第8節「ステインの思想」



「消火が追いつかない……!」


ノーマルヒーロ『マニュアル』は目の前に広がっている炎を消火すべく個性を発動させていた。
現在保須市は謎のヴィラン襲撃により町はパニックになっていた。
マニュアル含めその場にいるプロヒーローの目の前には二体のヴィランと対峙していた。


「一人ではこの火を消火しきれない……!他に誰か水関係の個性のヒーローはいないのか!?」

「お困りかな?」

「えっ!?」


マニュアルの背後から現れた大量の水。
その水を放出させているのは___


「アクア!?」

「はいはいアクアだよ〜。水個性が足りないんだって?うんうん、勿論消火手伝うよ!」


プロヒーロー、アクアだ。
何故此処に、というマニュアルの心情が出ている表情を気にすること無くアクアは一人で話を進めながら消火作業を続ける。


「ほらほら!さっさと消火しないと他の場所に燃え移っちゃうよ!」

「は、はい!」


彼の個性『ハイドロリック』は自身の水分を消費する事で水をその場に生成する事ができる強力な個性だ。
彼の個性はそれだけに留まらず隠密にも使用可能であり、自分の姿を透明にする事で相手からの視線をシャットアウトする事ができる多彩な個性でもある。


「そういえばさっきから気になってたんだけど……あれがヴィラン?」

「恐らく……」


アクアが加勢したことで消火作業が格段に上がり、辺りの炎が消え始めた頃。
漸くヴィラン……脳無の存在にアクアが気付いた。


「突然現れたと思えば街で暴れ始めて……この有様なんです!」

「なるほど、じゃああのヴィラン共が元凶で間違いなさそうだね。これ以上暴れ回られても困るし……さて、どうしようか」


消火作業を行いながらマニュアルから状況を聞くアクア。
彼の視線は脳無に向けられていた。


「よし、ちょっと消火作業一人でよろしく!あのヴィラン何とかしてくる!」

「えっ!?ちょっと!?」


アクアの自由気ままな行動にマニュアルは驚きながらも、任された消火作業を続ける。
駆け出したアクアは水を放出し脳無を水の中に閉じ込める。
自在に水を操る事ができる彼だからできる芸当だ。


「暴れられるのは困るからね、暫く大人しくして貰おうか。……さて」


もう一体の脳無に視線を移し、アクアは水で剣を生成する。
ほとんど隠れているが、彼の表情はヒーローそのものだった。

水で生成された剣を構え、アクアがヴィランへ接近しようと踏み込もうとした時だ。



「一斉に飛びかかれ!!」



その場にいた誰かの指示に周りが応答し、ヒーロー達が脳無に一斉に飛びかかる。
彼らの行動にアクアは驚いてしまい、脳無に向かっていた足を止めてしまう。

直後響く爆音。
脳無によって起こった砂埃で視界が悪くなる。それはアクアも例外では無く。


「ちっ……!」


視界が悪い中見えた影。
女性ヒーローの背後に巨大な何か……脳無の影にアクアが気付いた。


「後ろッ!」

「逃げろッ!!


アクアとマニュアルの声が同時に女性ヒーローに掛けられる。
砂埃が晴れ、現れたのはアクアが予想した通り脳無だ。


「くっ……間に合え……!」


女性ヒーローに脳無の拳が振り下ろされる___瞬間だった。


「エンデヴァー!?」


足を止めアクアは現れた人物に視線を奪われる。
彼の驚きの表情は段々と笑みを浮べ出す。

エンデヴァー
No.2ヒーローと呼ばれている誰もが知るヒーローの一人であり……アクアにとって好敵手の相手だ。
エンデヴァーは目の前の脳無に炎を浴びせ行動不能にさせた後、周りにいたヒーロー達に指示を出し始めた。


「……明か」

「今は『アクア』だけどな、炎司」

「ふんっ」


周りにヒーロー達がいなくなった後にアクアはエンデヴァーに歩み寄る。
アクアは「作った意味なかったなー」と残念そうに良いながらその場で水の剣をただの水と化して破棄するが、嬉しそうな所が隠せていない様子。


「さっき他のヒーローに言ってた場所、僕の娘も向かったんだよね」

「連れてきていたのか」

「勿論。お前だって連れてきてたんじゃないのか?親バカさん?」

「貴様に言われたくない」


互いに背中合わせになり、その場に立つ二人。
まさに炎と水だ。


「フラれた者同士、やることやっちゃおうよ」

「元からそのつもりだ」


エンデヴァーはヴィランの相手を、アクアは周りの火の消火を……と、それぞれの役割へと足を動かした。





2021/12/10


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