愛と幸せを運ぶ瑞獣「鳳凰」


※第一章「銀蒼の幸鳥、煌々と舞う」の内容を含む
※胡桃および、往生堂について捏造あり
※とある人物の口調、捏造



「そういえば、名前はどうしてるんだ?」


場所は新月軒。
胡桃によって開かれた食事会で皆がそれぞれの時間を過ごしていた時、ふとパイモンがに尋ねた。
それはと言えば次に出てくる存在、彼の妻である名前だ。胡桃に連れてこられたの隣には名前の姿がなかったのだ。


「名前はだな……」

「誘ったんだけど、来てくれなかったんだ〜」

「……」


が名前について話そうとしたが、胡桃が割って入って来たため、話す事ができなかった。別に本人がいるわけじゃないのに、何故か不満そうな様子の。名前に関する事は何でも自分がやりたいのかな、なんて。


「あれ、胡桃は名前の名前知らないはずじゃ……」

「往生堂は名前仙人の思想と似通ってるからね。家では伝わってきた仙人の1人だよ」


へぇ、往生堂でも名前について記録があったんだ。確かに名前の意思は往生堂……というより、胡桃の意思に近い気がする。

少し前に遭った漉華の池の件で、名前は誰かを守り助けたい意思を持っていると知った。どれだけ残酷な状態であっても、決して諦めない……あの時の光景について、俺はそう感じた。


「でも、あの時にあったのは初めてだろ? 何で分かったんだよ」

「え? そ、それは……秘密〜」


胡桃って割と隠し事が多い気がする……。まぁ、人は誰だって何か隠したいことがあるものだ。いつか話してくれる時を待とう。


「胡桃、お前名前さんを知ってるのか?」

「うん。あれ、重雲も知ってるんだ」

「ああ。訳あってあの人から修行をつけて貰ってるんだ」


次に会話に入って来たのは重雲だ。彼もまた、名前と関わりのある人物だ。漉華の池の件が片付いた後に判明した事なんだけど、どうやら名前と関わりがあった少年の子孫に当たるのが重雲だったのだ。

名前は重雲を見た瞬間、すぐに少年の子孫だと分かったようで、出会って以降彼の修行に付き合っているのだ。


「おやおや〜? 仙人であり更には戦いにおいてのスペシャリストと言われる夜叉に見て貰ってるなんて、贅沢だねぇ〜」

「じゃあ重雲も仙人が師匠ってことになるね」

「ぼ、ぼくがあの人の弟子!? そんなわけないだろ!?」


先程まで仙人の弟子、ということで弄られたことを根に持っていたのか、香菱が重雲に絡み始めた。本人は否定してるけど、もし重雲が弟子入りを志願したら名前は喜んで受けるだろうなぁ。


「というより! なんで名前さんの話になったんだよ」

「あぁ、それはね。本当だったらこの場に呼ぶつもりだったって話から始まったんだよ。ね、仙人!」


重雲の問いに胡桃が答えた。……そして最後、意味ありげにへ同意を求めた。なんでに振ったのだろう?


「あ、あぁ。そうだ」

「貴方も名前さんについて知ってるんですね。あ、同じ夜叉だから当然か……」


……あれ?
これはまさか……。?
とあることに気づいた俺は、チラッとパイモンを見た。向こうも俺を見ていたようで、目が合った。そして次に俺達の視線が向いたのは、この話へ持っていった本人、胡桃。

胡桃はニヤニヤしながら重雲を見ていたが、俺達の視線に気づくと片目を閉じて舌を出した。……あぁ、分かった。胡桃がやりたかったことが。


「あれ〜? 重雲知らないの? なら教えてあげよう!」

「何をだ?」

「璃月に住む人なら誰もが知っている存在、鳳凰! 鳳凰は2匹の鳥の番を指してるんだけど、知ってた?」

「一応知ってるけど……」

「それ、僕が教えたんだけどね」


なるほど、行秋が教えなかったら知らなかったのか。修行に明け暮れているから、修行や家系に関係のないことは知らなかったのかもしれない。


「まあ男子だったらあんまり興味ないかもね。んで、話を戻すけど、この鳳凰って実は仙人なんだ!」

「そうなのか!?」

「うん! それでね、どうやらその鳳凰って言われてる仙人が身近にいるらしいの!」


そう言って胡桃はチラッとを見た。……あ、溜息着いてる。意外と照れないんだ。名前だったら照れてそうだけど……って、あ。


「胡桃のやつ、もう答えを言ってるぞ!?」

「きっと面白いから言ってるんだろうなぁ……」


何を隠そう、先程が仙人であることはこの場にいる全員が知ったばかりだ。まあ、凡人のフリをしている鍾離先生は元より知ってた人に入るけど。ウェンティはどうなんだろう?


