第7節「二人のリスタート」



「それでは、Aチーム対Dチームによる屋内対人戦闘訓練、スタート!!」


オールマイト先生の合図で演習開始。
いーちゃんと麗日さんのチームがヒーロー側、かっちゃんと飯田君のチームがヴィラン側だ。
さあ、どう出てくる?


「奇襲……!」


様子を窺いながら進んでいたいーちゃんと麗日さんの上からかっちゃんが現れた。
なるほど、確かにヴィランが……というより、敵がやりそうな行動である。私も前世ではこのような体験があるので、その行動はオールマイト先生がいうように考えられる策だ。

しかし、私が心配しているのはそこではない。
今の奇襲はどう見たっていーちゃんを狙っていた。
躱されたかっちゃんは、再びいーちゃんに向かって突っ込んでいく。


「!!」


しかし、いーちゃんはかっちゃんの動きを読んでいたかのように動きを止め背負い投げをしたのだ。
そっか、私とかっちゃん、いーちゃんはこのクラスの中では長い付き合いになる。それも、いーちゃんとかっちゃんは私よりも長い付き合いになるだろう。
だからこそ、いーちゃんはかっちゃんの動きを読めたんだ。

……もうあの頃の___私が守ってきたいーちゃんはいないのだろうか。
そう思うと、また少しだけ寂しく感じた。


「……大丈夫かな」

「?なんで?」



隣にいた三奈ちゃんが疑問の声を私にぶつける。


「昔からなの。……二人は仲が良くない、いや。かっちゃ……爆豪……うーん、勝己……が一方的に……」

「今更あだ名で呼んでるの隠さなくてもいいよ」

「昔からそう呼んでたから、つい……」


三奈ちゃんの指摘に苦い反応をしてしまった。


「爆豪の奴、何話してんだ……?」


私の隣にいた赤い髪の男の子がそう言う。
画面が見えるだけで会話は聞こえないため、何を話しているか分からない。
でもこれだけは分かる。……かっちゃんは苛立っている。いーちゃんに対して……!!

ずっと見てきたから分かるが、かっちゃんは自尊心の塊だ。
何事も完璧でないと気が済まない性格は、年齢を重ねるほどに肥大化していった。
かっちゃんは授業だという事を忘れている。もし、そのボルテージが上がってしまえば……!!


「ただの怪我で済まされない……!」


誰かが「何かすっげーイラついてる!こっわ!!」と言った声を耳に入れながら、逃げ回るいーちゃんと、逃げているいーちゃんを追うかっちゃんが映る画面を見つめた。

その状況から目を逸らし、視界に入った画面を見つめた。
その画面に映っていたのは、いつの間にか核兵器のある場所に来ていた麗日さん。

柱の陰に隠れて様子を見ていたようだが、どうやらバレてしまったらしい。
しかしそれは同じチームであるいーちゃんも同じ。


「……っ」


元々見ていた画面に視線を映すと、そこにはいーちゃんに攻撃をしようとするかっちゃんが映った。
遂にかっちゃんがいーちゃんを発見したのだ。
そしてかっちゃんは腕を真っ直ぐいーちゃんに向けた。


「!!爆豪少年ッ、ストップだ!!!殺す気かッ!!!?」


オールマイト先生の言葉に反応し、つい先生を……正確には小型無線機を見た。
オールマイト先生が付けている小型無線機を着けて、私も二人の会話を聞きたい。
……一体かっちゃんは何を言ったの?


「わッ!?」


突然の地響きでバランスを崩してしまう。


「大丈夫か!?」

「だ、大丈夫……っ。ありがとう……えっと」

「俺は切島。『切島 鋭児郎』だ。宜しくな、苗字!」


私の隣にいた赤色の髪の男の子は切島君と言うみたいだ。
どうやら切島君は私の名前を認知していたようだ。


「さっきの揺れは……?」

「両腕に付いてる篭手じゃねーか?緑谷に向けて構えてたし」

「そんな事ができるの……!?」

「爆豪がそういう要望を出していたならな」


かっちゃんの個性は『爆破』。
いーちゃんが纏めていたノートによると、掌の汗腺からニトロのような物質を出し、それを爆破させているらしい。
先程の切島君の言葉通り、あの篭手がかっちゃんの要望で作られたものならば、先程の爆発も納得がいく。


「先生、止めた方が良いって!爆豪、相当クレイジーだぜ!?殺しちまうぜ?!」

「お願いですオールマイト先生!試合を中断してくださいっ!!」


切島君に続いて、試合を止めてほしいとオールマイト先生に言う。
しかし、


「……爆豪少年!次それ撃ったら、強制終了で君らの負けとする!」


オールマイト先生は私が望んだ答えを出さなかった。
どうして……?オールマイト先生は何を考えているの……?
オールマイト先生が言うには、先程のかっちゃんの攻撃はヴィランとしても愚策だというが……。


「……っ!!」


その言葉ではかっちゃんを止められない。
両手を爆破させながら、かっちゃんはいーちゃんへ突っ込んでいった。
向かってくるかっちゃんにいーちゃんが殴りをいれようとした瞬間。


