第9節「敵連合」



武器を射出して、相手に確実にダメージを与えて戦闘不能に追い込む。
まだ相手が私を子供だからと嘗めているからやりやすい所はある。


「はぁ……っ、はぁ……!」


流石にこの数のヴィランを相手にしていたら疲労は溜まる。
それも、擬態状態を保つにも魔力がいるわけで負担はかなり大きい。


「これで、最後……ッ!」


私の周りにいるヴィランで、未だに動けている者に武器を射出した。
その時


「……!」


明らかに私がやった攻撃で鳴った音ではないものが聞こえた。
そう、まるで何度も固い場所にいきものを叩きつける音……
えきたいの、音……!!


「ぁ……っ、あぁ……!!」


そこには巨大なヴィランがいた。
そして、そのヴィランの手には……!!


「あいざわ……、せんせ……っ」


昔の記憶がフラッシュバックする。
あの日、自分が如何に何もできない存在だと思い知った、あの日。



『貴女を……守れて、良かった』



かつて契約を交わしていたあるサーヴァントが、光に包まれながら私に笑いかける光景が流れた。
また何も出来ないまま、その結末を見届けるの?
そんなのいやだ……っ、いやだ……!!



「___先生を……離せ」



気付けば私は巨大なヴィランに向かって大量の武器を飛ばしていた。
生々しい音を立てながらヴィランに武器が刺さっていく。



「苗字……っ!」



ボロボロな状態である相澤先生の声が聞こえた気がした。



「素晴らしい……!!これが”お姫様”の力なんだね……!!」



巨大なヴィランが位置する場所から少し離れた所で、顔に手のような形をしたものを付けた男が笑う。
巨大なヴィランに武器を刺し、天の鎖で拘束する。
そのまま弾けてしまえ……!!!



「___え……ッ?」



信じられない光景が視界に入り、それと同時に怒りで一杯だった意識から我に返る。
天の鎖が、破壊された……?


「行け、脳無。俺たちの目的はオールマイトを殺す事ともう1つ。___英霊の姫、苗字名前の奪取だ」


気付けば目の前には巨大なヴィランの拳が私に迫っていた。
嘘でしょ……?あれだけの武器を受けていながら動けるの……?



「あぁッ!!!」



強い衝撃が私を襲う。
……巨大なヴィランの拳が私を襲ったのだ。


「ダメじゃないか脳無。彼女は殺しちゃいけないんだよ?」


何かに当たり、背中に痛みが走る。
水の音と植物の感覚……。たしか、中心には噴水があったはず。
その場所まで吹き飛ばされたのか……!


「初めまして、英霊を束ねるお姫様」

「!!!」


英霊……?今、英霊って言った?
私の個性を知っているの……?

そう脳が判断した瞬間に、反射的に門を開いて武器を射出する。
だが、それを読んでいたかのように目の前のヴィランは攻撃を躱した。


「どうして、その言葉を……!」

「君がこちらにいるべき人間・・・・・・・・・・だからさ」


門を次々に開けて武器を射出するが、全て躱されていく。
く……っ、天の鎖は破壊されてしまった。しばらくは呼び出せない……!!


「!!なんで……っ」


隙を見て門を開き、武器を射出したのに攻撃はあのヴィランに当たらず、巨大なヴィランに当たったのだ。


「残念だったねお姫様。こいつに……『脳無』には効かないよ」



よく見ればさっきまで大量に刺さっていた武器がなくなっている。
所々に自身の血液であろうものが付着している。……効いていない訳がない……!!


「ッあ゛ぁっ!!!」

「動けない程度にダメージを与えるんだ。……お姫様の力は強いからね、また怒らせちゃったら今度こそ殺されちゃうかも」


脳無と呼ばれたヴィランが私の腕を拘束する。
そして手をこちらへ伸ばしてきて……私に触れた。


「……チッ、脳無」


ヴィランがそう口にした瞬間、拘束が外れる。


「ぐああッ!!」


遠くで聞こえた声。……相澤先生の声だ。
あのヴィランの手が触れる瞬間、個性を発動してくれてたんだ……!


「さて、これで邪魔はなくなった。……痛いけど、我慢してね?お姫様」

「っ!?ひぐっ……」


あまりにもの痛みに視界がぼやける。
私のお腹に触れたヴィランの手。そして、徐々に広がるひび割れ。


「何もない場所から武器を飛ばす……。すごい個性だけど、君の考えはわかりやすい」


奇襲はもう効かない。
今の攻撃で脳がそう判断してしまった。
それに、ヴィランの個性で受けたダメージが大きすぎて、もう立てない。
身体が地面へと近づいて行く。


「『死柄木 弔』」


どこかで聞き覚えのある声が聞こえた。
そうだ……出口の所に現れた靄のヴィランだ。


「『黒霧』。13号は殺ったのか」

「行動不能にはできたものの、散らし損ねた生徒がおりまして……。一名逃げられました」


ヴィラン達の会話が耳に入ってくる。
その言葉を良い意味で捉えるとしたら……?


「誰かが、施設外へ……出られた……?」


良かった、応援が来る……!!!


