第2節「林間合宿 前編」
「綺麗だねー。家でも星空は綺麗だったけど、ここはより綺麗に見える」
「そうだな」
外
先程までみんなで夕食を食べていたのに、その面影が浮かばない程に静かだった。木材でできたベンチにカルナと一緒に座り、夜空を見上げていた。
「……それで、話とはなんだ」
「うん。……此処最近、ある光景を思い出すんだ」
「ある光景?」
「うん。……カルナも良く知っている、あの人との思い出が」
「!!」
「そして、さっき見た夢もあの人のものだったの」
夜空に浮かぶ星の輝きが、あの時目の前で消えてしまったあの人の光景を酷く思い出させた。
「……あの人は、私が何も出来なかったから…お荷物だったから、死んじゃった」
「俺達サーヴァントの命は仮初めだ。座にある本体に影響はない」
「……知ってる。よく知ってるよ」
本来、カルデアの召喚システムで呼ばれたサーヴァントは霊基を破壊されても再召喚される仕組みになっている。
だけど、あの人は再召喚されなかった……座へと還ってしまった。本人はそれを分かっていたみたいだった。
何故再召喚されなかったのか。
カルデアの召喚システムはマシュが持っていた盾を使うことで成立していた。マシュは立香君と契約していたサーヴァントだ。
……二人目のマスターだった私とマシュがマスターとサーヴァントの関係でなかったからなのか、元々あの召喚システムが未熟だった事による不具合だったのか、今では分からない。
確実に分かっているのは___もう二度と、あの人には会えないという事だ。
「俺だったとしても、あの男と同じ行動をしたと思う。……そして、こうも思っただろう。『マスターを守れて良かった』と」
「そんな洒落にならない事、言わないでよ」
「元々俺達サーヴァントは死んだ存在。俺はマスターを守るためならばこの身を迷わず差し出そう。……奴だってそうだっただろう」
『お任せ下さい、マスター』
こちらを振り返り私を見つめる瞳。……二度と見ることのできない、あの優しい瞳。
初めはどこか壁を作っていたけれど、ある時をきっかけにマスターとサーヴァントという関係になれた。……その事に嬉しいと感じていたのに。
「そんな事言わないでよ……!!」
「マスター……?」
「分かってる。分かってるよ……!!例え消えたとしても、実際に英霊の座にある本体が…みんなが消えるわけじゃないし、みんながその本体のコピーに過ぎないのも分かってる!でも……でも……!!」
隣でカルナが息を呑む声が聞こえた。
……刹那、目から何かがこぼれ落ちる感覚がした。
「私の知っているみんなは……一人しかいないの!!消えてしまえばもう二度と会えない!!別じゃダメなの!!別じゃ……っ、同じでも……みんなは一人しかいないの……っ!!」
後ろから温もりを感じる。……あぁ、私を慰めてくれるんだね、カルナ。
胸下に回る腕に自分の手をそっと添えた。
「……泣かせたかったわけじゃない。俺なりに思っていた事を伝えたつもりだったのだが……」
「……分かってるよ」
彼の口下手はよく分かってる。彼なりにあの時の事を教えてくれたんだと思う。……それでも、彼にその手段を選ばせてしまった事に変わりない。未熟だった事は事実だ。
「でも、私が何も出来なかったからあの人がいなくなってしまった。それは紛れのない事実。だから、あの時の私が許せない……彼にあんな行動をさせてしまった私が、許せないの……!」
「……それが、自分で戦えるようになりたいと拘る理由か」
ポツリと零れたカルナの言葉に頷く。
……彼の消滅は、戦えるようになりたいと思うようになった要因だ。
「みんながずっと強い存在なのは分かってる。でも、守られてばかりは嫌。戦えるのなら…戦える力があるのなら私は戦う。……私だってみんなを守りたいんだ」
だから、簡単に犠牲にできるなんて言わないでよ……。あの人と同じような事をしようとしないでよ、カルナ。
「ふっ。……それはマスターが英霊にでもならなければ、無理な話だな」
「な……!私は真面目にっ」
「分かっている。……俺はあの時の奴の行動は正しいと思っている。だが、結局俺達はマスターを守り切る事が出来なかった。……あの男の約束を守りきれなかった」
私を抱くカルナの腕に力が入る。
……カルナがこんなに感情的になるなんて、あの人の前以外に見た事がない。
「だから、今度は。今度こそは……あのような結末にさせない為にマスターを守る。それが、俺がここにいる理由だ」
「……うん」
カルナに抱きしめられているからか、段々落ち着いてきた。それと同時に眠気に襲われた。
「……眠いのか、マスター」
「うん。……カルナと話せたお陰でスッキリした。ありがとう」
「そうか。……だが、ここで寝てしまえば風邪を引く」
「そうだね。戻らなきゃ……」
「俺が部屋まで運ぼう。マスターはそのまま眠るといい」
「じゃあ……お願い」
カルナの厚意をありがたく受け取り、そのまま目を閉じた。
「……おやすみ、ナマエ」
意識がなくなる前に額に温もりを感じた気がした。
第2節「林間合宿 前編」 END
2023/5/16
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