第7節「ヒーロー殺しステイン」
ごみ箱に捨ててあった縄を使って、焦凍君が気絶しているヒーロー殺しを拘束していく。
鎖で拘束する必要がなくなったので擬態を解除する。
「怪我が消えてる……」
「擬態中にできた怪我は元の身体には影響がないんだ。痛いことに変わりはないんけど……」
静かに驚いたいーちゃんにそう返し、彼の足に手を近付ける。
「な、えっ!?汚れちゃうよ!?」
「動いたら痛いよ」
「う……っ」
この世界に来てから試したことはない。
だけど、少しでも痛みを和らげることができるのなら……!
負傷したいーちゃんの足に近付けた手に明るい青色の線……魔術回路が浮かび上がる。
感覚を思い出しながら慎重に癒やしていく。
「……どうかな」
「さっきより、痛みが和らいだ気がする……!」
「ほんと!?上手くいって良かった……!」
だからといって無理をしたらダメだよ、と言おうとした瞬間「いだっ」と上からいーちゃんの短い悲鳴が聞こえた。……少し遅かった。
「流石にリカバリーガール先生みたいな治癒力はないから、期待しないでね……」
「はぁい……。でもすごいよ! 怪我を治せるなんて!」
「まだまだだよ。今みたいに完全に癒やせた訳じゃないし……」
「でも誰かを癒やすことができるのは、間違いのない事実でしょ?」
「!」
そうか。そうだね。いーちゃんの言う通りだ。
完全に治せるわけではないけど、癒やすことができるのは確かだ。
……これから身に付けていけば良い。慣れていけば良い。…この感覚に。
「よし! 痛みを軽減できる程度なら、力になれるかもしれない!」
「俺達を治すより先に自分の怪我治せ」
「い、痛いだけだから大丈夫だよ……」
焦凍君の鋭い言葉に苦笑いしつつも、怪我の治療に魔力を使う。
焦凍君、ネイティブさんと飯田君にも怪我の治療を試みる。
「君の個性は不思議だね。鎖を出したり怪我を治せたり……」
「あっははは……」
ずっとここにいたんだから、見られてて当然なんだよね……。ジャックについて触れられていないと言う事はその時は意識が無かったのかな。
「……飯田君。腕、どうかな」
「……あぁ。大丈夫だ、ありがとう苗字君」
私の問いに答えてくれた飯田君の声はいつもと違って覇気がなかった。
……この時の私は、彼が返事した言葉が偽りだった事に気付くことができなかった。
***
ヒーロー殺しを拘束して所持していた刃物を全て回収した後はもう此処に用はない。
路地を出る事になったのだが……。
「足怪我してるんだから、いーちゃんが!」
「いいや、名前ちゃん自分の怪我治療してなかったでしょ?だから名前ちゃんが!」
「ゆっくりなら歩ける!!」
「それだったら僕も!!」
禄に動けない私といーちゃんをネイティブさんが運ぶと申し出て下さり、私は足を怪我しているいーちゃんを、と言ったのだが……いーちゃんは私を、と言うのだ。
……ネイティブさんがいるからやりたくなかったんだけど、こうなってしまったのなら仕方ない!
こうなったら奥の手だ!
「いーちゃん。私が出来る事、いくつあるのか忘れてない?」
ニヤリといーちゃんに笑みを向けた後、右腕に令呪が浮き上がる。
右腕に浮かび上がる赤い光が路地裏に不気味に輝く。
「我が声に応じよ___エドモン・ダンテス!」
地面に触れていた右手を中心に魔法陣が展開していく。
……今世で令呪を使ってその場に召喚するのはこれで3回目だけど、こうやってじっくりと工程を見るのは初めてだ。
最初に召喚したときは強力な風圧に吹き飛ばされ、2回目は怪我で見る余裕がなかったから……。
輝きがピークに達し目を瞑った瞬間、身体が浮く感覚がした。
それと同時に膝裏と脇から背中に温もりを感じる。
「来てくれてありがとう、アヴェンジャー」
「……呼び出されたと思えば、なんだこの怪我は」
「……はははっ」
上を見上げて、自分を抱えてくれている人物…エドモンにお礼を言うが、お礼を言われた人物は綺麗な顔を歪ませている。
彼の言葉に答えることができなかったので笑って誤魔化すが、絶対意味がない。
せめてもの抵抗で目を逸らした。
「こ、これで問題無いでしょ!?ね!!?」
「う、うん……」
強引にいーちゃんを納得させた所でやっと路地裏を後にする。
……これ、俗に言う『お姫様抱っこ』って奴だよね?だからいーちゃんちょっと顔赤いんだよね!?
「ね、ねぇ?アヴェンジャー」
「ダメだ」
「まだ何も言ってないよ……」
この態勢恥ずかしい、と言おうとしたのだが私の言葉を遮って拒否を口にした。譲る気はないらしい。
ぐぬぬ……。抱えて貰っている身だから何も言えない……。
第7節「ヒーロー殺しステイン」 END
2021/12/10
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