第2節「林間合宿 前編」
「一発……!!」
近くにいたお茶子ちゃんが先程の光景を見ていたようで、驚いた様子で声を掛けた。
そりゃあ、槍を一振り薙いだだけで破壊したんだもの。びっくりするよね。
「ありがとう、ランサー」
「……!まだ来る」
「前に出るな」と言いたげにカルナが私の前に腕を出す。
カルナの視線の先を見ると、土から魔獣が姿を現わしている所だった。
こちらに向かってくる魔獣に槍を構えたカルナだが、上からも魔獣が現れた。
……数が多い!!
「はぁッ!!」
素早い動作で魔獣を二体も倒すカルナ。
間違いなく私の存在が邪魔になっている。……魔獣の数に対してカルナ一人は流石に相手に出来ない。
「……あれ、ここ少しだけマナが満ちてる……?」
この世界の自然界にマナがあるとは思わなかった。
今まで山とか自然豊かな場所に行ったことがないから分からなかっただけなのかもしれないし、たまたま此処が自然豊かだからなのか定かではない。
僅かではあるけれど、私の負担が少し減るかもしれない。
「ランサー、一人でいける?」
「……」
「よし、分かった」
口にするのは嫌だったようだが、カルナの気持ちは分かった。
正直厳しいって事でしょ!
再び出現した魔獣を倒しに行ったカルナを見届け、その場にしゃがみ込む。
右腕に令呪を出現させ、地面に右手を付く。
「まさか初日からきつい事になるとはね……!」
これは私自身で戦うより、彼らに任せた方が良さそうだ。
「我に従い命運を共にする者達よ、我が声に応えよ……!」
詠唱に呼出の意を込める。
右手を中心に魔法陣が展開していく。
「!」
魔力の消費による疲労で座り込んでいた私の目の前に魔獣が。
目の前に魔獣がいることを認識した瞬間、一瞬にして魔獣が真っ二つに。
それと同時に風を斬るような音が聞こえる。
「大丈夫かい、マスター」
「セイバー…!」
土煙から姿を現わしたのは、こちらに歩み寄って来たアーサーだった。
差し伸べられた手を取ると、勢いよく引っ張られアーサーの胸へと引き寄せられる。
「全く無茶な事をするよ、君は」
「あはは……。でも思ってたより減ってないよ」
消費していることに変わりは無いけれどね。
アーサーの腕の中から離れ後ろを振り向けば、そこには武装したサーヴァント達がこちらを見ていた。
「で?どこよここ」
「私有地の方によると『魔獣の森』だって」
「魔獣?あれが?」
ジャンヌが指を指した方向には魔獣が二体。
どれも土塊で出来ている為、本当に生きているわけではない。
「きっとみんな持て余しているだろうから、この機会に発散して貰おうと思って!サーヴァントのメンタルケアもマスターの仕事だし!」
「ほぅ、俺達の事を思っての事か」
エドモンの回答に彼を見ながら頷く。
前世と比べたらガクッと減ったからね。力を思う存分振るう機会はそうない。
私の訓練では相当手加減をして貰っているようなので、この魔獣なら思いっきりやれるだろう。
「相手は土塊で出来たもの。思いっきり倒しても誰も迷惑にならないし、誰にも怒られない!」
「つまり、手加減する必要がないと?」
「そう言う事」
小太郎の言葉に頷くと、各々が武器を構えだす音が聞こえる。
彼らの顔を見ると「獲物を見つけた」と良いたげな表情を浮べている。……やっぱりこういうことやりたかったんだね。
ずっと我慢させてしまっている事を申し訳なく思っていた。だからこその配慮である。
「やるなら面白くないとな! 一番多く倒した者は奏者からご褒美を貰うというのはどうだ?!」
「それセイバーが欲しいだけでしょ」
「やるからには志気を高めるものが無ければ」
「ちょ、ルーラー!?」
「いいね、僕も賛成だよ」
「ランサーまで……」
ネロの提案に四郎とエルキドゥは乗り気のようだ。
……ご褒美って何よご褒美って。
しかも誰が数えるのよ!?
「……じゃあそう言う事で!よろしく!」
パンッと手を叩くと皆それぞれ魔獣のいる所へと散っていった。
この世でサーヴァントに傷を付けられるものはいない。彼らを傷つけたいのであれば同等の神秘が必要なのだから。
それが可能なのは、みんなを除くとサーヴァントに擬態した状態の私だけだ。
つまり何が言いたいのかというと、怪我の心配はない。
「行かなくていいの?思いっきりやれるなんて機会、二度と来ないかもよ?」
先程からその場を動かない一人のサーヴァント、ギルガメッシュに声を掛ける。
「褒美を賭けてまでやることではない。我の好きなときに貰えばよいのだからな」
「そ、そうですか……」
「して、どこへ向かうのだ?」
どうやらギルはあまり乗り気ではないらしい。
なので一緒に宿泊施設まで行くことにした。
2022/2/17
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