第9節「病院にて」
『大人のずるで君達が受けていたであろう賞賛の声は無くなってしまうが、せめて……。友に平和を守る人間として、……ありがとう』
先程署長さんから言われた言葉を思い出しながら、テレビで流れている内容を黙って見つめる。
署長さんが言っていた通り、ヒーロー殺し逮捕はエンデヴァーさんの功績として報道されていた。
……もしこれがちゃんと資格を取得していた場合、私達の名前が載っていたんだろう。
「ナマエ」
「うん」
検査が終わった帰り。
テレビで流れていた内容を見たくて車椅子を押してくれているエドモンに止まって貰うようにお願いした。
暫く眺めていたテレビの内容は別のコーナーに移り、ヒーロー殺しについての内容が終わったのを確認できる。
もう此処にいる用事は無い。
エドモンの声に返事をした後、ゆっくりと車椅子が動き始めた。
エドモンは私の怪我に気を使ってくれているのか、車椅子はゆっくりと動いておりとても心地が良い。
検査中に預かって貰っていた携帯をエドモンから受け取り画面を見てみると通知が大量に表示されていた。その通知は私とサーヴァント達のグループトークのものだ。……特に多いのがギルとジャンヌだ。数えたくない。
とりあえず無事だと言うメッセージを送り、携帯をスリープ状態にする。
「……エドモン?」
人通りの少ない廊下。
急に止まったので、つい真名で呼んでしまった。
どうしたのかと思い上を見上げようとした。
「本当に無事で良かった……」
「心配掛けてごめん……」
車椅子に座る私の後ろから伸びた逞しい腕。
その腕にそっと触れる。
横に感じるエドモンの髪がくすぐったい。
前世で私は彼らの目の前で命を落とした。
その光景は彼らの心に強く深く刻ませてしまった。
だから彼らは些細な事でも過剰に反応し、私に害のある人物に対し敵意を剥き出しにする。
……初めはヒーローになることを猛反対されたっけ。
ヒーローは危険な仕事だ。……最悪死んでしまうだろう。
それでも私は誰かを守る為にこの力を使いたいんだ。
「お前が決めた事を邪魔したく訳ではない。だが、こうも怪我が多いと……」
「辞めないよ」
ヒーローを目指すことを。
今回の出来事で折れたりなんかしない。
言葉を遮りその意思が強い事を示す。
顔を上げたエドモンを見上げると、悲しそうな金色の瞳と視線がぶつかった。
***
「あら?いーちゃん」
「あ、名前ちゃん」
病室の前でばったりいーちゃんと遭遇した。
携帯電話を持っていたので、恐らく誰かと電話でもしていたんだろう。
自分の手元を見られてる事に気付いたのか、いーちゃんはさっきまで通話していた事を話してくれた。通話相手はお茶子ちゃんらしい。
「診察終わったんだね」
「うん。暫く安静って言われた」
「そっか〜。びっくりしたよ、だってお腹刺されたって言われたらもう……っ」
「ああっ、いーちゃん泣かないで!?」
いーちゃんには私の個性について詳しく教えたはずなんだけど……。
訓練では手加減しないようお願いしている為容赦なく攻撃されるので、怪我する事に慣れてしまった。あれ、これって慣れないの方が良いのかな……。
「ほら、いつまでも此処にいると目立つし……入ろうよ」
「うん……っ」
何とか泣き止んだいーちゃんにそう声を掛け病室のドアを開けて貰う。
「名前ちゃん先にどうぞ」と言われたのでありがたく先に入る。まあ車椅子動かしてくれているのはエドモンだけど。
「あっ、飯田君!今、麗日さんがね……」
「緑谷、名前。飯田、今診察終わったとこなんだが……」
病室に入ると焦凍君と飯田君が視界に入った。どうやら二人は私達より先に診察が終わったらしい。
いーちゃんの言葉を遮って焦凍君が私達に話しかけた。
視線は飯田君に注がれる。
「___左手、後遺症が残るそうだ」
飯田君の言葉に頭が真っ白になった。
後遺、症……?
「両腕ボロボロにされて、特に左のダメージが大きかったらしくて……。腕神経叢という箇所をやられたようだ」
___私、何もできなかったの……?
「そんな顔しないでくれ、苗字君。手指の動かしずらさと腕の痺れぐらいなものらしく、手術で神経移植をすれば治る可能性もあるらしい」
「そ、そう……なんだ」
私、上手く出来てなかった?
あの時言ってくれればもっと……!
「君の治療が不十分だったわけじゃない。だから、自分を責めないでくれ」
「!」
……そんな事言われても、私の心は救われない。
あの時、後遺症が残らない所まで治せたんじゃないのか。
「……奴は憎いが奴の言葉は事実だった。だから、俺が本物ヒーローになれるまで、この腕は残そうと思う」
これ以上私が口を出すのはいけない事だろうか。
……この払いきれない気持ちはどうしたらいいの?
2022/2/4
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