第5節「入試」



あっという間にやってきた試験当日。
目の前には雄英高校が。


「……よしっ」


大丈夫だ、勉強もちゃんとやってきたし個性の方だってマーリンがみてくれた。
あとはその成果を出すのみ!
深呼吸して一歩を踏み出した瞬間


「あれ……名前ちゃん?」


その声に踏み出した足が停止した。
危うく転けそうになった所をなんとか立て直す。


「い、いーちゃん……っ!? お、おはよ!」


後ろから聞こえた声の主……幼馴染みの一人である緑谷出久こといーちゃんに挨拶をする。


「なんで名前ちゃんがここに?士傑高校の推薦受けたんじゃ……」

「じ、実は雄英も志望してたんだ〜ははっ、あははは……っ」


言えない……。個性の関係で雄英高校にシフトチェンジしたなんて……。


「そういえば、前から思ってたんだけど……」

「な、何?」


何とか誤魔化そうと思って考えて思い着いたのは、少し前から気になっていた事。
緊張した様子のいーちゃんの身体を隈無く見る。


「なんか、逞しくなったね?」

「へッ!!?」


長年彼を見てきたからこそ分かるが、前よりも体つきが逞しくなってるのだ。体育の時に露出する部分を見たら、明らかに筋肉が付いている。
……一緒に下校する事がなくなったあの日から、いーちゃんは相当鍛えたんだな〜と何故か近所のおばさんのような感覚になる。


「なんだか男らしくなったな〜って……いーちゃん?」


いーちゃんの顔を見るとびっくりするぐらいに顔を真っ赤にしていた。あれっ、私いけない事でも口走っちゃったかな!?
いや、今は二月だ。もしかしたら今日の為に頑張ってきたことが裏目に出て熱でも……!?


「いーちゃん、もしかして熱がある!?大丈夫!!?」

「だ、大丈夫!!熱じゃ!!ないよ!!!」


私が近づく度に交代していくいーちゃん。
熱って意外と意識してないと気付かなかったりするんだよ!?ちょっとおでこ触るだけだから!!
そう思っているといーちゃんの後から見慣れた姿が。


「どけ、デク」

「かっちゃん!」


現れたのは私にとってもう一人の幼馴染みである爆豪勝己ことかっちゃんである。
……そういえば、かっちゃんはあの事件…ヘドロ事件が遭った後すごく大人しくなったんだよね。
いつもならもっといーちゃんにつっかかっていくのに……。そう思っていると


「ぅわっ」

「行くぞ」

「えっ?あ、ちょっとかっちゃん……!!」


腕をかっちゃんに引かれ、その場にいーちゃんを置いて雄英高校に入ってしまった。




***



筆記試験を終え、いよいよ実技試験だ。
私の受験番号は出席番号の関係か、かっちゃんといーちゃんの間である。

……因みにかっちゃんは私が雄英高校を受験していた事に何も言わなかった。
きっと、来てて当然だと思っているんだろう。だって私に話しかける内容ずっと「雄英受けろ」だったもんね。


「受験生のリスナー!今日は俺のライブにようこそォ!!Everybody say “Hey”!?」


静まる会場。
そう言った人のテンションと会場の空気の差が大きすぎる……。
というより、受験なんだからこのテンションに付いていく人いないでしょ……。
だって雄英だよ?緊張している人の方が多いんだから……。あ、もしかしたらあの人なりのリラックス方法だったりして……?


「なら、受験生のリスナーに実技試験の内容をサクッとプレゼンするせ!!___Are you ready!?」


「Yeah!!」と言うが誰も反応しない。
しかし、私の隣に座る彼は違った。


「ボイスヒーロー『プレゼント・マイク』だ、すごーい……!!ラジオ毎週聞いてるよっ、感激だな〜……っ!雄英の講師はみんなヒーローなんだ……!」


誰なのかはすぐに分かる。……ヒーローオタクであるいーちゃんだ。彼の周りだけ世界が違う……。
もう片方の隣に座っているかっちゃんがいーちゃんに「うるせぇ」と注意するが恐らく届いていない。

で、試験監督の方…プレゼント・マイクによる試験の内容の説明を頭の中で整理する。
試験時間は10分。持ち込み可。
で、それぞれ指定された会場へ行くとの事……か。


「つまり、ダチ同士で協力させねェって事か。……おい名前、見せろ」

「うわっ」


私が持っている受験票を見て「Cか……」と呟くかっちゃん。言葉と行動が逆だよ……。


「名前ちゃんと会場違うんだ……。あっ、かっちゃんとも違う……。受験番号連番なのに二人とも違うんだ……」

「見んな殺すぞ」

「こら、かっちゃん」

「チッ、潰せねェじゃねーか……!」

「かっちゃん?」


ちょっとはいーちゃんに対しての態度が変わったかな?と思ってたけど相変わらずだ。私の注意など全然耳にいれてない。

それぞれの試験会場には『仮想ヴィラン』が配置されており、全部で3種類の仮想ヴィランがいるようだ。
倒すと設定されているポイントが加算され……ってあれ?


「質問よろしいでしょうか!!!」

「オーケー!」



私が疑問を抱いたと同時に質問の声があがった。
質問の声の主にスポットライトが当てられる。……これ目立つ奴だ。


「プリントには4種のヴィランが記載されています!」


どうやら彼も私と同じ所に目が付いていたようだ。
プリントには4種類の仮想ヴィランが記載されているのだ。
質問者の彼は誤載なのかとプレゼント・マイクに問い、


「ついでに縮れ毛の君!……先程からボソボソと…。気が散る!物見遊山のつもりなら即刻、ここから去りたまえ!!」


いーちゃんに注意の言葉をぶつけた。……嬉しいのはわかるけど、押さえようねいーちゃん。

質問者の彼にプレゼント・マイクはこう答えた。
もう1種類の仮想ヴィランは0Pヴィランであり、各会場に一体いるお邪魔虫的存在のようだ。


「必要の無い戦いは避けるべき、か」


説明を聞きながら、思ったことをボソリと呟く。


「俺からは以上だ!最後にリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう……。かの英雄、ナポレオン・ボナパルトは言った!『真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていくものだ』と!」


何となく分かってはいたけど、この世界にも英雄と呼ばれる存在がいたようだ。
こういうのって何とか世界っていうんだっけ?私には難しくてよく分からないや。


「更に向こうへ、Plus Ultra!!」


考えている間にプレゼント・マイクによる説明が終わってしまった。
それぞれが試験会場へ向かって行くのを見て、私も移動しようと立つ。


「……試験」

「?」


前に立つかっちゃんがボソリと呟く。
そして顔だけこちらを振り返り、


「ぜってェ落ちんなよ。……落ちたら許さねェ」


彼なりの応援だろうか。
私はそう受け取り、


「うんっ、当たり前!かっちゃんも落ちたらダメだよ?」


彼に応援の言葉を送った。
かっちゃんは鼻で笑った後、先に試験会場へ向かってしまった。


「さて、途中まで一緒に行こっか!」

「う、うん……っ」


不安そうな表情のいーちゃん。
私は彼の肩に手を置き、リズム良く叩く。



「憧れの人の学校に行くんでしょ?……頑張ろう?」

「!」


私の言葉は彼に届いただろうか。
そう思いながら、それぞれの試験会場への道を歩いた。





2021/07/2


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