第3節「出会い」
「おい、俺としょうぶしろや!!」
次の日
幼稚園へ来て早々、話しかけてきたのは爆豪君だ。
「良いけど……何の勝負?」
「個性に決まってるだろ!!」
どうやら、昨日の事をかなり引きずっているらしい。勝負を挑むためだけに早めに幼稚園に来たのかしらこの子……。
私は幼稚園にかなり早い時間に登園している方なのだ。今日も時間通りの登園である。
「私、前に言わなかったかな? 個性は勝手に使っちゃいけないものだって」
「はっ!そう言って逃げる気なんだろ!」
「!」
挑発に乗るなと分かってはいるけど、流石にこれは頭にきた。
“逃げる”
……それは私が嫌いな言葉だ。
「じゃあ私が勝ったら出久君を苛めない?」
「勝てるならな!」
相当自身があるらしい。
……私、あのアーサー王を導いたマーリンに指導して貰ってるんだよ?はっきり言ってそこらの人に負ける気はしない。
それに、
「私、“逃げる”って言葉嫌いなんだ」
“二度と私に向けて言わないでね”
そう言った時、私の意思によって“炎”が放たれた。
***
「……ぁ」
危うく、本当にぶつけてしまう所だった。……怒りにまかせて個性を使ってしまった。あれだけ両親に使ってはいけないと言われていたのに。
「おい、さっきの本気じゃねェだろ」
それなのに、目の前にいる爆豪君は不満そうだった。
「私、下手したら君の事を怪我させてたんだよ……?」
「はぁ?手ェぬいただけだろ」
私の個性は本当にやろうと思えば簡単に人の命を奪える。擬態していたカルナが制止の声を掛けてくれなかったら、私本当に……。
「まあでも、お前は俺より弱いって事が分かった!!」
だと言うのに爆豪君は嬉しそうだ。……そんなに私に勝ったのが嬉しいのか。
「でもまあ、俺の次に強いって所だけは認めてやるよ!」
「そ、そう……」
「で?お前名前なんて言うんだっけ?」
どうやら爆豪君はいたく私を気に入ったらしい。
てか、私初めてこの園に来たときに名前言ったと思うんだけど……。なるほど、この子は興味ない人には本当に興味ないのかもしれない。私と同じだ。
「苗字名前だよ、“かっちゃん”?」
「名前な。覚えて置くぜ、モブ女」
冗談でそう呼んでみたが、全く聞いてない。なんならちゃんと自己紹介し直したのに名前で呼んでなかった。本当可愛くないなこの子……って、落ち着け私!相手は年下だぞ……!!
葛藤しながらも、嬉しそうな様子で去る爆豪君の背中を見送った。
「…………私は」
私は“あの時”逃げていたのだろうか。爆豪君が去るまで保っていた表情が一気に崩れる。
「……大丈夫だ。マスターは逃げてなんかいない」
「……」
霊体化を解除して姿を現わしたカルナが私の頭に手を置く。
不器用なその手が心地よかった。
第3節「出会い」 END
2021/03/17
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