第3節「林間合宿 後編」



「……ん?何か臭うな」


これは……何かが燃えている臭い?


「あれは……黒煙?」

「何か燃えているのか?」

「まさか山火事!?」


見上げると、そこには黒煙が上がっており微かに蒼い光が見えた。
その光景に驚いていた瞬間だった。


「えっ……?」


突然身体が空中に浮いた。
そして後ろへ引っ張られる!!


「苗字っち!!!」


ピクシーボブさんが私の手を掴み、一緒に引っ張られた。


「うッ!?」


強い衝撃と誰かに包まれる感覚。
痛みに耐えながら目を開けると誰かに抱きしめられている。顔を見ると……そこには頭から血を流したピクシーボブさんが。


「あら残念。猫ちゃんがオマケで着いてきちゃったわ。まあでも、飼い猫ちゃんが一人減ったみたいだし、これはこれでオッケーだわ」


痛みを耐えながら、上から聞こえた声の主を見上げる。
そこにはトカゲの様な人物とサングラスを掛けた男性……まさか、ヴィラン!?


「名前ちゃん!!ピクシーボブ!!」


いーちゃんの声が聞こえる。
朦朧としているが意識はある。だけど、咄嗟に私を庇ってくれたピクシーボブさんは気絶している。


「ご機嫌よろしゅう、雄英高校!我らヴィラン連合『開闢行動隊』!」


ヴィラン、連合……!?開闢行動隊って何……?!
トカゲの様なヴィランの言葉に驚いていた時だ。


「ッ! と、危ねぇ……!!」


ガキンッ!!!と重々しい金属音が響く。
そこには武装化したカルナがいた。
トカゲの様なヴィランがカルナの攻撃を受け太刀した音だったようだ。


「マスターを返せ……!!」


こんなにも『怒り』という感情を露わにしていたカルナを見た事があっただろうか。


「貴方が例の英霊って奴ね。初めまして」

「心配するな英霊。彼女はステインがお認めになった人間だ、手荒な扱いはしない」

「……ッ!!!」


ダメだ、怒りで我を忘れている……!このままじゃヴィランを殺してしまう……!!


「やだもう、スピナーの話聞いてた?」

「貴様等の言葉に偽りがない事は認めよう。……だが、納得するとは言っていない!!」


カルナはスピナーと呼ばれたヴィランを吹き飛ばし、サングラスを掛けたヴィランを睨み付ける。


「……はぁ。やっぱり交渉じゃダメなようね。予定通り、強引にでも連れて行く事にするわ」

「っ!?」


胴体に男性の腕が回る。……人質にされた!



***



side.カルナ


「その手で我がマスターに触れるな……!!」


悪に染まったその手でマスターに……ナマエに触れるな……!!


「だめっ、落ち着いてランサー!!」

ヴィランにも優しいなんて……お姫様は優しいわね」


あのヴィランとやら、態とナマエを盾にするような真似を……!!
あれはオレがマスターに攻撃を当てたくない事を分かってやっている動きだ。こんなにも怒りが沸くのはあの日以来だ……!

こんな時でもナマエはオレを心配している。自分の事よりも他人を考える。それがオレたちのマスターだ。
だが、今はその心配は必要ない。

前に天草四郎時貞ルーラーから聞いた言葉を思い出した。___ヴィラン連合はオレ達サーヴァントを狙ってナマエを仲間に引き入れようとしていると。

決して彼女を悪の道へと進ませはしない。危険な目には遭わせないと同じ命運を共にしたサーヴァントもの達と交わしたというのに___


「___でも、今はその優しさが仇になったわね」

「……かはッ」


この世で再びナマエと再会した際に、オレ達サーヴァントは彼女の個性として存在しているとギルガメッシュアーチャーから言われた。
それ故に前世とは違う点がいくつか存在する。良い意味でも悪い意味でも。


「いくら強力といえど個性である事に変わりない。貴方達英霊の最大の弱点はこの子・・・よ」


前世においても自分のマスターが弱点である事に変わりはなかった。しかし、この世において個性となってしまったオレ達サーヴァントは、その弱点の重さがより大きいものとなった。


「っ、!?」


輝き出す身体。……これは、霊基破損を意味する。
そう、ナマエが気絶させられるのはオレたちの活動を『封じる』事に繋がる。そして、殺されてしまえばそれは『消滅』となる。
つまり、今目の前でナマエが気絶させられたのは……オレの現界を封じられた事を意味する。
知られているのだ___サーヴァントオレたちの最大の弱点を。


「流石に貴方達英霊を相手にするのは厳しいから、必然的に彼女を気絶させるしかないのよねぇ」

「こらマグ姉、傷つけるなって言われてるだろ」

「大丈夫よ、項を叩いただけだから」


交わしたのに……あの男と、約束を……!


『必ずマスターを守り切れ、カルナ』


前の世界であれば、こんな弱点など気にする必要等なかったのに……!
伸ばした手は届くことなく、視界が真っ暗に染まった。





2023/7/14


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