第2節「雄英体育祭:前編」



「……あ」


視界に誰かが映る。
あの髪の色は……轟君だ。向こうも私の存在に気付いたようだ。
特に話す事はない。そう思って横を通り過ぎようとした。



「アクア、サナーレ」

「!!」

「……お前の親だろ」


すれ違い際に両親のヒーロー名が聞こえた。
思わず立ち止まってしまう。
どうして轟君は、私が両親ふたりの子供だって知ってるの……?


「その様子……。俺が誰の子供か知らないみたいだな」

「当たり前じゃない。私達、今年出会ったばかりだよ?分かる訳がない」


そもそも轟君が誰の子供だろうと、失礼だが私には関係の無い事だ。
振り返ると案外近くに轟君がいた。ただしこちらは見ていない。


「No.2ヒーロー『エンデヴァー』。……知ってるだろ」

「!」


聞いたことがある。
両親以外のヒーローにはあまり興味がない私だが、オールマイト先生と今轟君が放ったエンデヴァーと言うヒーローは知っていた。

オールマイト先生は幼馴染み2人が憧れていた為、よく会話に出てきていたから知っていた。
そしてエンデヴァーというヒーローは……お父さんがライバルだと認めていた人物だ。
流石に本名は知らなかったから分からなかったけど、このタイミングで名前が出てきたって事は……。


「轟君は……エンデヴァーさんの子供って事……?」


それ以外、何がある。
目だけこちらを向けている轟君の顔が今まで見た事のないもので、怖かった。


「同じだと思っていた」

「同じ……?」

「クソ親父が認めていたヒーローだったから、お前も同じだと思っていた。……だけどお前はヘラヘラと笑っているし、強くなかった」

「!!」


”強くなかった”
その言葉が頭にこびりつくように残る。


「アクアとサナーレの娘なら、考えられる個性は水系統か回復系……。なのにお前の個性はどちらの個性も継いでいないものだった」

「それは……っ」


答えられなかった。
確かに私は両親ふたりの個性を継いでいない。……轟君の言う通りだ。


「少しでも同情していた俺が間違ってた」

「は……?」

「お前は、俺に勝てない」


轟君はそれだけ言うと去って行った。
……同じ、ってどういう意味なんだろう。
同情していたのが間違いだった、ってどういう意味なんだろう……。
心の底から何かがふつふつと湧き上がってくる感覚。


「勝手に言っておいて……!!」


こんなに苛つきを覚えたのは初めてだ。
轟君は両親ふたりを侮辱したんだ……!!


「……やっぱり、忘れているのか」


怒りで頭が一杯だった私の耳には届かなかった。
私と轟君以外人がいないこの廊下で、会場の声が薄らと入る程度の静かな空間で、彼が小さく何かを呟いていた事を。



第2節「雄英体育祭:前編」 END





2021/07/10


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