第10節「私の個性」



女子のみんなと一緒に教室へ戻る。
三奈ちゃんが教室のドアを開けた瞬間、


「苗字!!敵の狙いがオールマイトとお前って本当か!!?」

「き、切島君!?」


私を視界に入れた瞬間、詰め寄ってきたのは切島君だ。
……というより、なんで切島君がそのことを知ってるの?
梅雨ちゃんが尋ねる理由は分かる。何故ならあの場には梅雨ちゃんともう二人、いーちゃんと峰田君がいたから。……あ、二人が教えたのかも?


ヴィランから聞き出した。……雄英を襲った理由に、オールマイト殺害と雄英のある生徒の奪取ってな」


思ってもいなかった人物が私に声をかけてきた。
ヴィランからその情報を聞き出したのは轟君だったようで、目的について問いただした所、オールマイトを殺す事とある生徒の誘拐だと吐いたそうだ。


「あの靄のヴィランが言っていた『英霊を束ねる姫』っていう言葉を聞いて、お前だと思った。……お前の個性は気になっていたから」


……えっと、自分なりに解釈すると、“姫”というワードがついているなら高確率で女性が相当する。
で、この1-Aクラスの女子で相当するのは私なのでは、と轟君は言っているんだと思う。


「……という事は、みんな知ってるって事でいいのかな……?」

「まあ……そうだな!」


私の問いに切島君が答える。
さっき女子のみんなに話した事を男子にも話せばいいだけの話だ。……さっきも思っただろ、もう隠し通せないって。
ヴィランに知られている時点で、もう隠せやしない。……だって、ヴィランに知られているっていうのは、ジャックのスキルが通用していないって事じゃないか。


「分かった、話すよ。……私が狙われた理由。それは私に発現した個性を狙ってだと思う」

「個性?そういや苗字君の個性は擬態だったよな」

「うん、それで合ってるよ。……だけど、みんなに教えていたものが違ったんだ」

「教えていたもの?」


飯田君の言葉に頷く。


「私はみんなに聞かれた個性についての質問にこう答えた。空想の職業になりきれる個性だって」

「確かにそう聞いていたが……」

「実は違うの。私が擬態対象にしていたのは空想上の職業ではなくて___”英霊”と呼ばれる存在に擬態する。それが、私の個性」


顔を上げ、正面を……クラスメートを見る。
視界に入ったのは、不思議そうにしているクラスメート数人。


「英霊……?英霊ってなんだ?」

「英霊っていうのは戦死者の霊の事だ」


上鳴君の疑問の声に飯田君がそう返す。
なるほど、この世界ではそういう意味で通っているんだ。


「確かに飯田君の言葉は間違ってないよ。ただ、私の中で英霊という存在はかつて英雄や偉人と呼ばれた人達の事をそう言っているの」

「英雄……?」

「うん。英霊の力は強大。私の個性は簡単に人を殺せる。……他の誰よりも。だからヴィランはこの力を欲して、私を狙ったんだと思う」


サーヴァントみんなが生きていた時代は簡単に人を殺めていくものだったはず。今の世の中みたいに罰則もなかっただろうし、そもそも敵だったのなら褒められるような事だったはず。
……だから私は気をつけなければならない。この個性の使い方を。向き合い方を。


「じゃあさっき苗字を抱えてた白い髪のイケメンも英霊って事?」

「!……彼を見たんだ」


瀬呂君の言葉を聞いた限り、思ったより彼を見た人は多いらしい。


「折角だし紹介するよ。……出てきて、四郎ルーラー


どうせ近くにいるんでしょ?
そう思っていつもなら抑えていた声を普通の声量で出し、四郎を呼ぶ。

自分の隣…誰もいない空間が歪み、赤い羽織が見えた。
やっぱり近くにいた。
隣に現れた人物を手で指しながら口を開いた。



「彼が先程言った英霊と呼ばれる存在の1人・・……そして私は彼らの事を”サーヴァント”と呼んでいるの」

「サーヴァント、裁定者ルーラー。マスターに仕えるサーヴァントの一騎です、どうぞ宜しく」



誰もいない場所から突然現れた四郎に、クラスメートは驚きの声をあげる。


「一人、って事は他にもいるのか……?」

「うん。実際に、今日遭った事で擬態していたサーヴァントは彼ではないよ。体力テストの時と昨日のヒーロー基礎学の時も別のサーヴァントに擬態してたんだ。サーヴァントは彼を含めて11騎いるの」

「は!?その英霊って人達すっごい力を持ってるんだろ!?それが11騎って……!!」

「そ、そうだね。正直私もこの個性を使えるようになるには時間かかったよ」


切島君と上鳴君の質問攻めにちょっと圧を感じる。
そう思っていると腰辺りに違和感が。


「この人達煩い。……おかあさん、わたしたち疲れちゃったから早く帰りたいな?」


視線を向けると、明るい緑色の瞳がこちらを見上げていた。
今日の護衛として来ていたジャックだ。
言っている事から考えると、私の魔力の一部として力を貸してくれていたのだろう。