「降魔大聖がどうかしたのか……って、まさか……!」

「あ、分かった? 分かっちゃった!?」

「胡桃が言いたい事が分かったよ。仙人と、僕がまだ知らない名前仙人こそが、璃月で鳳凰と呼ばれている仙人なんだろう?」

「行秋、だいせいか〜い!」


パチパチパチ〜と言いながら嬉しそうに拍手をしている胡桃。その近くで香菱が「ほへぇ、そうだったんだぁ……」と呟いていた。あれ、香菱は思ったより驚いてないな?


「香菱、驚かないのか?」

「アタシは仙人さんと名前さんが夫婦なのは知ってたよ。前に万民堂へ来てくれた時に、師匠から教えて貰ったんだ〜。けど、まさか鳳凰ご本人逹だったのは今知ったよ」


なるほど、既に知っていたのか。それなら納得だ。
ということは全く知らなかったのは、重雲と行秋かな。とりあえずウェンティは省いておこう。


「残念だったね、重雲」

「ゆ、行秋! 別にぼくはそう言う目で名前さんを見てたわけじゃ……!」

「僕はまだ何も言ってないよ?」

「ぐぬぬ……!」


相変わらず重雲は行秋に振り回されているなぁ……。そう思っていると、どこかがそわそわしているように見えた。気になった俺はに尋ねた。


、どうかしたの?」

「……名前が、泣いている」


は名前に関するあらゆること……危機だったり、今みたいに泣いているだったりと、様々な事を感じ取れるという。
これについて前に鍾離先生から聞いた事がある。二人の間は魂に直結する強力な契りを交わしている。それを持ちかけた相手___その相手はなのだという___は、自身の半身のすべてが分かるようになるらしい。

魂に直結するほどの契約、か。はそんな危険な契約を結んでまでも、名前と一緒にいたかったということなのだろう。だって名前のことを無と呼んでいた時期、記憶を失っていることを伝えようとを呼んだら攻撃されかけたくらいだし……って、今はその話じゃない。


「行ってあげなよ」

「心配でたまらないって顔してるぜ!」

「……すまない。行ってくる」


はそう言って、一瞬で姿を消した。あれって瞬間移動なのかな。


「あれ、仙人は?」

「用事があるって帰ったよ」

「えー! まだインタビューしたいことあったのに〜」


インタビューって……。彼はあまり人との関わりが少ないみたいだから、勘弁してあげて……。


「それに、今度は名前仙人も連れてきてって伝えたかったんだよ」

「今度会えたら伝えておくぜ!」

「分かった、よろしく〜」



胡桃にそうお願いされたけど、次いつ会えるだろうか……そう思っていたときだ。



「空、パイモン。この後、少し散歩に付き合ってくれないか」



___琥珀のように澄んだ力強い瞳が、俺達に問いかけた。



***



子鳥のさえずりもなくなり、ただ水の音だけが聞こえる。少し遠くへ行けば虫逹の演奏が聞こえてくるかもしれない。

私が歩く度に、水が音を奏で、水面に波紋を作る。澄んだ水は池に踏み入れた私の足がはっきりと見えるほどに透明だ。


……ここ、漉華の池は私にとってただの管轄下ではない。帰終様との思い出がどこよりも多い場所だ。



「昔はここにも、琉璃百合が咲いていたのよね」



目を閉じれば昔の光景が蘇る。琉璃百合が咲き誇る場所を背後に、こちらへ手を伸ばすあの方の姿が。
……いつもなら、その背後が突然炎に包まれて、あの方ごと燃やし尽くすように光景が変わっていた。


「……ようやく、貴女から賜ったこの名に、向き合うことができそうです」


今まで自分に課せられた責務……他を守り、癒やすこと。それが誰よりも帰終様にできなかったことを、ずっと後悔していた。
この後悔はいつまで経っても私を苦しめ続けるだろう。今は収まっている、この業障と同じように。

だけど、後悔し続けるだけでは、天に昇ったあの方を心配させるだけだ。



『私、貴女の氷が好きよ。太陽の光に反射して、その中で虹を創り出す。まるで、吉兆の象徴である彩雲ね』

『そうだ! あの人が既に貴女の名前を付けているけど、私も貴女に名前を付けたいわ! ……いいの? やったっ』

『私が貴女に付けたい名前、それは___』



「___瑞相。奇瑞の氷、彩雲の如き輝き」


帰終様が瑞相の名を思い着いたという由来、それを思い出すと同時に、無意識に口から出ていた。


「……今日で最後にします。だから、今日まではどうか……」


貴女を想って、泣いていいですか
口に出なかった問い掛け。それに対して優しい風が私の横を通り過ぎた。……その風が、昔帰終様と共に過ごした琉璃百合の花が咲き誇る場所で感じたものに似ていて。

