第3節「雄英体育祭:後編」
苛立ちを抑えようと胸を押さえる。
最初はいーちゃんと、同じチームだった心操君だったはず。
私はこの二人はどこか共通点があると思っている。
なんでなのか、って言われると……。
『良いよなぁ、その個性。……ヒーロー向きの個性だ。恵まれている人間』
問いに答えた後、去り際にそう小さく呟いた心操君の声を私の耳がキャッチした。
普通科
前に彼が言っていたことをぼんやりとだけど思い出した。
この体育祭はヒーロー科に編入できるチャンスでもある、と。
ヒーロー科編入を考えているくらいだ。きっと入試はヒーロー科を受けていたんだろう。
だけどヒーロー科の入試は仮想敵を倒してポイントを稼ぐ内容だった。……彼の個性は物理性がない。だから、ヒーロー科に入るのは難しかったんだろう。
「………!!!」
静まった会場に誰かの声が響く。
この声は、心操君の声だ。
「恵まれた人間には分からないだろう!?」
恵まれた人間
……個性が恵まれた人の事か。
「誂え向きの個性に生まれて、望む場所へ行ける奴らにはよォッ!!!」
彼の言葉はいーちゃんの心によく響くはずだ。
その苦悩を聞き続けてきた私にも響いた。
「心操君場外!緑谷君、2回戦進出ッ!!」
ミッドナイト先生の声が聞こえた瞬間、会場から歓声が上がる。
いーちゃん、2回戦進出おめでとう。
「あれっ、苗字ここで見てたのか?」
「へっ!?あ、うん……」
急に話しかけられ驚いてしまう。
私の顔を覗き込むように見ている人物……私の初戦相手である上鳴君がそこにいた。
「折角だし、一緒に控え室いこーぜ」
「じゃ、じゃあご一緒させて貰おうかな〜……」
やはり次が試合だから此処にはいないみたいだ。……それはそれで良かった。
今、彼の顔を見たらまた苛立ってしまうだろうから。
「なんか名前、ピリピリしてね?」
「え、そう……かな」
「おう!いつもの名前じゃねーって言うか、なんつーか……」
隣を歩く上鳴君は上手く表現できないのか、身振り手振りで何とか私に伝えようと必死だ。
その光景を見ていると、段々落ち着いてきた。
「ありがとう上鳴君。実はちょっと緊張してたんだ」
「役に立てたなら良かったぜ!あ、ならその礼として今度どっか食べにいこーぜ」
「予定が合えばね」
入学式…というより、個性把握テストの時に相澤先生が遊ぶ時間ないって言ってたと思うけどなぁ……。
ま、このくらいの年齢の子は遊びたくて仕方ないんだろうな。
きっと彼じゃなかったら、落ち着きを取り戻せなかったかもしれない。
本当に上鳴君に感謝している。お礼も兼ねて出かけるのもありだ。
2021/07/10
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