「目眩まし……!?」


いーちゃんの顔に小規模の爆破を放ち、その反動でかっちゃんは背後に回ったのだ。
そしていーちゃんの背中に向けてかっちゃんは個性を放った。


「考えるタイプには見えねェが……、意外と繊細だな」


後ろから聞こえた声に反応し振り返る。
そこには身体の半分が氷で覆われている男の子がいた。


「どういう事だ?」

「目眩ましを兼ねた爆破で軌道変更。そして即座に……もう一回」

「陥穽を殺しつつ有効度を加えるには、左右の爆破力を微調整しなければなりませんからね」

「才能マンだ才能マン……。やだやだ」


切島君の言葉に氷を覆っている男の子が答える。
彼に続いて百ちゃんも補足を言う。
黄色の髪の男の子がかっちゃんを『才能マン』と言ったが、確かに彼は才能マンと言えるだろう。

昔から何でもできる子だったから。
ただ突っ込んでいって、感情任せな所があるように見えて考えているのだ、かっちゃんは。
先程は驚いて考える暇がなかったが、もしかしたら先程の大規模の爆破もいーちゃんの横すれすれに放った可能性が高い。


「逃げてる!?」

「男のすることじゃねーけど……。仕方ないぜ。……しかし変だよなぁ、なんで一度も個性使わねーんだ?」


三奈ちゃんの言う通り、画面に映るいーちゃんはかっちゃんから逃げている。
しかし、何故いーちゃんは個性を使わないの?
切島君も疑問に思っている。まだこの戦闘訓練でいーちゃんはあの個性を一度も使っていないのだ。

何かを言い合ってる2人が画面に映る。
そして___互いに走り出した。
ダメだ、このままじゃ危ない!!


「オールマイト先生っ、止めてくださいッ!!!」


オールマイト先生の腕を掴み、悲鳴に近い声でせがむ。


「ヤバそうだってこれ!!先生!!!」


近くで切島君の声が聞こえる。
お願い先生、今すぐ……!!


「双方中…………っ!?」


オールマイト先生が中止の声を言い……途中で詰まらせた。
その理由が私には分かった。

___僅かに聞こえた声。……いーちゃんが麗日さんに合図を出す声が聞こえたからだ。
画面に視線を移した瞬間、


「建物が……!?」


いーちゃんが天井に向かって個性を使っていた。
その個性により建物の窓硝子は全て割れ、天井には大きな穴が開いていた。
いーちゃんとかっちゃんのいたフロアは砂埃でほとんど見えない。……2人はどうなったの?


「ヒーロー……、ヒーローチーム、WIN!!」


気付けばオールマイト先生がヒーローチームの…Aチームの勝利と口にしていた。
2人がいたフロアの画面は土煙が晴れて、勝ったいーちゃんが倒れて負けたかっちゃんが立っていた。



***



AチームとDチームが帰ってきて講評が始まった。
いーちゃんは怪我によりこの場にいなかったが……。


「まあつっても、今戦のベストは飯田少年だけどな!


オールマイト先生の発言に周りが何故?という反応をする。
かく言う私も、どうして飯田君なのか分からない。


「勝ったお茶子ちゃんか緑谷ちゃんじゃないの?」

「んー、そうだなー?何故だろうなー?分かる人!!」


梅雨ちゃんの質問に答えず、オールマイト先生は挙手を求めた。


「はい、オールマイト先生!それは飯田さんが、一番状況設定に順応していたからです」


真っ先にてをあげたのは百ちゃんだ。


「爆豪さんの行動は、戦闘を見た限り私怨丸出しの独断……。そして先程、先生がおっしゃっていた通り、屋内での大規模攻撃は愚策……。緑谷さんも同様。受けたダメージから鑑みて、あの作戦は無謀としか言いようがありませんわ」


さらに百ちゃんの言葉は続く。


「麗日さんは中盤の気の緩み。そして、最後の攻撃が乱暴過ぎた事。張りぼてを核として扱っていたら、あんな危険な行為はできませんわ」


百ちゃんが飯田君をまっすぐ見つめる。


「相手への対策をこなし、核の争奪をきちんと想定していたからこそ、飯田さんは最後対応に遅れた。ヒーローチームの勝利は“訓練”だという甘えから生じた、反則のようなものですわ」


百ちゃんの回答、的確だ。思わず感心してしまう。
百ちゃんの言葉に感激しているのか、飯田君すごく嬉しそう。


「ま、まあ飯田少年もまだ固すぎる節はあったりする訳だが……。まぁ、正解だよ!くぅ〜!!」


……何だろう。オールマイト先生驚いてない?もしかして、百ちゃんの回答が的確だったことにびっくりしてる?


「……」


かっちゃんはずっと下を向いていて、先程のような勢いはない。
何か声を掛けてあげたいけど、何を掛けてあげたら……。


「よーし、みんな場所を変えて第2戦を始めよう!今の講評を考えて、訓練に挑むように!」

「「「はいッ!!」」」


みんな移動を始めたが、かっちゃんはその場から中々動かない。
私はかっちゃんの元へ近づき、そっと彼の手を取った。


「いこ、かっちゃん」


こんなにも大人しいかっちゃんは初めてだ。
今はそっとしておいた方がいいかもしれない。無理に言って刺激するのは、彼の心を更に傷つけてしまう。
手を引く私に、かっちゃんはずっと黙ったまま付いてきていた。





2021/07/02


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