第7節「二人のリスタート」
グラウンドβ
「格好から入るってのも大事な事だぜ、少年少女!___自覚するのだ、今日から自分はヒーローなんだと!!」
目の前にはオールマイト先生がいて、こちらに笑顔を向けている。
……私、ヒーローらしいかな。
「あっ、デク君!」
麗日さんがいーちゃんの名前を呼んだ事に反応し、つい振り返ってしまった。
「あ……」
目が合った。
しかし、すぐに逸らされてしまった。
……今日は一言も話せないで終わるのかな。複雑だ。
「さぁ! 戦闘訓練のお時間だ!」
「先生! ここは入試の演習場のようですが、また市街地演習を行うのでしょうか?」
声からするに、飯田君だろうか。
飯田君がオールマイト先生にそう質問した。
「いや、もう2つ先に進む! 敵退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内の方が凶悪敵率は高いんだ」
なるほど。
いーちゃんと敵退治を見に行った事があるけど、屋内の方が多いのか。
お父さんの個性の関係もあって、火事現場や水難に呼ばれやすいので屋外のイメージが強かった。
という訳で今日の授業内容は、敵組とヒーロー組に分かれて2対2の屋内戦を行う事に。
しかし、このクラスは21人なのでどこかのチームが3人になるみたいだ。
「基礎訓練なしに?」
「その基礎を知るための実践さ!ただし!今度はぶっ壊せばOKなロボじゃないのが味噌だ!」
梅雨ちゃんの質問に回答したオールマイト先生の言葉に考え込む。
私の個性は対人戦の場合は考えないといけないな。ほとんどは簡単に人を殺せちゃうし。
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ぶっ飛ばしていいんすか」
「また、相澤先生みたいな除籍とかあるんですか?」
「分かれるというのはどのような分かれ方をすればよろしいでしょうか!」
「このマントヤバくない?」
「ん〜ッ!!聖徳太子〜ッ!!」
……みんな一気に質問を投げかけるな……。オールマイト先生大変そう……てか、最後質問じゃないし!?
「カ、カンペ……」
オールマイト先生が取り出したものを見て苦笑いしてしまう。
状況設定は、敵がアジトのどこかに核兵器を隠していて、それをヒーローを処理しようとしている。
時間内に敵を捕まえるか核兵器を回収するかでヒーロー側の勝ち。
敵側はヒーローを捕まえるか核兵器を守り切るかで勝ちのようだ。
「さ、くじ引きの時間だ!」
さて、いよいよチーム分けだ。
飯田君が適当にチーム分けする事に驚きの声をあげていたが、いーちゃんによるとプロヒーローは他事務所のヒーローとチームアップとかがあるようで、それも踏まえたものではないか、と言っていた。
流石ヒーローオタク、ヒーロー関連については物知りである。
それに対して私は、両親がプロヒーローなのに全く知らない……。悲しくなってきた。
「名前ちゃん!同じチームだよっ!」
「へ?……あ、透ちゃん?」
急に肩を叩かれ、振り向いても誰もいなかった……と思ったら手袋があった。
なんだ、透ちゃんか……。
「うん!あと、尾白君も一緒!」
「じゃあここが唯一の3人チームだね!宜しくね、尾白君!」
「宜しくな苗字さん」
透ちゃんと私が話している間に近づいて来た男の子…『尾白 猿夫』君。
この3人で1チームだ。
さて、次に決めるのは対戦チームだ。
「最初の対戦相手はーーーッ!?」
オールマイト先生が『VILLAN』と書かれた箱と『HERO』と書かれた箱に手を突っ込む。
最初の対戦チームは___
「こいつらだ!!」
「AとD。……えっ」
オールマイト先生が引いたくじのチームに短く驚きの声を出してしまった。
だって、AチームとDチームは……
「いーちゃんと、かっちゃん……っ!」
2人がいるチームからだ。
「他のものはモニタールームへ向かってくれ!」
「「「はいッ!!!」」」
私はオールマイト先生の指示に返事するのを忘れる程に固まっていた。
「名前ちゃん?モニタールーム行こーよ!」
「あっ。……うっ、うん!」
透ちゃんのお誘いに返事をし、移動しているクラスメートの列に混ざる。
……不安だ、不安しかない。
「……」
今のかっちゃんは私と同じでいーちゃんに対しての認識に混乱している。
私はまだ割り切れてないが、かっちゃんは私のように悩む人間ではない。……それがいーちゃん絡みなら尚更。
私が同じチームだったなら止めに入れる……と思うけど、これは授業だ。流石にかっちゃんも抑えてくれるはず。
それにいーちゃんとかっちゃんだけがその空間にいるわけではない。飯田君と麗日さんもいる。
「……何も、なければいいけど」
一度振り返って幼馴染み2人を見て、モニタールームへ続く道を歩いた。
2021/07/02
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