第11節「備えろ期末テスト」
次の日
「かっちゃん、どうしたの?そのか」
「うっせ!!!」
「いや、まだ喋ってるとちゅ」
「黙ってろ!!!」
登校中
かっちゃんらしき人物を見つけたので声を掛けたら、本当にかっちゃんだったのだが……何故か髪型が変わってた。イメチェンって奴?それにしては不機嫌だ。
気になったので尋ねてみたのだが、怒鳴り声しか返ってこないし理由を答えてくれない。そもそも喋らせてくれない。
それは学校に着くまで続き、教室の扉を開けた瞬間一気に視線が集まった。
「「はっはーっ!!マジかっ、マジかよ爆豪ーッ!!」」
「笑うなッ!!癖着いちまって洗っても直んねーだァ…!
そして響く笑い声。
かっちゃんの髪型を見て、切島君と瀬呂君が大爆笑していた。
…切島君、瀬呂君。顔すごい事になってるよ。
涙溜めてるし、相当面白いんだな…。
これはプライド高いかっちゃんにはきつい時間だ。
「おい笑うなァ!ぶっ殺すッ!!」
「やってみろよ8:2坊や!!アッハハハハッ!!」
「んだろゴラァッ!!」
「「戻ったーっ!!」」
あ、髪戻った。
やっぱりかっちゃんと言えばこの髪型だね。
三人のやり取りに苦笑いを浮べながら、自分の席へと向かうと三奈ちゃんが話しかけてきた。
「ねーねどうだったの!?お父さんとこだったんでしょ?」
「あ、あー…。とても有意義だったよ」
そういえばみんなに両親の所へ職場体験に行くと言ったんだった……。
そんなことを思い出しながら感想を三奈ちゃんに伝える。
返しが完全にお茶子ちゃんと被ってしまった。
「名前もヒーロー殺しと遭遇したんだよね?……怪我大丈夫なの?」
「うん。もう完治しているから今は何ともないよ」
響香ちゃんが心配の声を掛けてきた。
私としては自分よりももっと酷い怪我を負った飯田君が気になってるんだけど、心配されるのはちょっと嬉しい。
酷い話だが人間は自分が一番可愛い生き物だ。基本、他人にはそういった感情は普通向けない。
その感情を向けるのはその相手を信頼しているから、好感を持っているから心配をするんだと思う。
……まあヒーローなんだから慈悲深くないといけないんだけどさ。
「まあ、一番変化というか大変だったのはお前等4人だよな!」
クラスはそれぞれの職場体験の話で盛り上がっていたが、ついにヒーロー殺しについて触れられた。
その視線はその事件に関わった私達に向けられた。
「そうそう“ヒーロー殺し”!」
「命あって何よりだぜ、マジでさ!」
「心配しましたわ……」
「エンデヴァーが助けてくれたんだってな!」
「すごいね〜、流石No.2ヒーロー!」
クラスメイトが話す内容はあの日署長さんから言われた通り、ヒーロー殺し逮捕はエンデヴァーさんの功績として発表されていた。
実際は私達4人によるものだと言いたいけれど、これはこの事件に関わった者達で共有する『秘密』だ。
「……そうだな。助けられた」
「……!うん」
きっと焦凍君も同じ事を思っていたんだろう。
相変わらず表情の変化がないから分かりづらいけど。
「俺、ニュースとか見たけどさ……。ヒーロー殺し、敵連合とも繋がってたんだろ?もしあんな恐ろしいのがUSJに来てたらと思うと、ゾッとするよ……」
『その姿……英霊に擬態しているのか。彼奴が言っていただけあるな』
尾白君の言葉で思い出すのは、ヒーロー殺しが私に向かって放った何気ない言葉だ。
あの言葉はやっぱり敵連合と繋がっていたんだ。
「でもさぁ、確かにこえーけど……尾白、動画見た?」
「動画って……ヒーロー殺しの?」
「そう!」
動画?ヒーロー殺しの?
上鳴君と尾白君によるとヒーロー殺しについて動画がネットにアップされているらしい。
勿論うちの家にインターネットは繋いであるし、動画サイトを閲覧できる機械…携帯とかは持っている。でも連絡取る以外に使わないんだよねぇ。
「あれ見ると、一本気というか執念っつーか……かっこよくねー?!って思っちわねぇ!?」
「上鳴君っ」
「へ?……あっいっけねぇ!!わりぃ!」
「いや、いいさ」
いーちゃんに声を掛けられた上鳴君は、申し訳なさそうに飯田君を見た。
今の飯田君にヒーロー殺しについての話はタブーだ。
しかし飯田君はあっさりと許しの言葉を口にした。
「確かに信念のある男ではあった。クールだと思った人がいるのも分かる。……ただ奴は信念の果てに“粛正”という手段を選んだ。どんな考えを持とうとも、そこだけは間違いなんだ」
飯田君は既に立ち直っていた。
自分の過ちも認め、ヒーロー殺しの考えを理解した上で彼を否定していた。
「俺のようなものをこれ以上出さぬ為にも、改めてヒーローの道を歩む!」
「おぉっ、飯田君!」
「さあ!そろそろ始業だ!全員席に着きたまえ!」
すっかりいつもの飯田君だ。
何故か彼の姿が前よりかっこよく見えた。
2022/2/4
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