第4節「敵」
「……マスター、君は良く分かっているはずだ。一般人の個性使用は禁じられている事を」
「分かってる。だけど、かっちゃんが傷つく姿を見過ごすことはできない……!」
例え、いーちゃんに対しての態度が酷いとしても。
私にとって大事な幼馴染みであるのは変わりないから。
彼が私を認めてからは、いーちゃん程ではないが一緒にいることが多かった。……小学生までは。
かっちゃんは年月を重ねるうちに性格が良くない方向へと向いてしまった。その事もあって中学に入ってからは段々話す機会が減っていた。
だけど、未だに私の個性を認めている所はあるようで、今日のように進路については会う度話していた。
かっちゃんがいーちゃんの何が嫌なのか私には分からない。
ずっと一緒にいた身としては仲良くして欲しいけれど、その日が来ることは0に近いと思う。
なにか決定的な変化をもたらす事があれば、二人の関係が変わるのかなって。
「……本当、マスターは変わってないよ」
「え?」
「そのお人好しって奴だよ。……危険なのを分かってても向かって行くから、尚更行かせたくない」
「でも、」とエルキドゥは言葉を続ける。
「そんな君だから、僕は仕えたいと思ったんだ」
「エルキドゥ……」
「僕はマスターの意思を尊重したい。……僕の力でいいなら、使って?」
エルキドゥは私の右手を取り、ギュッと握る。
「ありがとう、エルキドゥ。……借りるね、貴方の力」
右腕に令呪が浮き上がり、赤い光を放つ。
「___擬態、”槍兵”」
その言葉と同時にエルキドゥの身体が金色の光となって消える。
刹那、自分の身体にエルキドゥの魔力が入ってくる。
「……」
気配を感じる。
これが、エルキドゥのスキル“気配感知”の力か。
確かにこの気配はかっちゃんだ。
私はエルキドゥの保有するスキルの1つ“変容”を使って現在の服装を変える。
……確か前に、エルキドゥが武装した時に着ている衣をこのスキルで作っていると言っていたので、ありがたく使わせて貰う事に。
制服のまま行くと色々まずいし。
「待っててね、かっちゃん」
今助けるから。
私は煙が立っている場所……商店街に向かって飛んだ。
***
エルキドゥの飛行速度は凄く速いとは言えないが、それでも走るより飛んだ方が速い事に変わりない。
「……見えた」
視界に入ったのは、あのヘドロ敵だ。
そして、その敵の身体の中に一人の少年の姿を捉えた。
「……かっちゃん」
金色の鎖を出現させてかっちゃんの身体に巻き付かせる。
そう、あの敵からかっちゃんを引っ張り出す作戦だ。
力一杯引っ張ってみるも、あの敵は意外と力があるらしく、びくともしない。
「!! 誰だ!!!」
……気付かれた!!
敵はかっちゃんの身体に巻き付いた鎖を伝って、ヘドロをこちらに向かわせてきた。
私まで取り込まれてしまえば意味が無い。そう判断し、一度鎖を消滅させる。
そうだ、オールマイトさんのようなあの風圧があればかっちゃんを助けられるはず……!
私は向かってくるヘドロで形成された腕に衝撃波を飛ばす。
「……っ!」
腕はヘドロとなって飛び散ったが、肝心のかっちゃんがいる本体部分には何の変化もない。
ダメだ、私の出す衝撃波ではオールマイトさんのように吹き飛ばせない……!
「そこの子!さっきの奴、もう一回やれないか!?」
どうやってかっちゃんを救い出そうか考えていた時、声が聞こえた。その方向へ振り向くと、ヒーロー達が私を見上げていた。
そうか!私独りでは難しくても、他の人の力があればかっちゃんを引っ張り出せるかも知れない……!
「分かりました!」
突然乱入した私に注意はなかった。
恐らく、かっちゃんを助けられる可能性に懸けたいのだろう。
私はそれぞれヒーロー達がいる場所から鎖を出現させて、その鎖をかっちゃんに巻き付かせる。……いや、巻き付かせようとした。
「っ!?」
なんと、敵が爆発したのだ。……この敵に爆発する力があるわけない。
では、かっちゃんが抵抗している?いや、視界に映っているかっちゃんは恐らく意識が朦朧としていて、意識があるだけでも奇跡な状態なはずだ。
なら、考えられるのは……。
「かっちゃんの身体を既に取り込んでいる……?」
それだったら引きずって助けられなかった事にも納得がいく。
だとしたら、あの敵はかっちゃんの身体を乗っ取った事で思うように操る事ができていると考えられる訳で。
「ッ!!」
考える事に集中した所為か、敵の手に掴まってしまった。
「お前か!あの鎖を使っていたのは……って、あの時の……!」
どうやら擬態状態でも私だと敵は気付いたようで。
敵はニヤリと笑ってこう言った。
「その個性があれば更に…そうだ、お前の身体も乗っ取ってやろう……!」
「っ!」
纏わり付くヘドロ。
なんとか抜け出そうともがくが、それは逆効果だと言うようにヘドロは私を取り込んでいく。
「!!」
擬態が強制的に解除された。____擬態状態を保つほどの魔力が残っていなかったんだ。
それに気付いた瞬間、私の身体は一気にヘドロ敵に取り込まれてしまった。
「そんな……っ」
段々と呼吸ができなくなり、自分の意思に反して瞼が閉じていく。
薄れゆく意識の中
「名前……!」
かっちゃんが私の名を呼んだ気がした。
2021/04/29
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