第9節「病院にて」
二日後
飯田君は診断されたその日に退院。焦凍君は軽傷だったので次の日に退院した。
未だに入院しているのは私といーちゃんだけだ。
「名前ちゃんはもう退院できそう？」
「そろそろかなぁ。やっとまともに動けるようになったし」
今私達がいるのはテレビが設置されたロビーだ。
署長さんが来たその日に私は個室の病室を移された。
しかし、驚く程に人がいない。つまり二人っきりと言う訳だ。……いや、エドモンが霊体化して何処かにいるだろうから二人っきりではないかな。
「名前ちゃんのご両親がアクアとサナーレって、未だに実感ないや」
「隠してたのもあるし、そもそも二人は顔出ししてないからね……。いーちゃんの予想の中に二人は入ってた？」
「年齢が分からなかったから外したんだ」
「出身校と誕生日、個性以外は内緒にしてるからね」
二人曰く、内緒にしていることが多い方が魅力に見えるらしい。
両親の顔を見たいーちゃんの反応、きっと面白いだろうなぁ。だってあの二人年齢詐欺だもん、顔面が。
「前から思ってたんだけど、サーヴァントという存在をどうやってコントロールしているの？」
「えっと……」
「俺達が名前に操られている？違う」
いーちゃんの質問に答えようとした時、言葉を遮ったのは私の隣に姿を現わしたエドモンだ。やっぱり近くにいたんだね。
エドモン、顔怖いぞ。いーちゃん怯えてるじゃない。
「えーっと……彼はアヴェンジャー。女性のアヴェンジャーもいるけど、アヴェンジャーって呼んでるのは二人しかいないから、違いは分かると思う」
昨日はタイミングがなかったのでエドモンについて紹介する。
私と契約しているサーヴァントはクラス被りしている子はいるけど、性別で区別は出来ているので混ざることはないだろう。……え？エルキドゥはどっちなのかって？
可愛いから女の子扱いで良いんじゃない？体格は男性にも見えるけど女性にも見えるし。
「話を戻すけど、私はサーヴァントを一切コントロールしていないよ」
「そ、そそそそっか」
「……アヴェンジャー、顔」
「む」
いーちゃんが怯えて会話が成立しないと察し、この場からエドモンを退場させようと考えた結果、飲み物を買ってきて貰うことにした。
エドモンの気持ちも分かる。けどいーちゃんは純粋な疑問を問いかけてきたのも分かる。
……うーん。どちらの気持ちも分かってるからこそ複雑な気分である。
＊＊＊
エドモンが私達の飲み物を買いに退場した事でいーちゃんも緊張が解けたようだ。
買ってくるから何が飲みたいか、と問われていた時すんごい顔だったな。
ごめんねいーちゃん。彼に悪気はないんだよ。
「アヴェンジャーさん怒ってるかな……」
「うーん、もしかしたら気に障ったのかも」
「後で私が何とかしておくから」と言うと、いーちゃんは申し訳なさそうに謝った。
やっぱり彼は純粋に問うてきただけだった。
「僕、名前ちゃんの個性は常闇君みたいな感じなのかなって思ってたんだ」
「！あぁ、常闇君」
常闇君の個性は『黒影』。黒影と書いてダークシャドウと読むらしい。
私の個性にちょっと興味があるらしく、偶に個性について聞かれたりするんだよね。
問われたから常闇君には話していたけど、そういえばクラスのみんなには話していなかったな。
「確かに常闇君の個性に似ているけど、彼の個性とは似ているようで違うんだ」
「似ているようで違う？」
「うん。常闇君の身に宿っている黒影は常闇君が操作して戦っているけど、私はサーヴァント達を一切操作していない。力は借りてるけどね」
「えっ！？」
「つまり、彼らは自立した存在って訳」
そもそも、サーヴァントという存在を操れる訳がない。
マスターという存在でサーヴァントは存在する事ができるけど、力関係は間違いなくサーヴァントの方が上だ。
もし私が彼らの怒りに触れれば……きっとその場で首を落とされるだろう。現に前世で殺されかけた事あるし……。
「その通り。俺達は俺達の意思で動いている。この場に存在する為に必要な魔力を供給して貰っているだけで、周りから見ればそこらにいる人間と同じだ」
「ひぇッ！！？」
「あ、おかえり」
後ろから聞こえた声の主、エドモンから買ってきて貰った飲み物を受け取る。
いーちゃんは急に後ろから声が聞こえて驚いたのか、胸を押さえてゼーハーゼーハー言ってエドモンを見つめていた。
エドモンから受け取ったいーちゃんの分の飲み物を渡すと、「ありがとう」と言って受け取ってくれた。
「サーヴァントって一人だけでもすごい強い存在なんでしょ？……そんなの、敵に狙われて当然だね」
「うん。……だから、どうやって個性について知ったのか、すごく気になるの」
思い出すのは、体育祭前に学校を襲撃した敵連合と呼ばれる人達。
丁度、テレビで敵連合について流れていた。
第9節「病院にて」 END
2022/2/4
prev next
戻る
×