第3節「林間合宿 後編」


side.緑谷出久



「おぉ〜。悲鳴が聞こえるね〜いーちゃん」

「な、なんで平気そうなの名前ちゃん……っ」


声が震えている僕に対し、名前ちゃんは楽しそうだ。


「平気も何も、怖いと思わないからだよ」

「名前ちゃんは昔からそうだよね。……肝試ししても全く怖がる素振りなかったし」

「うん、怖くないからね」


これは強がりでも何でもない、本心からの言葉だ。
小さい頃、小学校のイベントで肝試しを行ったことがある。そこで名前ちゃんは怖がる事なくさっさと帰ってきたのを良く覚えている。
脅かし役から脅されても、彼女はびっくりするだけでケラケラと笑っているような人だった。

中学校の時にもそういったイベントがあったけど、名前ちゃんは怖がらないからと他の女子から頼られていた。……きっと彼女はその女子達を覚えていないだろうけど。


「名前ちゃんはさ、怖いって思った事ないの?」


純粋に気になったからそう問うた。
特に深い意味もなく名前ちゃんに尋ねた。


「……あるよ」

「!そう、なんだ」

「何その反応っ。私だって人間なんだから、怖いって思った事あるよ」


僕の反応に名前ちゃんはクスクスと笑う。
でも、彼女が怖がっている所なんて正直見た事がない。かっちゃんに対しても怖がる素振りもなかったし。
それ以前に、名前ちゃんの所謂『弱み』的部分を見た事がない。
いつだって真っ直ぐで、ヴィランと戦う時だって強きで勇ましいさを感じる。


「だって、名前ちゃん怖がらないから」

「そうかな?私いつでも怖いって思ってるよ」


いつでも?
名前ちゃんの言葉に首を傾げた。


「私が怖いって思う事……それはね、目の前で誰かが消えてしまう事」

「……!」

「それが一番、私には怖い」


言葉が思い浮かばなかった。
名前ちゃんが怖いと思っている事は、僕が考えている事以上のものだった。
風で名前ちゃんの短くも長くもない程よい長さの髪が靡く。その表情は今まで見た事が無いほどに悲しそうなものだった。


「まあ、そのためにヒーローになりたいんだけどねっ」


さっきの表情はどこへやら、こちらに笑顔を向けた名前ちゃん。
……その表情はさっきの悲しそうな表情を隠す為に無理に浮べているようにしか見えなかった。





2023/5/16


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