第3節「出会い」



「ようち、えん?」

「そうよ。明日から幼稚園に通うことになるの」



どうやら前世の記憶が戻る前から幼稚園という場所に通っていたそうだが、私の記憶が戻ったことを考慮した結果、別の幼稚園に転園する事にしたそうだ。……嬉しい配慮だ。



「……幼児らしく振る舞ったほうがいいかな……?」

「別にしなくても良いんじゃない?まあ他の子より大人っぽく見られると思うけど」

「だよね……」



前世では私は幼稚園は勿論、学校という場所にも行ったことがない。
本の知識で知ってるだけだった幼稚園に行けることが楽しみで、明日にならないかな、と思っていた。



「わー!名前ちゃんっていろんな事知ってるんだね!!」

「ものしりー!」



……その幼稚園に来るまでは。



「今日から新しく入ってきたお友達、苗字名前ちゃんよ!みんな仲良くね!」



おお、本の中でよく見た台詞だ。本当に言うんだ〜と感動していたのが懐かしい。ついさっきの事だったけど。
どうやらこういう転園してきた人は新しく来たという理由で注目を浴びるのだと言う。



「ねぇねぇ!名前ちゃんの個性はなーに?」

「えっ!?えーっと……」



個性の話を振られ、どう答えようか迷う。私は両親とある約束をしたのだ。……“個性について話してはいけない”と。
そう言われても私は疑問に思わなかった。むしろ、そうだろうな、と納得した。自分でもこの個性がどれだけ危険なものなのか分かってるつもりだ。だからそう簡単に話してはいけない。

それに、いつどこでヴィランが見ているか分からないからとも言われた。
なので……



「………」



護衛としてサーヴァントを付ける事になったのだ。
今日私の護衛としてきているのは四郎である。現在霊体化しているので気配は感じるけどどこにいるかまでは分からない。……そのうち分かるようになるのだろうか。



「はっ! お前も“無個性”ってやつなんじゃねーの?」



そう言ったのは、薄い金色の髪に赤い瞳を持つ少年だった。
両親から聞いた事がある。彼がいう“無個性”と言うのはその名前のままの意味であり、個性を持たない人の事を言うらしい。



「名前ちゃん無個性なんだー」

「確かに、個性あるように見えないなー」



この世界では個性がない人は差別される事があるらしい。
……私には理解ができないんだよなぁ。どうして個性がないだけで差別する必要があるのか、と。



「そんなに個性って大事かな?」



私がそう言うと、ざわざわしていた空間は一気に静まり返った。



「はぁ?無個性が何言ってんだよ」

「私、分からないの。個性があるないって大事なのかなって」



私に無個性だと言った少年へそう問いを投げた。
これはずっと疑問に思っていた事だ。何故個性がないだけで差別されなきゃいけないのか、と。

個性というものがこの世界に広がったことで、個性を持っている方が当たり前だと思う人もいるらしい。
で、その無個性というものは個性というものが広がった事で少なくなってきているようだが、まだその無個性という個性を持たない人はいるみたいだ。



「大事かどうかなんて関係ねェな」



私は彼とは合わなさそうだな。
そう思いながら視界に入る金髪赤眼の少年……『爆豪 勝己』を私はジッと見つめていた。



***



「ね、ねぇ!」



帰りの準備をしていたとき、一人の少年が話しかけてきた。



「えっと……。名前、なんて言うんだっけ」

「あ、ごめんっ。僕は『緑谷 出久』。よろしく……」

「苗字名前だよ。好きに呼んでね、出久君」



緑がかったくせ毛の少年の名前は緑谷出久君というみたいだ。
大きくて丸い瞳の彼はおどおどした様子も合わさってとても可愛らしい。



「えっと、じゃあ……名前、ちゃん?」

「うん、何?」



そんなにビクビクしなくても、何もしないんだけどなぁ……。



「さっき、“かっちゃん”と言い合ってたけど……大丈夫?」



かっちゃん、というのは爆豪勝己君の事だろう。さっき他の子供達にもそう呼ばれていたし。



「なんとも無いよ。私、本当に思ってるの。どうして個性がないだけで差別されなきゃいけないのかなって」

「名前ちゃん“も”無個性なの?」

「も?」



私がオウム返しすると、出久君は下を向いた。



「僕、無個性なんだ……」



悲しそうにそう言った出久君の顔が目に焼き付いた。



「ごめんね出久君。……私、個性あるよ」

「そう、なんだ……」

「だからって、出久君を無視したりしないよ」

「え……っ?」



実は彼の事はずっと気になっていた。
あまり人と関わろうとせず、隅でじっとしていたから。だけどその理由はすぐに分かった。……彼がその無個性というものだからだ。



「だって、“お友達”なんでしょ?」

「へ?」

「あれ、違ったかな。だって幼稚園の先生は私の事を『新しく入ってきたお友達』って言ってたよ?」



私がそう言うと、出久君は大きな瞳を丸くした。



「友達になってくれるの……?」

「勿論だよ、出久君っ」



その日特に印象に残った二人が、後に“幼馴染み”という関係になる事を今の私は知らない。





2021/03/17


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