「流石に何十人のプロ相手じゃ適わない、ゲームオーバーだ。まあでも、お姫様は連れて行けそうだし……帰ろっか」


帰る……?
これだけの事をしておいて、帰るって言ったの……?


「あっ、そうだ。帰る前に……平和の象徴としての教師を少しでも___へし折って帰ろう!!!」


ヴィランが、素早い動きで目の前から消えた。
どこだ、どこに………!!!


「どうしてあんな所に……!」


ヴィランの姿を捉えた、と思えばそこにはクラスメートが。
ダメだ、あのヴィランの手に触れられたら私と相澤先生みたいに……!!


「来い……ッ、天の鎖……!!」


門を開け、天の鎖を射出する。
天の鎖はヴィランの腕に巻き付いた。


「本当、かっこいいよイレイザーヘッド……。そんなボロボロの状態でも仲間の為に力を使うお姫様……。本当、かっこいい」


静かな空間にヴィランの声が聞こえた。
視界に端に入った人物に目を向ける。
相澤先生だ。あんなにダメージを受けながらも個性を発動させていたんだ。


「っ、」


あのヴィラン、天の鎖を個性で崩した……!
なるほど、すぐに崩せる訳ではなく徐々に崩していく個性って事か……!
だから私のお腹もすぐに崩れる訳ではなく、徐々に崩れていったって訳か……!


「!う……ッ」


突如、風圧が私に当たる。
これは、いーちゃんの個性……?
風圧が収まったので、目を開ける。


「!!!」


なんと巨大なヴィランが男性の前に立っていたのだ。
そしてその巨大なヴィランと対面しているのは……!


「いーちゃん……ッ!!」


やめて……
お願い、やめて……っ!!

巨大なヴィランの拳がいーちゃんに向かって振り下ろされそうになった瞬間だった。



「……?」



突然響いた大きな音。
大きな音に私は勿論、ヴィラン達も反応して固まった。


「オールマイトッ!!!」


誰かがその名を呼ぶ声が耳に入る。



「もう大丈夫___私が来た!!!」



聞き覚えのある声が響き渡った。
オールマイト先生が来てくれたんだ!


「?!」


急な浮遊感に驚く。


「大丈夫かい、苗字少女」

「おーるまいと、せんせ……」

「怪我が酷い。……喋らない方がいい」


どうやら私はオールマイト先生に抱えられているようだ。
視界の端には相澤先生の姿も見える。
一瞬にして私と相澤先生を助け出すなんて……。


「え?えっ?」

「みんな、入り口へ!相澤君と苗字少女を頼んだ。……相澤君の意識がない。それと、苗字少女の出血量が多すぎる。早く!!!」


いつの間にか下ろされていいた私。
近くには負傷して意識がないと言われた相澤先生と


「名前ちゃん……!!」

「酷い怪我だわ……っ」


いーちゃんと梅雨ちゃん。そして、


「どうしたんだよ苗字っ、その怪我ぁ……!!」


私の姿を見て涙を溜めている少年、『峰田 実』君だ。
相澤先生をいーちゃんと峰田君が抱え、私は梅雨ちゃんに支えられる。


「名前ちゃん、その格好は……?」

「え……?」


梅雨ちゃんに言われ、自分の格好を見る。
……あれ、この格好よく見たらギルの武装したもの……!?
そう認識した瞬間、身体から金色の光が。……擬態状態を保てなくなったんだ……!


「元の姿に戻った……?」

「擬態し続けられなくなったんだと思う……」

「でも、さっきまでの怪我がなくなってる……」


梅雨ちゃんの言う通り、さっきまでの怪我はなかった。
だけど激痛は酷いままで、上手く動けない。


「黒霧、姫が奪われた。取り返せ」


その声が聞こえ、後ろを振り返る。
あの靄のヴィランがこちらへ向かってきてたのだ。

オールマイト先生は脳無と呼ばれたヴィランを相手にしていて迷惑をかけられない……!
それに、3人を更に危険な目に遭わせる訳にはいかない……!!


「名前ちゃんっ?!」


梅雨ちゃんが私の名を呼んだ。
……残り僅かな魔力を使って、サーヴァントを呼び出す!


「我が声に応じよ……っ、”天草四郎時貞ルーラー”……!」


令呪を発動させる。
赤い光が辺りを照らす。


「全く、何をどうやったらそのような怪我をされるんですかね」

「ッ!!?」


抱えられる感覚。
それと近くで四郎が攻撃を繰り出した音が聞こえた。
見上げると金色の宝石のように綺麗な瞳と目が合った。

私が残り少ない魔力で呼び出したのは四郎だ。
四郎は私を抱きかかえ、正面を向く。


「ほう……、黒鍵これが効くのですか」

「英霊を呼び出しただと……!?まだ呼び出せる体力があったか……!!」


聞こえてくる声を聞き取ろうとするが、魔力を減らしすぎた。もう意識を保てない……っ。



「眠って大丈夫ですよ。あとは私に任せてください」

「あり、がと……」


四郎の温もりを感じながら、私は意識を手放した。





2021/07/04


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