「もうちょっと学校にいなきゃいけないの。これから事情聴取もあるし」

「そうなの?」

「うん。だからもう少し我慢できる?帰ったらうんっと遊ぼうね」

「遊んでくれるの!?わあい!!」


喜ぶジャックを見てニマニマと口を緩ませていると、教室が静まり返ってることに気付く。
前を見ると、ジャックと四郎を交互に見るクラスメート。
そして私を見た。


「お母さん……?」

「え?」

「その女の子、名前ちゃんの子供なの!?」

「えぇっ!!!?」


お茶子ちゃんの発言に思いっきり叫んでしまう。


「どう考えたら私の子供になるの!?」

「だ、だって髪の毛白いし……」

「私の髪は白くないよ!?」

「いや、そっちの男の人……」


三奈ちゃんが指を指したのは四郎だ。
隣にいる四郎を見ると目が合った。どうやら私をずっと見ていたらしい。


「アサシンがマスターと私との子、ですか……。それはそれで面白そうですね」

「何言ってるの!!?」


その爽やかな笑みを向けるな!!?
なんで否定してくれないの!!?


「何を今更。そういう関係でしょう?」

「どういう関係よ!?話を拗らせるな!!?」


た、確かに契約を交わした関係ではあるけれど!!
目の前のこの男は絶対に楽しんでる!!!

四郎を睨み付けていると服を引っ張られる感覚。
視線を向けるとそこには涙を溜めてこちらを見上げるジャックが。


「おかあさん……。わたしたちの事、嫌いなの……?」

「ああっ、そんな訳ないでしょ!?こらっ、しろ……ルーラー!!」


危ない……、うっかりいつものように名前で呼ぶ所だった。
ジャックを抱きしめながら未だにニコニコとこちらを見る悪魔を見上げる。
貴方キリスト教の人間じゃなかったっけ!?
このままでは勘違いされたまま終わってしまう……!とりあえず誤解を解かなければ……!!


「こ、この子も私に仕えてるサーヴァントの一人なの!!決して私の子供ではないから!!!」

「名前ちゃん必死やね」

「そりゃ必死になるよ!!」


普段からジャックは私の事を『おかあさん』と呼ぶ。初めは呼ばれる度に気恥ずかしさを感じていたが、ずっと呼ばれていると慣れてしまうものだ。……・クラスメートの反応が正しいです、はい。


「わたしたちはおかあさんに仕えるサーヴァントの1人、アサシンだよ。おかあさんを傷つける人は解体するよ」

「何この子怖い!!!!」



ジャックもジャックで個性が強かったんだった……。
思わず溜息をついて額を抑えてしまった。



***



あの後、ジャックが私をおかあさんと呼ぶ理由をきちんと説明しておいた。
このまま誤解されたままだと色々と面倒だからね!!あと社会的に私が死んじゃう!!!
不満そうだった四郎の顔は幻……、きっと幻だ………。


「でも、どうしてその事を隠してたの?」


梅雨ちゃんがそう私に問う。
女子のみんなには男子のみんなより先に話していたけど、隠していた理由は話していなかった。


「今日のような事が起こらないため、かな。親にも言われてたの、私の個性は例がないから注意しろって。結局バレちゃったけど」

「でもどこでその情報が漏れたんだろうな……?」

「雄英高校にはうちの両親の知り合いがいるらしくて。その人に事情を話してたから学校側は私の個性を知ってると思うの。今日のヴィラン襲撃みたいにオールマイトがここに来るって事と一緒に、私の個性についても見られちゃったのかも」


切島君の言葉に自分の推測を話す。


「緑谷ちゃんが言ってたんだけど、もしかしたらヴィランは私達の個性を知らなかったと思うの」

「そうなの……?」

「ええ。私は水難ゾーンに飛ばされたんだけど、私の個性を知ってたら火災ゾーンに飛ばされてたはず」


梅雨ちゃんは水難ゾーンに飛ばされてたんだ……。
と言うことは、一緒にいたいーちゃんと峰田君もそこに飛ばされたって事か。
ならばヴィランはどこで私の個性を知ったんだろう……。


「あれ、そういえばいーちゃんは?」


個性の話となればすぐに食いついてくる幼馴染みがいないことに今気付く。



「保健室に運ばれたみたいだよ」

「そ、そっか」


私の疑問にお茶子ちゃんが教えてくれた。
もしかしてリカバリーガール先生が私をさっさと追い出したのはいーちゃんが来るからだったのかも知れない。
あれ、でも保健室のベットにはまだ余裕があったよね?
それにしてもいーちゃんも怪我して………!!


「……! 相澤先生は!?」

「入院してるってさ。命に別状ないみたいだぜ」

「よ、良かった〜……っ」


切島君の言葉に安堵の声が出た。
私が力不足だったが為に相澤先生に迷惑をかけてしまった。
そうだ。明日にでもお見舞いに行こう。何を買っていったら先生喜ぶかな?





2021/07/04


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