第12節「期末テスト」
十一戦目
いーちゃんとかっちゃんペアVSオールマイト先生
飯田君によると、この試験ではオールマイト先生、セメントス先生、ミッドナイト先生、プレゼントマイク先生、アクアの5名は難易度が高いらしい。
その中でもオールマイト先生は一番難易度が高いはずだ。
よりによって仲の悪いこの二人の相手……。いや、この二人だから相手がオールマイト先生なのかも知れない。
小さい頃からいーちゃんとかっちゃんは、オールマイトという平和の象徴と謳われるヒーローに憧れていた。
憧れている事に変わりはないのだが、二人は憧れる“視点”が違った。
いーちゃんはどんな人も助けてしまう姿に、かっちゃんは圧倒的な強さを持つ姿に。
だからかっちゃんは、初めて会ったあの頃も現在も『強さ』にこだわり続けている。
「……維持でもいーちゃんと協力したくないんだ」
オールマイトの攻撃を受けて吹き飛ばされたかっちゃんと、柵によって動きを封じられたいーちゃん。
それに至るまでの経緯は、協力していない意見が合わさっていないという最悪のコンビネーションだった。
かっちゃんは俗に言う『天才』と呼ばれる人物だ。
その才能に周りは彼を煽てるばかりで、悪いところを指摘するものはいなかった。大人すらも悪い部分を見て見ぬフリをした。
負け知らずで育ってきた彼は、プライドが高く負ける事を嫌う。全てにおいて『一位』を取らなければ意味がないと意識してしまっている。それもただ一位になるのではなく、完璧な一位しか望まない。
雄英に行って現実を知れば、かっちゃんのあの性格が少しでも改正されると思っていた。
しかし、いーちゃんが個性を持っていた事と、その成長の早さに対する対抗意識が日に日に膨らんでいた事を私は知っていた。
昔にいーちゃんが言ってた。
個性が発現するまでは今のような関係ではなかった、と。
私は一度も見た事がないその光景をこの目で見たい。
しかし、このままでは二人とも試験をクリアする事はできない。
いーちゃんは怯えながらも協力しようと声を掛けるもかっちゃんが拒絶している。
……見ていても変わりそうにない。これはもう……
「……えぇッ！？」
ダメかも知れない。
そう思っていた時、衝撃的な光景が流れた。
「ちょ、ちょっとキャスター、私の頬引っ張って」
「古典的だねマスター。そんなことしなくても現実だよ」
だって信じられないんだもの。
＿＿＿いーちゃんがかっちゃんを殴るなんて事！
「げ、現実だ……」
まさかいーちゃんがかっちゃんを殴る日が来るとは。
今でも信じられないが無理矢理マーリンに頬を引っ張って貰ったのでちゃんと現実だと理解した。
ごめんねマーリン、すっごい嫌そうな顔してたから謝るね。心の中で。
オールマイト先生の視界から逃れ、路地裏に入った二人。
しかし見つかるのは時間の問題。
……このまま隠れてリタイアを迎えるのか、それとも＿＿＿。
「……！」
動いた。
ほんの数分だったが話し合っていた…というよりは見た感じ完全に脅している図だったが、あの光景は作戦を立てていたとしか思わない。……思いたい。
一方のオールマイト先生は直線の本通りを綺麗なフォームで走っており、二人の姿を探しているようだ。
その背後に……かっちゃんが現れた。不意打ち攻撃だ。
しかし、その場にいーちゃんの姿がない。……いーちゃんはどこに？
「！ ……ふふっ」
かっちゃんと交戦しているオールマイト先生の背後に現れたのはいーちゃんだ。
ただ現れたのではない。彼の右腕には…かっちゃんのコスチュームである腕に着いた篭手の片割れが。
だからかっちゃんの左手に篭手がなかったんだね。
きっとこの状況を打破するため、仕方なく受け入れたのだろう。
……それでも私は嬉しいよ。二人が協力している所が見れて！
場違いなのは分かってるけど、嬉しさを隠せない。
「名前ちゃん、なんか嬉しそうやね？」
「分かっちゃった？ ……二人が協力し合っているのが嬉しくて」
やっぱり顔に出ていたか。
「場違いでごめんね」と返したが、私を見るクラスメイトは気にしてないと言いたげな表情をしていた。
向けられた視線から、どこか優しさが伝わってくる気がした。
「マスターの気持ちは分かるけど……ただ協力するだけではNo.1には勝てないんじゃない？」
「……そうだね」
マーリンの言葉は私の緩んだ心を一気に現実へと戻した。
先程リカバリーガール先生が言っていたように、コミュニケーション能力は今の社会に必要で、ある程度のコンビプレーは求められる。
二人はそのスタート地点にやっと立っているのだ。……今回限りじゃなきゃいいけど。
「！ゴールが見えてきた！」
お茶子ちゃんの言う通り、二人はゴール地点…ゲートが目の前に見える程の場所にいた。
そういえばあのゲート、すっごい可愛いデザインなんだよね。……私はくぐらなかったけど。
まあでもオールマイト先生がそう易々とクリアさせてくれるとは思わない。
2022/2/16
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