……帰終様が応えてくれたような気がした。そう思ってしまったら、我慢していたものができなくなって。


「うぅっ、あああぁ……っ!」


力が抜けて、その場に座り込む。膝下に水の感触を感じたけれど、身体と衣服が濡れたことに関して気にならなかった。

それほどに、この涙の意味は大きかった。貴女への後悔を忘れ、楽しく美しい思い出を抱えるために、今日で全てを出し切らなければならないから。



「___お前は、また一人で泣くのか」



ふと、後ろから包まれるように感じた温もり。そして、大好きな声。
香る匂いによって、段々と落ち着いてくる。


「今日だけ、今日だけだから……っ」

「……仕方ないな」


後ろから自分の身体に回った彼___の腕に、自分の手をそっと触れた。すると、その手をがゆっくりと握った。

私が泣くと、彼はすぐに気づいて駆けつけてくれる。もう長く生きているのに、これだけは中々変えられない。直したいのに、改善できない。そのことについて話した事があった。



「だが、前にも言ったはずだ。……一人で泣くくらいなら、我を呼べ、と」



その時、彼が返した言葉が、今まさに言われた言葉だ。仲間の輪から外れていた私が一人で泣いていて、寂しいと零したことがあったから、は私の気分が落ちているとき、必ず傍にいてくれた。


「……っ、うん」


……幼い頃に話したことを、今でも覚えてくれている。そんな彼の優しい所が、昔からずっと大好きだ。


「……落ち着いたか」

「うん、ありがとう

「当然のことをしたまでだ」


いつの間にか、涙は止まっていた。
衣服も濡れ、膝下も濡れていたけれど、風に吹かれても寒いと一度も思わなかった。


「ねぇ、

「なんだ、名前」

「1つだけ、我儘言っても良い?」

「ほう? 普段欲のないお前からの願いか」

「そ、そんなにかな」

「お前はもっと甘えろ」


グッと距離が近づき、から与えられる温もりの面積が広くなる。先程までは落ち着きを与えてくれていたのに、今は恥ずかしさが勝ってきている。


「それで? お前は我に何を望むのだ?」

「……貴女の鳳の舞と一緒に舞いたい」


久しぶりの凰の舞を舞ったからなのか、片割れと共に舞いたい気持ちが芽生えた。昔は同胞の前で披露したものだ。……勿論、その中には帰終様も。

この場にが来てくれたから芽生えた気持ちだ。……帰終様との思い出が沢山生まれたこの場、漉華の池で鳳凰の舞を貴女に見てほしいんだ。



「ここだったら、人間の事は気にならないでしょ?」



長年業障に蝕まれていたことも含まれているけれど、は人間との関わりを避けていた。今でもその部分はあって、あまり人前に出たがらない。


「……そうだな。ここであれば、お前の誘いに応じられる」


凰の舞の意味は、親しい関係の者達へ感謝と愛を伝える意味を持つ。初めは意味などなかったけれど、同胞やの前で舞うようになってから、このような意味が着くようになった。

そして、この意味は知る者だけが知る内容がある。


「名前。お前の誘いに応じよう」


凰の舞は、対となる舞……鳳の舞を舞える者へ「一緒に舞いませんか?」と問いかける意味も持つのだ。
……とは言っても、知っているのは鳳の舞を舞える、凰の舞を舞える私、帝君に帰終様……等々、私達と関わりが深い人達が知っている。

今の璃月でこの意味を知っている存在は、どれだけ残っているのだろうか。


「わっ、」


の温もりが離れた。と思えば、次に感じたのは腕を引かれる感覚。その勢いに身を任せていれば、私はその場に立っていて、に見つめられていた。

それは、どこか意地の悪さを含んだ、優しい顔で。


「ふっ、緊張しているのか? お前から誘ったというのに」

「だ、だって……久しぶりだから、合わせられるかなって……」

「我らだけで楽しむものだ。我とお前以外、誰も見ておらぬ」

「いいえ、違うわ。帰終様はきっと、天の上から見てくださってるはずよ」

「ならば、我も誠意を込めて舞わねばならんな」


不意に風が吹き始めた。
……これは、が起こしている風。であれば、次に私がすべきことは。


「……やはりお前の氷は美しいな」

「ありがとう、とても嬉しい」


細氷を降らせること。
の風と私の細氷が合わさることで、対の舞は1つとなり___鳳凰の舞が始まる。

個々で舞っても独立性がある舞だけど、合わさることで真の姿を見せる。舞の内容などは個々で舞うときと変わりないと言うのに、重なる部分が存在するから面白い。


「名前とまた、こうして舞えることが何よりも嬉しい」

「私もよ、


実際の時間は、一瞬とまでは言わないけれど、些細な時間である事は確か。だと言うのに、こうしてと舞っていると時間を忘れてしまう。それほどに楽しい時間だった。



「あれって……」

「あれこそが、鳳凰の舞だ。どうやら無観客のようだな」

「こんなに遠くからなのに、1つ1つの動きがはっきり分かるぞ……! もっと近くで見たら、すごいんだろうなぁ……!」

「ならば、今度二人に頼むと良い。お前達の前でなら披露してくれるさ」



遠くから3つの視線が私逹の舞を見守っていたことに、お互い気がつかないまま。





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2023/10/09

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