第9節「病院にて」



現在、保須総合病院

私、いーちゃん、飯田君、焦凍君はこの病院に運ばれ、きちんとした治療を受けて入院する事になった。


「寝られたか、緑谷」

「ううん、あんまり」

「だろうな。俺もだ」


ちなみに同じ病室にいるんだけど、暫くしたら別室に移ることになっている。
夜遅くに病院に来たから、昨夜は丁度空いてた病室に4人纏めて入れたんだろう。
私は気にはならないけれど、いーちゃん達はきっと気にするだろうからありがたい。

普段サーヴァント達と一緒にいるからなのか、男女混合でも気にならなかった。これは完全に感覚が麻痺しているぞぅ、私……。
もしかしていーちゃんと焦凍君の会話の内容の奴、私も原因の1つだったとしたら………申し訳ない。


「冷静に考えると、凄いことしちゃったね」

「そうだな」

「あんな最後見せられたら、生きてることが奇跡だって思っちゃうね」


いーちゃんは自分の足に視線を落とし、話を続ける。


「僕の足。これ多分、殺そうと思えば殺せてたと思うんだ」

「ああ……。俺等はあからさまに生かされた。あんだけ殺意向けられて尚立ち向かったお前はすげぇよ」


焦凍君は飯田君の方を向いてそう言葉を掛ける。
彼の言葉には私も同感だ。前世では人類でたった二人だけのマスターってだけで殺されそうになった事が何回もあったけれど、あの感覚は何度体験してもなれない。


「違うさ。……俺は」


飯田君が言葉を続けようとした時、遮るように病室の扉が開く。


「おぉ、起きてるな病人共」

「グラントリノ!」

「マニュアルさん……」


そこにいたのはいーちゃんの職場体験担当であるグラントリノさんと、飯田君の職場体験担当であるノーマルヒーロー『マニュアル』さんがいた。
しかし私の位置からはもう一人見えている。すんごい身長が高い人が。


「小僧!お前にはぐちぐち文句を言いたい!」

「あっ……すっすみませ」

「が、その前に。来客だぜ」


マニュアルさんに続いて入ってきた人物。
その人物に固まってしまった。


「保須警察署署長の『面構犬嗣』さんだ」


警察署署長というよりも先にその顔に目がいってしまった事を許して欲しい。
だって犬……!久しぶりに犬見た!
いつ以来かなぁ……?前世で新宿にレイシフトした時が最後だったかなぁ。

猫はよく見かけるんだよね、家の庭で。
何故かって?エルキドゥの周りに集まってくるんだよね。猫以外に鳥も。
そろそろ住み着くんじゃ無いかって心配してる……。

……って!自分の世界に入っている場合ではない!
偉い人が来ているんだ、立たないと!


「あぁ、掛けたままで結構だワン」


……ワン!?可愛い!!!
って違う!いや、違わないけど!!
立たなくても良いとは言われたが、せめて身体の向きだけでも……と身体を動かしていると、勝手に身体が署長さんの方へ向いた。

誰の仕業なのかと言うと、霊体化して姿を消しているエドモンの仕業である。後でお礼を言わなきゃ。
お腹を刺された時に負傷した怪我はすぐに治るだろうと思っていたのだが、今もなお私の身体に痛みは残っており、動く度に痛み昨日の出来事を思い出させる。
くそぅ、厄介な怪我を負ってしまった……。

しかし何故署長さんがわざわざ此処へ?


「君達がヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね」

「…はい」


……ワン。どうしてもそこが気になってしまう。だって可愛いんだもん!


「逮捕したヒーロー殺しだが……。火傷に骨折と中々重傷で、現在厳戒態勢の元で治療中だワン」


面構さんから言われたのは、ヒーロー殺しの状態。
……その怪我を負わせたのは私達で。


「雄英生徒なら分かっているとは思うが……超常黎明期、警察は統率と規格を重要視し、個性を部に用いない事とした。そしてヒーローはその穴を埋める形で対等してきた職業だワン」


署長さんが話し始めたのは、ヒーローを目指すと宣言した時に両親から口酸っぱく言われた事だった。

個性は個人の私利私欲の為に使ってはならない

個性は使いようによっては簡単に人を殺められる。
ヒーローが個性を使えているのは先人達によるモラルやルールを守ってきているからだと、両親から何度も聞いてきた。


「資格未取得者が保護管理者の指示なく個性で危害を加えた事……。例え相手がヒーロー殺しであろうとも、これは立派な『規則違反』なんだワン」


分かっている。
分かっているけど……、誰かが傷つく姿を黙って見ておく事なんてできない。


「君達4人及びプロヒーロー、エンデヴァー、マニュアル、グラントリノ、アクア。この8名には厳正な処分が下されなければならない」


署長さんの言葉を素直に認めていた時、後ろから反感の声が。


「待って下さいよ……!」


その声の主は焦凍君だった。


「待ってくださいよ……!飯田が動いてなきゃ、ネイティブさんが殺されてた!緑谷が来なけりゃ二人とも殺されてた!誰もヒーロー殺しの出現に気付いてなかったんですよ!?……規則守って見殺しにするべきだったって……!!」

「ちょっ、ちょっ…」


いーちゃんが止めようとするも、焦凍君の視線は署長さんに向けられたまま。
焦凍君が露わにしている怒りは、彼がヒーローを目指す心が“本物”だという事がよく伝わってくる。


「結果オーラなら規則を有耶無耶にして良い、と?」

「!人を助けるのがヒーローの仕事だろッ!?」

「だから、君は“卵”だ。全く……良い教育をしてるワンね。雄英も、エンデヴァーも」

「……ッ、この犬……ッ!!」

「辞めたまえ!最もな話だ!」

「焦凍君、落ち着いてっ」


気に障ったのか、焦凍君は署長さんの方へと近づいてきた。
私と飯田君、いーちゃんが止めようとするも焦凍君の耳には届かず。


「まあ待て。話は最後まで聞け」


グラントリノさんが二人の間に立った事で焦凍君は歩みを止めた。
ただし表情は変わらず、署長さんを見上げ睨み付けている。


「以上が警察としての公式見解。……で、処分云々はあくまで公表すればの話だワン」


先程までの堅い口調が急に柔らかくなった。
署長さんは鼻先を掻きながら話を続けた。


「公表すれば世論は君等を褒め称えるだろうが、処罰は免れない。一方で汚い話、公表しない場合。ヒーロー殺しの火傷痕からエンデヴァーを功労者として両立してしまえるワン。幸い、目撃者は極めて限られている。この違反は此処で握りつぶせるんだワン。だが、君達の英断と功績も誰にも知られる事はない」


公表した場合は処罰から逃れることは不可能。
しかし公表しない場合は私達の活躍は世に知られる事なく、私達は守られる。
……こんなの、迷う理由はない。


「一人の人間としては、前途ある若者の偉大なる過ちにケチをつけたくないんだワン」

「ま、どの道監督不行き届きで俺達は責任取らないとだけどな……」


先程の雰囲気から考えられないほど砕けた表情を浮べている署長さんに対し、マニュアルさんは涙を流しながらがっくりしている。


「……申し訳、ございませんでした」

「よし!他人に迷惑が掛かる、分かったら二度とするなよ」


マニュアルさん、良い人だな。
飯田君は良い所を選んだよ。
……お父さんにも申し訳ない事をした。後でちゃんと謝らなきゃね。





2022/2/4


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