以前……名前が我の前から消えた当時から考えていた事。
我と名前は璃月から出る事は許されない。それが契約だからだ。……帝君の契約を忘れたわけではあるまい。
ならば考えられるのは___仙人である名前にはあり得ない話だが……否、名前ならあり得るかもしれない。心優しいやつだからこそ、だ。
疑うことを知らない訳では無い。以前我らを囚えていた魔神で分かっている。それでも名前は『人間は守る存在』だからと手を差し伸べ続けた。……それが仇になったのではないかと。
「……っ!」
その考えが浮かんだ瞬間、怒りが頭を埋め尽くした。
名前の事を想うと、いなくなってしまった原因をも同時に考えてしまう。その度に頭が怒りで埋め尽くされる。
もし、我の考えが真実だったとすれば、名前を攫った者が誰なのかという考えになる。……我は人を殺す事はできない。だが、死と同等のものを味合わせなければこの怒りは収まらない。
「……! 丁度良い」
背後に現れたのは妖魔だ。……この怒りを晴らすのに適した存在だな。
「散れ」
武器を片手に顕現させた瞬間、一瞬の速さで妖魔を蹴散らす。……あっけない存在だ。これだけでは怒りが収まらぬ。
そう思っていた時、ふと頭にある記憶がよぎった。
『
はすぐ敵陣に向かっていくから心配だよ』
『無能ごときに負ける我ではない』
『そうじゃないよ。……貴方の相手にならないものばかりかもしれないけど、私は怪我しているところを見たくない』
『それは我も同じだ』
『私には守る力と癒やす力があるから、怪我しても平気よ。それに、貴方の怪我を治すことができる』
『……ああ。いつも助かっている』
『……業障もなくせたら良かったのに』
『やめろ。前に力を使いすぎて倒れたであろう』
『うん、だからもうやらない。けど、たまにさせてほしい……完全にはいかずとも、少しだけ苦しみから貴方を解放したいの』
「……お前がいないほうが、我は苦しい」
ずっと、ずっと心が苦しい。お前を求めている。……何故、何故名前だったのだ。誰か教えてくれ……。
2022/10/29
修正
2022/11/23
加筆修正
2023/01/14
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