第7節「ヒーロー殺しステイン」
ヒーロー殺しの個性でいーちゃんが再び動きを制限された。
また焦凍君が一対一になってしまった。
「氷と炎!言われたことは無いか?……個性にかまけ、挙動が大雑把だと!」
ヒーロー殺しの刀が焦凍君の懐へと流れていく。
ダメ……ッ、このままじゃ……!!!
「轟君ッ!!」
「焦凍君!!」
私といーちゃんの悲鳴が路地に響く。
動け、動いてよ……!!
思い通りに動かない身体にそう思っていた時だった。
「___レシプロ…ッ、バーストッ!!」
何度も耳にした言葉が聞こえたと思えば、エンジン音が横を通り過ぎていった。
目の前の光景に驚いた後に、笑みが零れた。
「飯田君っ!」
目の前に現れたのは、ヒーロー殺しの刀を蹴り折って遠くへ蹴飛ばした飯田君だった。
___個性の効果が解けたんだ!
最悪の未来から外れたことにホッとした瞬間、涙が零れた。
「解けたかっ、意外と大したことねェ個性だな」
「轟君も緑谷君も苗字君も……、関係ないことで申し訳ない…ッ」
「またそんな事を……!」
「だからもう、三人にこれ以上血を流させる訳にはいかない!」
先程と違い、飯田君の声は意思がはっきりとしていた。
……勿論、良い方向に。
「感化され取り繕うとも無駄だ。人間の本質はそう易々と変わらない。お前は私欲を優先させる『偽物』にしかならない。ヒーローを歪ませる“社会のがん”だ。誰かが正さねばならないんだ……!」
「時代錯誤の原理主義だ。飯田、人殺しの理屈に耳貸すな」
「……いや、奴の言う通りさ。僕にヒーローを名乗る資格など……ない。それでも、折れる訳にはいかない。俺が折れれば、『インゲニウム』は死んでしまう……!」
「……論外!」
ヒーロー殺しが飯田君に向かって接近してくる。
いち早く反応した焦凍君が飯田君を押しやって炎で応戦するが、どうやら躱されたようだ。
……さっきよりまた速くなってる!?
「バカ!!ヒーロー殺しの狙いは俺とその白アーマーだろ!?応戦するより逃げた方が良いって……!」
「そんな隙を与えてくれそうにないんですよ……!」
焦凍君君の攻撃を躱しつつも、ヒーロー殺しの視線は彼の後ろにいる飯田君とネイティブさんだ。
それに、動きは速くなってるようだ。
その様子が私には何処か焦っているように見えるんだ。
「轟君!温度の調整は可能なのか!?」
「左はまだ慣れねェ!何でだ!?」
「俺の足を凍らせてくれ!排気筒は塞がずにな!」
飯田君には何か考えがあるようだ。
二人の会話を聞いていると、上から強い殺気を感知した。
目だけで上を見ると、ナイフを構えたヒーロー殺しが!
「上ッ!!!」
私がそう声を出したときには既に遅く、ヒーロー殺しの手からナイフが投げられていた。
その方向は___焦凍君!
「ぐッ!?」
「飯田君!!」
飯田君が焦凍君を庇うように右腕を前に出していた。
ナイフは彼の腕に刺さってしまった。
「お前も止まれッ!!」
「ぐぁッ!!」
「飯田ッ!?」
「良いから早く!!」
相手の追い打ちが飯田君を襲う。
視界外の何処かにいるいーちゃんも心配だ。声は聞こえているから無事だとは思うけれど……!
「……ッ!動いた……?」
微かに手が動いた。
もしかしてそろそろ効果が切れそう……?
「!! 動く……!」
ふらつく身体を起こし、お腹の傷口を押さえながら上を見上げる。
そこには飯田君といーちゃんがヒーロー殺しを攻撃している所だった。
「!!」
宙を舞った刀を握る所を見逃さなかった。
相手に一番近いのは___飯田君!
回復してる暇なんてない。
絶対に外すな……成功させるんだ!
「行け……ッ!」
ヒーロー殺しの周りに砲門を出現させ、鎖を射出した瞬間、飯田君がもう一回蹴りをいれた。
次いで焦凍君の炎がヒーロー殺しを捉えた。
その隙を逃さないと言わんばかりに鎖は相手の腕と胴体に巻き付き拘束した。
「……鎖?」
「はぁ……上手くいった……」
「名前ちゃん、効果が解けたんだね!」
「あはは、何とかね」
頭を抑えながらこちらに笑顔を向けるいーちゃんにそう声をかける。
相手から抵抗を感じない。……どうやら気絶しているようだ。
「流石に気絶してるっぽい…?」
「じゃあ拘束して通りに出よう。名前、そのまま拘束しておく事は可能か?」
「今の私じゃずっと縛り続けておく事はできない。何か縛るものはないかな?」
「念のため武器を外しておこう。名前ちゃん、下ろすことはできる?」
「勿論」
いーちゃんの注文通りにヒーロー殺しを下ろす。
いーちゃんと飯田君がナイフを回収し、焦凍君が拘束具を探す事になった。
2021/12/10
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