第5節「入試」
推薦入試が終わって数日経った頃。
……それは突然だった。
「名前。話があるの」
帰宅するとお母さんが出迎えてくれて、そう私に言った。
……何かあったのかな。
そう思い、私は荷物を自分の部屋に置いてリビングルームへと向かう。
「あれっ、お父さん!お帰りなさい!」
「ただいま。名前、お帰りなさい」
「ただいま!」
今では当たり前になってきたこの挨拶。
前世での私には考えられない事だったな、としみじみ思う。お母さんが「座って」と言ったので、二人と対面するように向かい側の椅子に座った。
「もしかして、試験結果が届いたの……?」
「いいえ。まだよ」
なら何の話があるというのだろう。
この空気は試験に落ちたという重い空気ではないのか……?
「単刀直入に言うわね。名前___貴女には雄英に行って欲しいの」
お母さんの言葉に一瞬思考回路が停止する。
……今、なんて言った?雄英?
「ま、待ってお母さんっ。どうして雄英なの?二人は前に士傑高校卒業生だって言ってたじゃない!どうして出身校でもない雄英高校を……?」
私は両親が士傑高校出身だったからそこに進学しようと思った。推薦の話も頷いた。
そして両親も喜んで了承してくれたから、完全に士傑高校に進学する気でいた。……なのに何故?
「名前の個性は特殊だからね。役所には『擬態』として提出しているけど、前にも言ったようにその個性は強力なものだ。……敵に狙われて当然なんだ。現に前の事件で狙われたらしいしね」
「うぐっ」
お父さんの言葉にビクッと反応してしまった。……エルキドゥ、話したな!?
お父さんが口にした事件というのは、あのヘドロ敵の事件…通称『ヘドロ事件』である。
お父さんとお母さん、かっちゃんはこの事件の被害者に私がいたことを知っている。
後から聞いた話なんだけど、いーちゃんもあの事件現場にいたようで私が敵に捕まっていることを知ってたみたいだ。
そして、私とかっちゃんを助けようとして敵に向かって行ったということも。まあ、オールマイトが来てくれたので無事だったみたいだけど。
「つまり……、私の個性が敵にバレた時の事を考えて、雄英に行って欲しいって事?」
「理解が早くて助かるわ」
私の個性はかなり特殊みたいで前例もないらしい。
私が元々過ごしていた世界では個性である擬態という点を除けば普通……まあ、私が暮らしていた場所では普通だったけど。
「雄英高校にはプロヒーローが教師として勤務しててね。私達が信頼しているヒーローもいるわ。前に貴方の個性の事で相談したら雄英で預からせてほしいって言ってくれたの。……どうかしら」
「それに、万が一名前の個性が暴走したときに対策できるヒーローもいる。……世の中には様々な個性の人間がいるからね、ストッパーになれる個性のヒーローがいると僕達も安心できる」
お父さんとお母さんの言う通りだ。
まだ知らないだけで、個性というものは様々なものがある。
中には私の身体の操作権を奪うことができる個性を持つものもいるかも知れない。
それだったら両親の信頼しているヒーロー達がいる雄英に行った方がいい。
「分かった。私、雄英に行く」
「ええ。雄英なら貴方を安心して任せられるわ」
「でも士傑高校の推薦どうしよう……」
「期間はまだあるだろう?名前の成績と実力なら大丈夫だと思うけど、もしもの時は士傑高校だな」
私の事を考えてくれる両親には本当に感謝しかない。
最初は両親の事を赤の他人のような意識を持っていた。
今は本当の親として見れてる……と思う。
だから、両親には心配をかけたくないし、両親の名に傷がつくような真似はしたくない。
「あっ、こういうのってコネクションって奴にならないかな……っ」
「大丈夫だよ。そんなもの使って入れるような学校ではないからね」
「そ、そうだよね!」
さて、雄英高校の受験の為にまた訓練と勉強をしなければ。
推薦入試が終わって暫くやっていなかった個性指導を頼みにマーリンの所へ行こうっと。
2021/04/29
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