第1節「再会」
「ほ、本当にエルキドゥなの……?」
「うん。君のサーヴァント、エルキドゥだよ」
「嘘じゃない?私の事覚えているの?」
「忘れる訳がないだろう?僕のマスターは君だけなんだから」
私の言葉1つ1つに頷き答えるエルキドゥ。
その様子に偽りを感じない。
「会いたかった……っ!!」
思わずエルキドゥに飛びつく。
飛びついてきた私をエルキドゥは難なく受け止めた。背中からくる優しい衝撃が本当に彼という存在がいると認識させる。
「マスター、エルキドゥだけではありませんよ」
その声が近くに聞こえた。
エルキドゥの胸から顔を離して声の聞こえた方へ振り返る。
「四郎……?」
「はい。ルーラー、天草四郎時貞です」
そこには、焼けた肌に白い髪の青年『天草四郎時貞』がいた。驚きで固まっている私の頭を四郎の手が撫でる。
「君達だけ狡いぞー、私だってマスターと話したいっ」
「マーリン……!」
四郎を押しのけて私の視界へ入ってきたのは『マーリン』だ。グランドキャスターの一人で、本来なら召喚できる人物ではないのだが……。
「マーリンも来てくれたんだね……!」
「私だけではないさ」
マーリンはそう言うと私から視線を外した。彼が見る方向へ視線を向けた。
「エドモン……!」
「…!マスター」
私の声に反応し、こちらを振り返ったのは『エドモン・ダンテス』だ。彼の方へ向かおうと駆け出す。
「わっ!?」
「全く、相変わらず世話が焼けるな」
「えへへ……」
いつも通りに走ったつもりだったのだが、子供の身体だからなのか上手く走れず躓いてしまった。エドモンが助けてくれたお陰で怪我はない。
抱えてくれたエドモンにお礼を伝えた瞬間、彼の腕から離され身体が宙に浮く。……というより、誰かが私の脇腹を掴んで抱えている。
「小さい名前も可愛いわね」
「ジャンヌ……!」
どうやら彼女がエドモンの腕から私を奪ったようだ。
こちらを見つめる白い髪に金色の瞳を持つ女性は『ジャンヌ・ダルク』だ。彼女は反転状態のサーヴァントで、本来のジャンヌ・ダルクとはかなり離れた性格なんだけど、私はジャンヌ・オルタの方と契約して良かったと思っている。
「来てくれてありがとうっ」
「べ、別に……」
素直になれない所とか、意外と可愛らしい趣味を持ってたりとか…本来のジャンヌ・ダルクにはない“人間らしい部分”が目立つ彼女だから”私”は好きになれたんだと思う。
ジャンヌの赤くなった顔をニマニマと見ていると、彼女の後ろに誰かが降りてきた。誰だろうと覗くと、赤い髪の少年が視界に入った。
「小太郎!」
「主殿、お久しぶりです」
ジャンヌの腕から降り、少年の近くへ行く。
私と視線を合わせるように片膝を立ててしゃがみ込み、こちらを見つめるのは『風魔小太郎』だ。
「そんなに構えなくていいのに……」
「いいえ。例え幼子であれど、僕の主に変わりはありませんから」
いつもなら隠れている鋭く赤い左目が細められる。微笑する小太郎は普段と比べて年相応の男の子のように見える。
「マスター」
草を踏みしめる足音と自分の事を指している単語が聞こえ、後ろを振り向く。
「カルナ……!来てくれたんだね!」
「ああ」
私の目線に合わせるようにしゃがんだ男性は『カルナ』だ。
普段からあまり表情の変化がない彼が、見て分かるような嬉しそうな表情をしていて、こちらもつられて嬉しくなってしまう。
「おかあさんっ!」
「わっ!?」
突然やってきた衝撃に驚き、身体は勿論前に倒れる。
後ろから突進してきた張本人、『ジャック・ザ・リッパー』は私を抱きしめてケラケラ笑っている。
「おかあさんちっちゃいね!」
「まだ子供の体だからね」
いつもだったら私が抱きしめる側なので、ジャックに抱きしめられるのはどこか新鮮だ。私を人形のようにぎゅうぎゅう抱きしめているようで、ちょっと苦しいな……と思い始めていた時。
「奏者〜!!」
「うぎゃっ!?」
今度はそれ以上の苦しさが襲う。
どうやら今度は別の人物に抱きしめられているらしい。
「ね、ネロ……く、苦しい……っ」
「つれない事を言うでないぞ奏者!あぁ……っ、幼き奏者はこのようであったのだな!とても愛らしい……っ!!」
私に頬ずりをしているこの女性は『ネロ・クラウディウス』というローマ帝国の皇帝だ。
いつも通りのネロで安心したけど、そろそろ苦しくなってきた……!
「皇帝殿、そろそろ離してあげないとマスターが潰れてしまうよ」
「ああっ、騎士王!余からマスターを引き離すでない!!」
ぶーぶー言っているネロが目の前に映る。と言うことは、私は別の人物に抱えられているという事だ。
自分を抱えている人物を見ようと上を見上げると、碧色の瞳と目が合った。
「久しぶりだね、マスター」
「アーサー……!」
そこにいたのは金髪碧色の青年……『アーサー・ペンドラゴン』だ。……彼は私にとってマスターとなるきっかけとなった、所謂初めて契約を交わしたサーヴァントなのだ。
ここにいるサーヴァント達は紛れもない、私が契約を交わしたサーヴァント達だ。……まさか、みんなと再会できるなんて思わず、喜びが隠せない。
2021/03/12
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