第4節「敵」



「まさか、掴まって行っちゃったとは……。仕方ない、帰ろっかエルキドゥ」

「そうだね」


エルキドゥから伝えられた真実に暫くポカーンとしていたが、漸く事態を受け入れられた。
憧れの人と会えたんだ。今は彼の思うようにさせておこう。


先に帰ろうかと言うと、エルキドゥはその場で服装を変えた。
先程まで来ていた服装と違い、エルキドゥはセーラー服を着ている。……恐らく私の服装を真似たのだろう。似合ってる、可愛い。



「前に性別がないって言ってたけど、本当にどっちの服装も似合うよね。羨ましいなぁ」

「そうかな?ありがとう、マスター」



端からみれば女子中学生……いや、女子高生か……?しかし学生に見えるのは間違いないだろう。
学校でのポジションは、顔が良すぎて近づけない高嶺の花だ。絶対。



「しかし、先程のヴィランはやりづらかったなぁ……。僕もまだまだだという事だね」

「相性が悪すぎたんだ、仕方ないよ。でも、オールマイトさんが倒してくれたんだから良かったじゃない?」



そう言葉を掛けたが、エルキドゥの表情は曇ったままだ。



「……僕はマスターの指示に応えられなかった」



どうやら、いーちゃんを自分の力で助けられなかった事、私の指示に応えられなかった事を引きずっているらしい。



「相性良い悪いは、様々な形ではあるけどどこにでもある。前の世界でもそうだったでしょ?」

「……うん」

「私の采配がダメだったんだ。それに、暫くの間”敵”や”戦い”というものから遠ざかっていたから。……忘れかけてたんだ、平和な日常のお陰で」



これは本当に思っていたことだ。
前の世界では戦いは当たり前だったから。この世界ではオールマイトさんのようなヒーローの存在のお陰で平和な日常を送れている。だから忘れていたんだ。
いくら平和だからといって、悪い人がいないわけではないという事に。



「もっとしっかりしないと。こんなんじゃ、ヒーローになる以前に誰も守れないや」

「マスターは僕にずっと守られていてほしい。……だけど、マスターの意思を邪魔したくない」



私の手をエルキドゥが握る。
エメラルドのような綺麗な瞳と目が合う。


「ヒーローになることに反対はしない。……だけど、無茶なことはしないで欲しい」

「……うん」



エルキドゥの言葉に頷いたと同時に遠くから爆発音が鳴り響いた。



「……まさか、ヴィランが出たのかな」

「もしかしたら彼もいるかもね」

「よしっ、いーちゃんと合流だ!」



私は「連れて行ってくれる?」と言うと、「お安いご用だよ」と言ってエルキドゥは武装化する。
私を横抱きに抱えると、エルキドゥは爆発音が響いた場所まで飛んだ。



***



「……!まずいな」

「どうしたの?エルキドゥ」



エルキドゥの表情が険しくなる。
爆発音が聞こえた方へ視線を向けると、建物は燃え上がっておりかなり状況が酷くなっているようだ。


「あの場所にいるのは、先程のヴィランのようだ」

「さっきのって、まさかヘドロの……!?」



恐らくエルキドゥはスキルで感じ取ったのだろう。

気配感知
エルキドゥが持つスキルである。
こちらの世界でサーヴァント達のスキルがどのように変化しているか気になっていたのだが、エルキドゥのこのスキルは健在だったみたいだ。

どうして?あのヴィランはさっきオールマイトさんが捕まえたはずじゃ……!


「それに、誰かが捕まっているみたいだ」

「まさか、いーちゃん……!?」

「いや、この気配は……マスターの……」

「私の?」

「……薄い金色の髪に赤い瞳の彼。マスターにとってもう一人の幼馴染みである彼だ」



エルキドゥの言葉に目が見開いていく。
先程まで考えていた事は吹き飛んでいき、今頭の中で思い浮かべるのは一人の少年。



「かっちゃん……っ?」



浮かび上がったのは私にとってもう一人の幼馴染みである彼……かっちゃんだ。



「ヒーローは何をしてるの!?」

「………あの様子だと苦戦しているみたいだね」

「どうして!?」

「……僕と同じ理由なら、考えられるのは1つ」



____あの場に、ヴィランに対抗できるヒーローがいない。



その言葉は絶望でしかなくて。
そのヴィランに対抗できるヒーローがいないなら、かっちゃんはどうなるの?
対抗できるヒーローはいつやってくるの?

それも考えたけれど……



「どうしてヒーローは諦めが早いの?」



私の知ってるヒーローはそんなことしない。
確かに、相性良い悪いはあるだろう。だけど、それを理由に逃げているのならそんなのヒーローじゃない!



「……エルキドゥ」

「なんだい?」



エルキドゥは近くの建物の屋上へ降り立った。
私はエルキドゥの腕から降り、自分の足を地面へ付ける。



「誰もかっちゃんを助けようとしないんだよね」

「………現状はそうだね」



エルキドゥの言葉に私の意思は固まった。



「エルキドゥ、私に力を貸してくれる?」

「……!」



エルキドゥの目が驚いたように見開いていく。



「___私、かっちゃんを助けに行く!!」





2021/04/29


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