第3節「雄英体育祭:後編」
お茶子ちゃんの個性は『ゼログラビティゼログラビティ』
触れた対象を浮かす事ができる個性だ。
対してかっちゃんの個性は『爆破』
掌から出す事ができる物質を爆発させる事ができる個性だ。
ちなみにどちらもいーちゃんの纏めたノートからの情報だ。そろそろ自分で分析できるようにならないと……。
「苗字さんはこの試合、どちらが勝つと思います?」
「……悪いけど、かっちゃんだと思う。これは勝って欲しいっていう私情ではなく、幼馴染みだから知っているって意味だよ。勘違いしないでね」
百ちゃんにの問いにそう答える。
ここにいる中ではいーちゃんより劣るけど、長く一緒にいるから分かる。
そして、私は誰よりもかっちゃんの事を好敵手だと思っている。
「お茶子ちゃんは触れない限り個性を使えない。……対してかっちゃんは、動けば動くほど汗を分泌するから個性の威力は増す」
「なるほど……。やはり、相性は悪いように見えますわね」
「こればっかりは断定できないけど、最後まで分からないのが勝負ってものじゃない?」
「可能性が高いからと言って、勝負の結末を決めてしまうのは良くないですわね」
最後まで分からないのが勝負……戦い。
この試合ではありえないだろうけど、前世では思わぬ増援だったり、環境変化が起こったりしていたから最初から勝敗を決めてしまう、という事はできない。
いや、“成功”しないといけないものだったから、失敗は許されないミッションだったから。
「麗日休むことなく突撃を続けるが……これは……」
この光景にマイク先生の実況もテンションが下がってきているようだ。
次第にプロヒーローの座る観客席からブーイングが。
「……」
大きくなる非難や不満を含んだ声。
「……っ」
ブチッ
……もう、耐えられない!!
「煩いなァ!!ヒーローの目は節穴な訳!?」
「お、落ち着きたまえ苗字く」
「落ち着いてらんないよ!!なにあのブーイング!!かっちゃんが悪いみたいじゃない!!!」
「私情出てますわよ、苗字さん……」
勢いのままそう叫んでいると実況の声が変わった。
「今遊んでるっつたのプロか。何年目だ」
……相澤先生の声だった。
「爆豪はここまで上がってきた相手の力を認めてるから警戒してんだろ。本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断もできねェんだろ!」
相澤先生はかっちゃんを見てくれてたんだ。
その事に心が温かくなった。
さて、こんなに良い位置に座ってても気づかないクラスメイトに教えてあげなくちゃ。
「そもそも、お茶子ちゃんは考え無しで突っ込んで行ってた訳じゃない」
「え?」
「見て」
驚きの声をあげた響香ちゃんの方へ振り返り、上を見上げる。
私の指を見て、響香ちゃんと彼女の隣にいた梅雨ちゃんが上を見上げた。
「何あれ……!?」
「あれは……かっちゃんがお茶子ちゃんに向かって爆破したときに生まれた”副産物”だよ」
お茶子ちゃんの個性は触れる対象がいないと発動ができない。
自分の姿勢を低くする事で打点を低くさせ、フィールドの瓦礫という武器を生みだしていたんだ。
「あの量の瓦礫が落ちてきたら……。私はどう対処するか迷っちゃうね」
まさに流星群、と呼んでも可笑しくない量の瓦礫が落下してくる。
……さあかっちゃん、貴方はどう出る?
「!!」
大爆発
こちらまでその爆風が直撃する。……恐らく、あれが現時点でのかっちゃんの最大火力。
黒煙が晴れ、そこには左手を空に向けてあげていたかっちゃんがいた。
対するお茶子ちゃんは先程の爆風で吹き飛ばされたのだろう。膝をついて座り込んできた。
立ち上がったお茶子ちゃんに、かっちゃんが向かって行く。
「麗日ダウン!!」
ミッドナイト先生がお茶子ちゃんに近づく。
静まり返る会場。
「___麗日さん行動不能。2回戦進出、爆豪君!!」
お茶子ちゃんはキャパを超えていたんだ。
きっと彼女にとってかっちゃんは強敵だった。それでも立ち向かった。
……その姿が羨ましかった。
「……私も」
私も彼女みたいであったら、あの時何か変わったのかな
戦う力がないからって諦めた私に見せたかった
どんな強敵であろうと、諦めず向かって行く
……その心の強さを持っていたら、あの人はいなくならなかったのだろうか
「緑谷君、頑張れよ」
「うっ、うん!」
飯田君がいーちゃんの名を呼んだことで意識がはっきりした。
「次、いーちゃんの番だよね!対戦相手は?」
「轟君だよ」
とどろき、くん
じゃあ次私が勝てば、いーちゃんか轟君かのどちらかになるって事なのか。
「が、頑張ってね、いーちゃん」
「うん」
あまり長居させてはダメだと思い、短く応援の言葉を伝えた。
いーちゃんはクラスメートから声援を貰った後、観客席から姿を消した。
2021/07/10
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