第3節「出会い」
あの日を境に私は出久君と一緒にいることが多くなった。
彼といるときは決まってある人物が絡む。
「“無個性”同士、仲良くしてるんだなァ!!」
そう、出久君風に言うと“かっちゃん”こと爆豪勝己君である。
彼のお陰で私はすっかり無個性で定着してしまっていた。
爆豪君の後ろには数人の子供達がいる。
個性については両親に口酸っぱく言われてきたことだ。
だから、外で個性を使うことは禁止されている事は知っている。……それでも、皆自分の個性を自慢したがるようで。目の前に立っている彼が良い例だ。
「ねぇ、どうして君は個性にこだわるの?」
手元を爆発させながらこちらを見つめる爆豪君にそう問いかける。
「……うっせェな」
口が悪いなこの子……本当に同い年なのだろうか。いや、私はこの子達より歳上なんだけどさ。
そう言って爆豪君は私達に向かってその個性を向けてきた。
「名前ちゃんッ!!!」
後ろから聞こえる出久君の悲鳴が聞こえる。
……はぁ。こういう子には実際に見せてあげた方が伝わるかな。そうすれば突っかかってくることはないだろう。
お父さん、お母さん。ちょっとだけ個性を使う事を許して。
「___マーリン」
瞬間、目の前には薄い金色の光を放つ壁が現れた。
「いけないなぁ……本当に当たってたらどうするんだい?」
壁にぶつかったことで痛がっているのか、声を荒げながらその場でうずくまっている少年達。
そう……マーリンが作り出した透明の壁に彼らはぶつかったのだ。
「まあ、その時はその時だけどね」
花びらを舞わせながら姿を現わしたマーリンの声は、今まで聞いたことのない低さだった。
「……まだやるかい?いくら子供だろうと私は容赦しないよ?」
「だめだよキャスター。攻撃したら」
「むぅ」
マーリンとそんな会話をしていると、子供達は「覚えてろよー!」とよく聞くセリフを吐いて逃げていった。
……しかし、ある人物だけは逃げ出さなかった。
「……っ!」
マーリンを見上げて、赤い瞳を鋭くさせている少年…爆豪君だけは違った。
「このっ!!」
爆豪君は見えない壁に向かって何度も自分の個性をぶつけてる。彼には悪いが、マーリンの腕は君の何倍も上なんだ……適うわけがない。
「外で個性を使ってはいけないんだよ。……まあ、私も使っちゃったから言える立場じゃないけど」
悔しそうな爆豪君を見て、私は言う。
「個性を…使った……?」
「うん。……これが、私の個性」
マーリンの方へ手を指しながら言う。
「これで証明できたね。……私が無個性じゃないって」
私がそう言うと、爆豪君はこちらに視線を移した。
「……バカみてェ」
私にそう言い捨てて、爆豪君は去って行った。それを見届けた後、出久君の元へ駆け寄る。
「名前ちゃん……その人が個性なの……?」
恐る恐る私に出久君がそう声を掛ける。
「うん、私の個性。……だけど、これはほんのちょっとにすぎないよ」
「ちょっと?」
「うん」
座り込んでいた出久君に“右手”を差し伸べて立たせてあげた。
「私の個性、出久君に特別に教えてあげる」
「僕だけ?」
「うん。お父さんとお母さんしか私の個性知らないの。3人目なんだ、私の個性を知ってる人」
未だに繋いでいた右手に赤い模様みたいなもの…“令呪”が浮き出てくる。
輝きだした令呪に出久君は釘付けだ。
「私の個性、『擬態』っていうの」
出久君と手を繋いだまま
「___擬態“マーリン”」
個性発動の意思を示す。
刹那、私の身体は金色の光に包まれる。
「わぁ……!」
「どうかな、出久君」
今の私はマーリンが憑依しているので、自分の身体に彼が憑依している証拠が浮かび上がっている。
白みがかった髪が視界に入るので、擬態には成功できてるみたいだ。
「名前ちゃんの髪にお目々、きれい……!」
「ありがとう」
マーリン嬉しいだろうな〜。
『男の子に言われてもな〜』
あ、さいですか。
相変わらず女性好きな事で。
「ねぇ名前ちゃん、ぎたいってどういう意味?」
「えっとね、真似してるって思ってくれればいいよ」
「じゃあ名前ちゃんは何の真似してるの?」
うーん、出久君に魔術師って言っても間違いなく伝わらないよね……。
「魔法使いみたいなものかな」
「まほうつかい!すごいなぁ……!」
私の中では魔術師と魔法使いは違うんだけど、どうやらこの世界では同一視されているらしい。
「おかげで堂々とできるよ」
「どうどうと?」
不思議そうに首を傾げる出久君を見る。
「うん、出久君を堂々と守れるなって思って」
そう言うと、出久君は少し涙を浮かべながら笑った。
___今世で私が守りたいと“初めて”思ったのは、心優しい少年だった。
2021/03/17
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