第11節「備えろ期末テスト」
一日はあっという間に過ぎるもので、次はヒーロー基礎学の授業だ。
「はい、私が来たー。てな感じでやっていく訳だけどね、はい!ヒーロー基礎学ね!久しぶりだな少年少女〜!元気か!?」
ゆるい名台詞を口にするオールマイト先生に心の中で苦笑いしつつも、授業内容に耳を傾ける。
今日も相変わらずいーちゃんはオールマイト先生に釘付けである。
今日の授業内容は『救助訓練レース』。
私達が職場体験後という事でこの内容らしい。
「救助訓練なら、USJでやるべきではないのですか?」
「あそこは災害時の訓練になるからな〜。私は何て言ったかな?……そう!レース!!」
私も救助訓練と聞いて、飯田君と同じくUSJでやるべきなのではと思っていた。ありがとう飯田君、質問してくれて。
現在私達がいる場所は『グラウンドγ』。
この場から見える限り地形は工場みたいな造りになっているようだ。太いパイプ管はそこら中にに見える。
5人4組に分かれてるのだが、このクラスは21人いるので何処かの組が6人になるようだ。
オールマイト先生が救難信号を出すと同時にスタート。
誰がオールマイト先生の元へ一番早くたどり付けるか、というものだ。
「勿論建物の被害は最小限に、な?」
「指指すなよ……!」
まあ、初めのヒーロー基礎学であれだけ目立ってたらそりゃあ名指しされるよ、かっちゃん……。
***
「主殿、誰をお使いになるんです?」
「んー、迷うな〜?」
霊体化を解いて空いた隣に現れた今日の護衛、小太郎にチラチラと視線を投げかける。
態と迷っているフリをすれば不満さと困っている表情でこちらを見ている。つまり見ていて面白い。
「僕が此処にいるのに使ってくれないんですか……?」
「うーんと、どうしよっかなー?」
「僕で遊ばないでくださいっ」
「あははっ、ごめんごめん。貴方の力を貸して?アサシン」
「!……勿論です」
差し伸べた右手に私より大きい小太郎の手が重なる。
それに共鳴するように、右腕に刻まれた令呪が反応して赤い輝きを放つ。
魔力が小太郎のものに染まり、閉じていた目を開ければ長くなった前髪で視界が遮られていた。
レッグホルダーに入れていたヘアピンを取りだし、左目を露出させれば完成だ。
そういえば一番最初の組にいーちゃんがいたはず。
さていーちゃんはどんな風にレースを取り組むのかな?
「飯田、まだ完治してねーんだろ?見学すりゃいいのにぃ……」
「クラスでも機動力良い奴らが固まったなー」
それぞれ4組に分かれ、いよいよレーススタートだ。
最初の組はいーちゃん、飯田君、尾白君、三奈ちゃん、瀬呂君だ。
切島君が言ってるように、クラスの中で機動力の高い組が集まっている。
私の組はいーちゃん達の組が終わった後である。
「うーん、強いて言うなら緑谷さんが若干不利でしょうか?」
「確かに。ぶっちゃけ彼奴の評価って定まんないんだよねー」
「何か成す度に大怪我していますからね……」
百ちゃんと響香ちゃんの会話を聞きながら、ヒーロー殺しの時のいーちゃんを思い出す。
雄英に入学して初めて見たいーちゃんの個性。百ちゃんの言う通り何かする度に彼は大怪我を負っていた。
でもあの時は自分の個性の反動による怪我を見ていない気がする。
……あれ、そうだよね?味方の様子を見る余裕なかったからはっきりと覚えてないや……。
「トップ予想な!俺、瀬呂が一位!」
「おぉ〜、んー。でも尾白もあるぜ!」
「おいらは芦戸!彼奴運動神経すっげーぞ!」
「デクが最下位!」
「怪我のハンデがあっても、飯田君な気がするなー」
「ケロ」
切島君によって誰が一位なのか予想が始まった。
かっちゃんは安定でいーちゃんに意地悪だ。
「じゃあ私はいーちゃんが一位に一票入れようかな」
「えー」
響香ちゃんが私の言葉に不満そうな声を出すと同時に開始の合図が鳴り響いた。
モニターに移るのは、現在一位の瀬呂君だ。
「ほら見ろー!こんなごちゃついたとこ、上に行くのが定石ー!」
「となると、滞空精度のいい瀬呂が有利か……」
切島君嬉しそうだなー…。
ふむ、たしかに上に行けば視界も広がる。オールマイト先生の居場所を見つけやすいだろう。
誰もが瀬呂君が一番だと思っていたその時。
彼の横を通り過ぎる者が。
「「うおおおぉっ!?緑谷ーッ!!?」」
「なんだその動きは!?」
緑色の稲妻を纏いながら瀬呂君を抜いたのはいーちゃんだ。
あれはヒーロー殺しとの戦闘で見たものと同じだ!
それにしてもあの動き、何処かで……。
「まさか……!」
自分の後ろ付近にいる人物をチラリと見る。
そうだよ、あの動きはかっちゃんにそっくりだ!
……かっこいいよ、いーちゃん。
そう思っているとカメラから消えた。もしかして落下した?
まあパイプは足場としては不安定だから……。気をつけてね、いーちゃん。
2022/2/4
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