第9節「敵連合」


side.天草四郎時貞



発生した土煙。
その中からオールマイトさんが現れる。

風魔小太郎アサシンが入手した情報では、オールマイトさんは以前より弱まっているとの事でしたが……。


「あれが弱まった状態とは、到底思えないですが」


遠くに見える靄の敵がこちらをチラチラと見ている。
そんなにマスターが欲しいか、ヴィランとやら。
……恐らくマスターは自分が狙われた理由を分かっていないでしょう。

マスターが狙われた理由
それは間違いなくサーヴァントわたしたちだ。
彼らがどこで私達の存在を知ったのかは分からない。
だが、私達が仕える存在であるマスターさえものにしてしまえばサーヴァントわたしたちを手に入れる事ができると思ったのでしょう。……愚かな。


「……!」


視界に見えたのは、靄の方ではない敵。
最初の方は怯えていたようにも見えましたが……あの靄の敵が諭しましたか。
明らかに自分に敵意があり、今まさに殺しに向かってきているというのにオールマイトさんは動かない。
これは、今のマスターと同じ状態……キャパオーバーというものでは。
何とかしてあげたいですが、残念ながらこの場所からでは攻撃が届くまでには間に合わない。


「……あの方は」


敵とオールマイトさんの間に誰かが割り込んできた。……その人物は、緑谷さん。
あの速さ……、私より早いかもしれない。


「……何も考えないで突っ込んでいく。見たところ、色々考えていそうな人に見えますが……」


靄の敵の個性とやらで、緑谷さんの顔の所まで敵の手が伸びていた。
これは流石に拙い。反射的に黒鍵を取りだそうと思った瞬間


「銃声……?」


その音に後ろを振り返る。


「ごめんよみんな、遅くなってしまって!すぐ動ける者をかき集めてきた!!」

「1-Aクラス委員長、飯田天哉!ただ今戻りました!!」


増援、か。
なるほど。だから敵はどこか焦っている節があったのですね。
これならもうマスターが今の時点で・・・・狙われる心配はなさそうです。


「あら?貴方うちの生徒では……!!」


話しかけてきた女性は、私の腕の中にいるマスターを見て目を見開く。
そして私を見た。


「貴方はもしかして……紗菜さんが言っていた『英霊』……?」


女性の言葉に頷く。
事前に聞いていた雄英高校の教師の中でサーヴァントわたしたちを知る存在なのだろう。


「苗字さんの状態は……?」

「キャパを超えて、回復の為に眠っています」

「だけど、苗字の怪我酷かったぞ!!?何故か消えちまったけど……」


女性にマスターの状態を説明していると、先程の少年が涙を溜めながら答えた。


「ええ。それに、妙な格好してたし……」

「妙な格好?」


緑色のボディスーツを着用した少女が私にそう言う。
まあ今マスターが着用しているコスチュームとやらも気になりますが。
だってこれ、完全にカルデアの魔術礼装ですよね?まあデザインだけみたいですが。


「前から名前ちゃんの個性は不思議に思ってたんだけど、今回は特に気になって。鎧を身につけてて、身体には妙な赤いものが浮かび上がってて……」


……聞き覚えのある特徴ばかりですね。


「その鎧は何色だったか覚えてますか?」

「金色だったぜ!あと、めっちゃエロ」


なるほど。……また報告しなければならない事が増えましたね。
まずは鎧を身につけていて、身体に赤いものが浮かび上がっていた事。これは間違いなく英雄王のことでしょう。
と言うことは、マスターは英雄王に擬態して戦っていたと言う事ですね。
……しかし、擬態したとしても影響があるのは髪と瞳の色のみだとマーリンが言っていたはず。いや、これはマスターに変化があったと考えるのが正解だろうか。

それともう一つ。この少年、完全にマスターを見る目がダメですね。要注意人物として報告しておきましょう。今回マスターを狙ってきたヴィランと一緒に。


「見たところ、怪我はなさそうね」

「はい。擬態中は我々が代わりに受けていますから」

「だから名前ちゃんの怪我が消えたのね……」


この少女はマスターの怪我していた所を見ていたのだろう。
女性の言う通り、マスターに怪我は見受けられない。そう、見ただけなら。

マスターが擬態中の場合、憑依しているサーヴァントが受けたダメージを代わりに受ける。……ただしそれはあくまで表面だけ。
元の状態になれば表上怪我していないように見えても受けたダメージ自体は残っている。
だからこそ、今すぐ休める場所へマスターを移したい。


「念のため保健室に連れて行ってくれるかしら」

「勿論です」

「あっ、でも保健室の場所とかは……」

「ご心配なく。マスターに仕える他のサーヴァントが既に調査済みです」

「聞いてたとおりの人達ね。……分かったわ、苗字さんをお願い」


女性に一度頭を下げて、私はマスターを連れてその場を後にした。



***



「16、17、18、19……。両脚重傷の彼と、先程保健室に運ばれたっていう彼女を除いてほぼ全員か」


ここにいないのはデクだけじゃねーのか?
刑事の言葉を聞いて思ったのはこれだ。
……そういえば彼奴の姿がない。


「とりあえず生徒らは教室へ戻って貰おう。すぐ事情聴取って訳にもいかんだろう」

「刑事さん。相澤先生は……?」


その声に耳だけ傾ける。
……どうやら命に別状はないらしい。


「13号先生は…っ?」

「治療は終わってる。背中から上腕にかけての裂傷が酷いが、命に別状なし。オールマイトも同じく命に別状なし。リカバリーガールの治癒で十分処置可能との事。保健室にいるよ」


黒目の言葉に刑事はそう答えた。


「デク君は……っ、名前ちゃんは!?」

「緑谷君は!?苗字君は!!?」


丸顔とクソ眼鏡の言葉に反応する。
……名前?デクの奴はまだ分かるが、どうして彼奴の名前が出てくんだ。


「緑……?ああ、彼は保健室の治癒で間に合うそうだ。苗字さんの方は先に保健室に向かったそうだ。聞いた話では怪我もなかったみたいだし、もう目を覚ましているんじゃないかな。さ、教室に戻って」


……名前が、保健室に運ばれた?
どういう事だ。彼奴に何か遭ったのか……?でも今は保健室で治療して貰っているはずだし、無事だろう。

思考を名前から外した瞬間、俺の頭を埋めたのはデクだ。
それにしても、あの時のデクの動き……。まるで……


「……チッ」

「爆豪ーっ!教室行けってよ!!」

「分かってるよクソが!!」


クソ髪にそう言い、俺はバスへ向かった。





2021/07/04


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