第9節「敵連合」
「……ん」
目を開けると視界に入ったのは天井。
見覚えがある。この天井は保健室だ。入試以来だな、と暢気な事を考える。
「気がつきましたか、マスター」
「えっ、なんで……」
視界に入ったのは四郎だった。
あれ、なんで姿を……?
「マスターが呼び出したんでしょう?」
「あっ、そうだった……」
「全く……」
敵に知られちゃったから、隠しても無駄だと判断して呼び出したんだった……!
「起きたかい?なら早く出てっておくれ。次の怪我人が来るからさ」
「し、失礼しました!!」
確かに、目が覚めたのならもう保健室にいる必要は無い。
それにあんなことが遭ったんだ。他に怪我人が運ばれてきて当然だ。
出る前にリカバリーガールにお礼を言って、保健室を後にした。
更衣室まで歩き、四郎に霊体化するように言って入った。
「えっ、苗字……?」
そこには着替え中のクラスメートがいた。
まさか中にいるとは思わず固まってしまった。
「わっ」
「良かった〜……っ、無事で良かったよ〜……っ」
飛びついてきたのは麗日さんだった。
大きな瞳には涙が溜まっており、本当に心配してくれているのが分かった。
「うん。リカバリーガール先生に治して貰ったから大丈夫だよ」
「本当に心配したわ。あんな怪我をしていたから……」
「見ての通り、本当になんともないよ」
曇った表情をしている梅雨ちゃんに無事なことを身体で表現する。
嘘ではない、本当になんともないのだ。
「あのね名前ちゃん。私、気になることがあるの」
「?うん、何?」
制服に着替えながら梅雨ちゃんにそう答える。
「敵が言っていたお姫様___『英霊を束ねる姫』って貴女の事じゃないの?名前ちゃん」
梅雨ちゃんの放った言葉に動きが停止する。
「もしかして名前ちゃん、私達に何かを隠しているんじゃないの?」
振りむけなかった。
もしみんなに敵の仲間なのでは、と言われたらどうしよう。
そのことが怖くて振り向けないでいると、
「話してよ。……私達には、言えないこと?」
私の肩を誰かが叩いた。
恐る恐る横を見ると
「うららか、さん……」
「『お茶子』で良いよっ、名前ちゃん!」
ニコッと効果音がついてそうな笑みを向ける麗日さ……お茶子ちゃん。
いーちゃんは純粋に彼女と仲良くしてるだけだ。……急に一緒にいられなくなったくらいで落ち込むな私!
「梅雨ちゃんの言う通り、私はみんなに隠し事をしてる。……本当はずっと隠し通す気でいた」
「聞かせてよ。……ウチら、仲間でしょ?」
響香ちゃんの言葉に目を丸くしてしまう。
「疑わないの……?私が敵の仲間とか、そういうの……」
「それでしたら、真っ先に緑谷さんと爆豪さんとの関係を疑いますわ」
「!そ、っか……」
一番疑われていそうだった百ちゃんにそう言って貰えて、気持ちが軽くなった。
言おう。もう隠し通せないのだから。
「私がみんなに隠していたこと。それは……”個性”の事だよ」
「個性?」
「うん。みんなには空想の職業になりきれる個性だって説明したけど、本当は違うんだ」
真っ直ぐ正面を見る。
視界には女子のみんなが入る。
「私の個性。それは___」
第9節「敵連合」 END
2021/07/04
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