第7節「ヒーロー殺しステイン」



今動けるのは焦凍君だけだ。
……早く回復して戦線に戻らないと!

幸いにもエルキドゥは再生能力が高い。
魔力を集中させればすぐに完治するだろう。ここはエルキドゥの再生能力の力を借りよう。


「自身が傷つく事を恐れず、身を挺して仲間を守る……。良い!!」

そう言いながらヒーロー殺しは、その長い舌で刀を舐めた・・・
その瞬間だった。


「ッ!?」


お腹に空いた傷口を防ごうと魔力を集中させていた時、身体の自由を奪われた。
再生していた腹部の動きが停止した。

身体が……言う事を聞かない……!


「う、動けない……!?」

ヒーロー殺しやつの個性か!」

「ごめん、焦凍君……ッ」


先程私を刺した刀に血が着いていた。
それを舐められたのか……!

相手の個性に掛かった瞬間、破壊音が目の前で響く。……焦凍君が生成した氷が破壊されたのだ。


「己より素早い相手に対し、自ら視界を遮る。……愚策だ!」


このままでは焦凍君とヒーロー殺しが一対一だ。
……動けなくとも個性は使えるはず!
そう思って個性を発動させようとするが、個性も身体能力の1つだと言う事を思い出した。
発動できない……!!


「それはどうかな……ぐッ!?」


破壊された氷の奥から現れたヒーロー殺しが、2本のナイフを投擲。その2本のナイフは炎を纏っていた焦凍君の腕に命中した。


「お前も……良い!!」

「ッ!?上か!!」


刀の先を下に向けこちらに落下してくる。
狙いは___ネイティブさん!!
このままではあの人が殺される……!1
動いて、動いてよ……!


「ッ緑谷!?」

「何か普通に動けるようになった!!」


焦凍君が驚いたようにいーちゃんの名を呼ぶ。
首を動かせない為、目だけで上を見上げると緑色の稲妻を纏ったいーちゃんが、ヒーロー殺しを掴んでいた。……動けるようになったんだ!


「!時間制限か?」

「いや、あの子はそこの子の前にやられたはず……。俺はまだ動けねぇ……ッ」


先程、焦凍君から聞いた話から考えたら、ネイティブさんが一番にやられていて、次に飯田君がやられているはず。なのにいーちゃんが先に動けるようになった。


「下がれ緑谷!」


焦凍君が氷を生成して隙を作り、いーちゃんが咳き込みながら戻ってきた。

……血液を摂取する事で相手の動きを奪う個性。
一体どういう仕組みなんだろう。


「血を取り入れて動きを奪う……。僕が先に解けたって事は、考えられるのは3パターン……!」


いーちゃんはヒーロー殺しの個性を『人数が多くなるほど効果が薄くなる』、『血の摂取量で効果時間が変化する』、『血液型で効果が違う』の3つのパターンで推察した。

……凄い。
ヒーローを目指す為に様々な人の個性を纏めて調べたり、どのような使い道があるのかと普段から考察している彼だからこそ、考えられる個性の性質を思いついたんだろう。


「血液型……。俺は『B』だ」

「僕は『A』」

「私も『A』だよ」


ネイティブさんはB型、私と飯田君はA型。
いーちゃんは確かO型だったはずだ。


「血液型。___あぁ、正解だ」


いーちゃんの予想は的中。
ヒーロー殺しの個性は相手の動きを制限し、その時間は血液型で変化するという個性だ。
だとしたら、O型であるいーちゃんは一番制限時間が短い……?


「個性が分かった所でどうにもなんないけど……」

「さっさと三人をどうにかして撤退してェとこだが、氷も炎も避けられるほどの反応速度だ。そんな隙見せらんねぇ。プロが来るまで近接を避けつつ粘るのが最善だと思う」

「轟君は血を流しすぎている。今度は僕が奴の気を引きつけるから、後方支援を!」

「……相当危ねェ橋だが、やっぱそれしかなさそうだな。___二人で守るぞ!」


どうやら先程まで私がやっていた引きつけ役をいーちゃんが引き継ぎ、焦凍君は変わらず後方支援を行う作戦で行くようだ。
此処から見える二人の背中がとても頼もしく見えて___


「……!」



『お任せ下さい、マスター』


もう二度と会うことができないサーヴァント・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と重なった。
二人が怪我している事を再認識すると急に不安が私を襲った。


「……っ」


何もできない事に歯を食いしばる事しかできない。
いーちゃんがヒーロー殺しを引き、焦凍君が援護攻撃を行う。
ヒーロー殺しは一人で二人の相手をしていても何処か余裕そうな所を感じる。……気のせいじゃなければ、さっきより動きが速くなってる……!?


「止めてくれ……もう、僕は……ッ」


すぐそばで飯田君の震えた声が聞こえる。
私の後ろにいる彼の表情は、当たり前だが見えない。だけど想像することはできる。


「……ッ、止めて欲しけりゃ立て! ___なりてぇもんちゃんと見ろ!!」


焦凍君は振り返る事無く、飯田君にそう言葉をぶつけた。
その言葉は、向けられた対象ではない私にも響いた。


『人間として生きるんだ、名前ちゃん』


ドクターが私によくかけてくれた言葉は、私に望んだ姿は、そう言う意味だったのだから。





2021/12/10


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