第2節「林間合宿 前編」
「それに、どこか子供らしくないんだよね」
「子供らしくない、ですか」
「ああ」
だって記憶戻ったとき4歳だよ?
精神年齢だけだったら余裕で30歳超えてるもん。
そりゃあ子供らしくないって言われて当然かも……。
「所々見れば年相応な所はあるし、周りより少し大人なんだろうと思ってたよ。爆豪と一緒にいる時は特にそれがよく目立つ」
先生、それはかっちゃんが子供っぽいって言っているんでしょうか……。
「でも、相澤先生の言う『大人』というのは私以外に相当する人はいますよ?」
「そうだな」
男子はまだよく分からないけど、女子で大人な感じの子と言えば梅雨ちゃんとか百ちゃんあたりだろうか。
この二人は冷静に周りの状況をよく見ている子だと思っている。
「それだけじゃない。俺が苗字に対する印象ががらりと変わったのはUSJ事件の時だ」
「USJ、事件」
「ああ。聞かれたときは驚いたよ___まさか『殺したらダメですよね』って聞かれるとはね」
「!!」
しまった。
前世では敵の情報を得るために態と手加減したりした状況もあった。
兵器として生み出された私にとっては、血を見ることも人が死ぬ場面も恐怖することはない。
自然と出てしまっていたんだ。……前世で当然のように行っていたクセが。
「お前は善のある人間だと思っている。戦闘にもその部分がよく現れているしな」
「……」
「両親にあの二人を持っているから良い教育を受けているのも分かったし、戦闘面に関しては思っていた通りだったよ。……体育祭で”あるもの”を見るまではな」
「……体育祭」
「そう。正確には第二種目である騎馬戦の時だ」
相澤先生の言うその種目の時、私はその時何をやっていたのか。
後でサーヴァント達に聞いたのだが……彼らも「わからない」というのだ。
心操君の個性『洗脳』によって操られていた時の私は何をしていたのか。
響香ちゃんがいうには『鎖』と『炎』を使っていたというが……。
「明らかに戦闘慣れしすぎている。才能云々と言ってしまえばそれまでだが、入試の時や個性把握テストを見ればお前に才能という奴はない」
「お、おっしゃる通りで……」
「だが、その強力な個性を扱えるよう日々鍛錬している事は聞いている」
結局相澤先生は何が言いたいのだろうか。
相澤先生が閉じていた目を開き、鋭い視線でこちらをみた。
「回りくどいのは面倒だ。単刀直入に言おう___お前は何者だ」
”お前は何者だ”
それは私が自分たちにとって『敵』なのかどうかを見定めたいと言う事なのだろうか。
上手く誤魔化そうと思えば出来るかも知れない。
だけどこの何かを確信しているような眼差し……本当に誤魔化せる?
自分に前世の記憶があり、その頃の名残が残っていると。
きっと相澤先生のいう戦闘慣れというのは技術面の話ではない。その状況に対する『慣れ』を言いたいのかもしれない。
確かにUSJ事件の時、戦闘に関しては不慣れだったけど、あの状況下においては冷静だったと思う。
敵側に個性が割れていた事を知った時もあまり動揺していない。今思えばかなり落ち着いている。
……そうか、前世での旅がいい経験となって身体に刻まれているんだ。
だからどのような状況下にも冷静でいれたんだ。
「……」
遠くで料理をしているであろう音が聞こえる。
今此処に流れる空気はかなり重い。
相澤先生が求める答えはこれなのかもしれない。いや、これしかない。
だけど言った所で信じて貰える?
この先生は合理主義者だ。はっきり言って信じて貰える気がしない。
……どうしたらこの人を納得させられる?
「……別に敵と繋がっているとか、そういうのを疑っているわけじゃない」
「!」
「もしそうだったとしたら、アクアさんとサナーレさん、爆豪に緑谷。……そして英霊達との関係を疑うからね」
相澤先生の言葉はいつしか百ちゃんに言われた言葉と同じで。
……この人なら信じてくれるかな。
私が前世の記憶を持って生まれ変わった人間だって事。
ちらっとカルナを見ると、こちらを見下ろす青い瞳と目が合った。
「俺はマスターの判断に任せる」
「……わかった」
そうだ。
この事を話すかどうかも私自身に任せると決めたのだ。
両親にもそう易々とバラさないようにとは言われているが、最終的な判断は私に任せられてる。
聞く人によっては無責任だと思うかも知れない。
だけど結局は自分の事だ。……自分で責任を負わなければならない。
私はただの子供では無いから、この事がどれだけ非現実的なのかもよく分かっているつもりだ。
この人は両親が信頼している人だ。
……話しても良いかもしれない。
その時はその時だ!どうとなれ!!焦凍君みたくのどんでん返しがるかもしれないし!!
こうなったら当たって砕けろだ!
「もし……。もし、私が前世の記憶があると言ったら……先生は信じてくれますか」
2022/2/17
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