第12節「期末テスト」



「いつまで守っているつもりかな!?」


アクアの声が聞こえる。
……作戦タイムは終わりだ。


「……さあフェイ、どう出てくる?」

「勿論、正面突破!」

「それだけじゃ僕を捕まえられないよ!」


強力な水をこちらへまっすぐ放射してきたアクア。
……今だ!!


「……アヴェンジャー。貴女の宝具、借りるよ……!」

『良いわ、思いっきりぶっ放しなさい!!』


私に向かって放たれた水がマーリンによって張られたバリアで四方八方に飛び散る。
それと同時に擬態しているジャンヌの魔力がより濃くなる。
魔力を倍に消費する事でジャンヌの武装姿へと変化したのだ。



「仕上げにこれを」


再びマーリンからの強化魔術が私に掛かる。
自身の身体を淡い桃色の光が包む。

旗を顕現させ、詠唱を始める。
魔力の流れが変わったのが分かる。
……これで決める!



「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……___吼え立てよ、我が憤怒ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン!!」



バリアが消えると同時に放たれたのは、今までとは威力が違う炎。
アクアが放出する水をあっという間に燃やす。
そして___アクアに直撃した。
噴火の如く直撃した炎はアクアを容易く上空へと放り飛ばした。


「ッ!こりゃあすごい炎だ!でも、水辺がある限り僕には___!?」


アクアが言葉を詰まらせる。
何故詰まらせたのか。
それは周りに炎の海が広がっているからだ。


「周りは炎の海。……これで回復できないね、アクア!」

「!」


上空は一番隙が出来やすい場所だ。
動ける人物はそう多くない。修羅場を多く通っているであろうアクアが空中に対する技術があるかどうか分からない。
だからこれは賭けだったが……動揺している今なら!
サーヴァントの跳躍、ましてやジャンヌの力を最大まで纏っている今の私なら……


「___捕まえた!」

「!……捕まっちゃった」


簡単に届いちゃうんだよね!
カチャン、とカフスが掛かる音が鳴る。……試験クリアだ!



***



「いやー、やっぱりこの重り付けてると動きにくいねー。水辺じゃなかったらあっさり負けてたよ」

「十分苦戦したんですけど……」


ケラケラと笑いながらアクアはそう言うが、まだこれ以上速くなると言うのか。
……水辺はアクアの独壇場という訳ね。


「水を使って回復させないよう全て燃やした。うん、敵の対策としては十分。しかし被害は大きい!これはヒーローとしては頂けないなぁ」

「……もしかして、気付いてないの?」

「え?」


私の放った言葉にアクアがキョトンとした表情(?)を浮べる。
テストが終わったんだし、タネ明かししておかないとね。


「あの炎の海は“幻”だよ」


片腕を上げ指をパチッと鳴らせば、見る見るうちに元の光景へと変わり果てた。


「……もしかして『幻術』って奴?」

「その通り!私の得意技さ」


霊体化していたマーリンが私の隣に現れ、アクアの問いに答えた。
本物は先程アクアに直撃した炎だけだ。
足場に焦げが残っているのがその証拠である。


幻術
人を惑わす魔術と言われており、対象の精神への介入や現実世界の虚像投影を作り上げたりする。
マーリンはこのスキルが高レベルである、恐らくこの演習試験を見ているであろう人達も騙されていたはず。

機械すらも欺くのだ。宝具のタイミングと合わせて貰ったから、私が放った炎が燃え移ったと思っているだろう。
そう簡単に見破れるようなものじゃないからね、彼の幻術は!


「直接だけじゃ勝てないと思いました。だから、彼の力を借りて『心理攻撃』も加えたって訳です」

「へぇ、相手が動揺した隙を狙った訳だと。流石に精神攻撃には適わないや」


炎の海が広がっていると錯覚してしまう。
状況に詰みを感じた所を狙った訳だ。


「火災現場では救世主って言われてる僕が、ハンデがあるとはいえ炎に負けちゃうなんて……」

「……落ち込みました?」

「いいや、闘争心に火が付くね!」


どうやら逆にやる気になったらしい。
多くの火災現場にいるからこその向上心だろうか。


「……名前は今までにいないヒーローになるかもしれないね」

「? 何か言いましたか?」

「……いいや」


アクアが何か言ったように聞こえたが、どうやら私の気のせいだったようだ。
擬態を解除した瞬間、試験クリアのアナウンスが流れた。



***



「五分」

「?五分?」


モニタールームへと戻っている途中、マーリンが口を開いたと思えばそう言った。
……五分とは一体?


「今回、君がサーヴァントに擬態し、更に力を解放した状態を維持できた時間だ。宝具を発動した後も姿を維持できた事を考えると、ただ姿を保つだけなら十分は維持できるかな」

「ほんと!?」

「ああ。日々努力しているようだね」


ポンッと頭に乗せられた温もりと同時に嬉しいという感情がわき上がってくる。


「魔力のコントロールも出来るようになっているみたいだし、後は君の使い方次第になるかな?」

「これもみんなが訓練に付き合ってくれているお陰だよ。ありがとう!」

「どういたしまして」

「これで私も、誰かを守れるようになるかな……?」


見上げたマーリンの表情は太陽を背後にしていた為、逆光でよく見えなかった。
でも勘違いじゃなければ、少し悲しそうな表情をしていたような……。気のせいか。


「そういえば次の演習試験は、君の大事な大事な幼馴染達だろ?見なくて良いのかい?」

「あっ!!そうだった!!」

「こらこら、私の魔術で部屋の前まで送ってあげよう」

「じゃあありがたく!」


実はちょっと疲れてたからありがたい!
マーリンの元へ駆け寄り、足下に魔法陣が展開したと思えば目の前にはモニタールームの扉が。


「あっ、名前ちゃん!試験おめでとう!」

「ありがとう、お茶子ちゃん!」

「見てたわ、名前ちゃんの演習。すっかり騙されちゃった」

「映像機器すらも欺いちゃうからね、うちのキャスターは!」


梅雨ちゃんの言葉にそう返すと、隣に立ってたマーリンの顔がふふんっ、と胸を張る。
……顔の周りにキラキラのエフェクトが見える気がする。


「ところで、二人はどうなってる?」

「……見ての通りですわ」


百ちゃんから伝えられた言葉を聞き、『やっぱりか』と思ってしまった。
彼女の隣へ移動しながらモニターへ視線を移す。
その光景はお茶子ちゃん達からみれば『恐ろしい』『地獄』と言えるだろうか。


「No.1は相手にしたくないね〜」

「うちの子達、脆い子多いもんね」

「うぅ、想像しただけでも鳥肌が……」

「キャスターも鳥肌が立つんだ」

「君は私の事を何だと思ってるんだい?」

「え?人でなし碌でなしでしょ?」


……あーもう後ろから揺らさないでよ!!集中して見れないじゃない!!
それに私が言ってるのは間違ってない、事実でしょうが!?





2022/2/16


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