第1節「再会」



「正直、皆が応じてくれるとは思ってなかった」



アーサーの腕から降ろして貰いながらでた言葉は“本音”だった。



「馬鹿みたいに多い魔力だけが取り柄な私を皆は守ってくれた。あの人・・・がいなくなった事を受け入れられず、この身を捨てようとした時も止めてくれた。……本当に感謝してる」



あの人がいなくなったことを受け入れたくなくて。同じ場所へと行けば会えるかな、なんて馬鹿な事を考えていた。
それを止めてくれて、寂しさを埋めてくれたのはサーヴァントみんなだった。



「結局、周りが見えて無くて死んじゃったけどね。……本当、情けない」



私の最期は襲撃の際に不意を突かれて殺された。……今思い出すと、本当に馬鹿みたいな死にざまだ。
サーヴァントみんなに申し訳なくて目を合わせられなくて下を向いていると、誰かに身体を持ち上げられる。



「本当にそう思っているのなら、今世ではそのような真似をしないことだ」



綺麗な顔が視界に映る。……どうやら私の身体を抱えたのはギルだったようだ。
180pもあるギルの目線は、子供の身体である為とても高く感じる。



「そのような真似、って?」

「ギルは『死なないで』って言ってるんだよ」

「…っ、エルキドゥ!」



横からひょこっと視界に入ってきたエルキドゥが先程のギルの言葉を意訳してくれる。
どうやらエルキドゥの意訳は正解だったようで、ギルが焦ったように彼女の名を呼んだ。
さすが親友、友の事を良く知っている。怒鳴り声も効いてないようだ。



「でもそれは僕だって同じだよ」

「そうだよマスター。復讐者アヴェンジャーの二人は特に酷かったんだから」



エルキドゥの言葉に頷きながら会話に入ってきたのはマーリンだ。
ジャンヌとエドモンが酷かった、と言うのはどういう……?



「名前が殺されたのよ?黙ってられる訳ないじゃない……!!」

「俺も同感だ」



ジャンヌとエドモンが組んだらとんでもない事になりそうだな……。戦力としては頼もしいけどね。



「安心しておかあさんっ!ちゃーんと解体したから!」



いやそれニッコリしながら言う言葉じゃないよね、ジャック!?



「余は悔しかった……!奏者が目の前で殺されて、何もできなくて……!!」

「泣かないで、ネロ」

「うぅ……、名前……っ」



ギルの腕から降り、泣き出したネロの元へ行くとすぐさま彼女の胸の中へと閉じ込められた。
短い腕を伸ばしてなんとかネロの頭を撫でると、彼女は可愛らしい笑顔をこちらに向けてくれた。



「マスター、分かってくれましたか?……私達は貴方を道具として見ていない事を」



未だに上機嫌なネロの腕の中にいる私に話しかけてきたのは、四郎だ。



「二度とあのような事が起こらないように、私達はここにいるのですから」



そう言って四郎はこちらにニコッと爽やかな笑みを見せた。



「主殿は僕達に対する扱いが優しすぎます。本来は扱き使われて当然なんですよ」

「だって、皆ちゃんと感情があるんだよ?そんな道具扱いみたいな事できないよ……」



生前、ある人から聞いた話によるとほとんどの魔術師はサーヴァントと対等に接するものは少ないと言う。
小太郎の言う事は正しいのだが、自分もそうだった・・・・・・・・からなのか、どうしても使い魔らしく扱えない。



「マスター、俺を存分に使え」

「カルナ、話聞いてた?」



カルナは他のサーヴァント達と比べたら命令おねがいをちゃんと聞いてくれる。
それはすごく嬉しいんだけど、カルナは口下手な所があるから大変なんだよなぁ……。そこも可愛いんだけどね。



「でもマスター、カルナと風魔の言ってることは最もだよ。本来サーヴァントは使い魔に過ぎないんだから」

「でも……」

「藤丸君もそうだったけど、二人の接し方は普通ではあり得ない事なんだ。……だけど、君も同じだったから・・・・・・・・・僕達の扱いに敏感だったんだよね」



アーサーは私が契約したサーヴァント達の中でも古株に相当する。
だから、私について・・・・・は他のサーヴァント達よりも多く知っていたりする。



「だけどマスター。僕はもう君が目の前で殺される光景は見たくないんだ。……だからこそ、僕達の力を存分に使って欲しい」



真剣な眼差しが私を見つめる。



「何もできないんだから、大人しく守られておけばいいのよ」

「ジャンヌ……」

「彼女の言う通りだ。……今度こそ、マスターを守らせて欲しい」

「エルキドゥ……」



こちらを見つめるエメラルドグリーンの瞳は悲しさも映し出していた。



「前のような失態はしない。……でも、私って本当に何もできないからさ。だから、こんな間抜けなマスターをまた守ってくれますか?」



私がその言葉を放った瞬間、目の前にサーヴァント達が横一列に並んだ。そして膝をついて私と視線を合わせこちらを見つめた。……それぞれの想いが痛いほどに伝わってくる。



「………ありがとう、みんな。これからもよろしくねっ」



一人一人見つめながら答えると、皆それぞれの反応を見せてくれた。



「勿論だ!余に任せるが良い!」

「ちょっと泣き虫、何出しゃばってる訳?私が名前を守るのよ」

「クハハハ!俺がいる限り、そのような真似はさせん!」

「勿論だマスター。必ず守ってみせる」

「おかあさんを狙う人は全員解体するよ」

「我一人で十分なんだがな」

「嫌と言っても死なせないので、ご心配なく」

「このマーリンお兄さんに任せたまえ」

「当然の事だからね」

「命令されずとも」

「勿論だよマイマスター。この剣に誓おう」



それぞれの答えに個性があって聞いてて面白い。
みんなの元へ走り出した瞬間、慣れない身体だったためまた躓いてしまった。
その様子を見ていたサーヴァント達が一斉に驚きの声を上げながらこちらに手を伸ばした。



「ふふ…っ、あはははははっ!!」



その光景が面白くてついつい笑ってしまった。
前の世界では楽しい事はあったけど辛いことの方が多かった。
この世界でなら、前の世界より楽しい時間を送れるかな。

どちらにせよ、みんなと同じ時間を共にできることが本当に嬉しくて。
私と一緒に庭に転がって空を仰ぐ子も見れば、側に立って同じく空を仰ぐ子もいる。

カルデアの外に出たことがなかったからどんな空をしていたか知らないけど、特異点で見上げる空には必ずあった光の輪は見当たらない。
この世界には聖杯というものも、特異点というものもないんだなと考えてしまう。

………ここにいないあの人はどんな言葉をかけてくれたのかな、と二度と会うことのできない貴方の顔を思い出した。





2021/03/12


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