第7節「ヒーロー殺しステイン」



「……!傷が……!?」



焦凍君が驚いた様子で負傷した私の腕を見る。

何故驚いているのか。
それはその場で怪我が癒えているからだ。

私にはお母さんのような治癒能力はない。
では、どうやって怪我を治しているのか。答えは『魔術』だ。


前世ではマスターをやっていたから、サーヴァント達のサポートもやっていた。いやサポートばっかりだったな、うん。
戦えない分、サーヴァント達を支援できるように……と、礼装頼りにならないよう私なりに魔術を勉強して習得した結果が『治癒魔術』だ。これは習得した魔術の1つに過ぎない。

そういえば、立香君が召喚したあるサーヴァントが魔術による治療を一切認めないって言ってたなぁ……。


「怪我をその場で治す事ができるのか。面白い、英霊の姫とやら」


ステインはニヤリと笑ってこちらを見る。
無闇に近づくのは良くない。
ならば……


「アサシン、交代だよ」
『分かった!』


擬態を解除し、再び右腕に令呪を浮き上がらせる。
今の私ではジャックの能力を生かす事ができない。
だったら、相手の動きを止めればいい!


「擬態、”エルキドゥランサー”!」

『分かったよ、マスター』


エルキドゥの魔力を感じる。……擬態に成功したようだ。
しかし、これ以上擬態するサーヴァントは変えることはできない。

大丈夫だ。
いくら相手が神様じゃなくとも、天の鎖に捕まってしまえば逃れることは困難なんだから……!


「今の私じゃ相手の動きに着いていくだけで精一杯……なら、相手を拘束するまでッ!」


砲門を開き鎖を射出する。
生きているかのように動く鎖をステインは刃物で弾いたり高い機動力で躱していく。
……くっ、なんて速いの……!!


「!!」


上を取られた!!ならば迎え撃つ!!
手に魔力を集中させ、光の刃を形成する。
顔の前で腕を交差させ受けに入ろうと構えた瞬間、目の前に大きな氷が現れる。
ステインはその氷を足場にとんぼ返りした。

……やっぱり素の身体能力が高いんだ。ジャックに擬態して彼女の力が反映されているだけの私じゃ適うわけがない。


「ありがとう、焦凍君」

「ああ。……今の鎖みてぇな奴で拘束する事は可能か?」

「勿論。速いけど……隙ができればすぐに拘束できる」


ただ、その隙を作らせてくれるのかが問題だ。
やはり隙を作るには、誰かが気を引かなければならない。
商都君の個性は遠距離型だ。接近戦には向かない。

やっぱりここは私がやらなければ。
エルキドゥは万能だから、接近戦にも対応できるとも……!


「焦凍君、私が前に出る! 援護を!」

「ああ!」


焦凍君と息をあわせ、ヒーロー殺しの隙を作ろうと動く。
エルキドゥに擬態している今は、彼女のスキル『変容』でパラメーターを状況に応じて振り分けられるという、とんでもないスキルのお陰で何とか相手と対等に戦えている。
今は筋力と敏捷を中心に振り分けているが、これでやっとだなんて……!
自分がどれだけサーヴァントみんなの力を生かせていないのかがよく分かる。


「面白いッ、面白いな英霊の姫!しかし___」

「ッ!」

「防いでばかりではつまらん」


確かにずっと受け手ばかりでは、かなり分が悪い。
魔力が切れてしまえば間違いなくこちらが負ける。その間に動きを止めたいんだけど……ッ!


「速い……!」


相手の周りを囲うように砲門を展開し鎖を射出するも、上に飛んで躱されてしまった。
反応速度が早過ぎる……!

焦凍君が援護攻撃を仕掛けるも、それすら躱されてしまう。
プロヒーローがくる間までとは言われたけど、二人で戦っていても動きを止められないなんて……!


「……うっ」


まずい。
魔力消費が激しすぎたのか、身体がふらつき始めた。
貧血に似た症状に襲われ、その場に足を着いてしまう。


「強力故に持て余している……だが、生かす価値はある」

「!」


そんなの、私が一番分かってる……!
ヒーロー殺しを睨み付けるように顔を上げたが、視線が合わない。
相手の視線の先は___飯田君!
脳が判断した瞬間、身体がその方向へ動いた。


「あぁッ!?」


お腹に刺さった刀。
刃こぼれしてるから余計に痛みが走る。
思いっきり引き抜かれ、その場に座り込んでしまう。

盾になるように地形を変化させれば良かったのに、咄嗟に身体が動いてしまった。
こういう所が、まだまだ使いこなせていないって言われる所なんだと改めて自覚する。


「苗字君……っ!」

「だい、じょうぶ……怪我はどうにでもなるから……!」


飯田君にはそう言ったものの、今は回復に少し時間が欲しい。
焦凍君が視界を遮るように氷を生成し、こちらを振り返る。


「目を離したらダメ……相手に集中!」

「だけど!」

「ちょっとだけ、回復に時間を頂戴?回復さえできれば、動けるようになるから……!」


聞いた話、サーヴァントに擬態している間は全て擬態主であるサーヴァントがダメージを肩代わりしてくれているという。
なぜその仕組みなのかは、マーリンによる推測だけど、サーヴァントは魔力の篭もった攻撃以外の攻撃が効かない。
それが反映されていて、私本来の身体に怪我が残らないのではないか、というものだ。

だから私自身・・・が怪我を負っている訳ではない。
それを分かっているから私自身は落ち着いていられるけど、他はそうではない。


焦凍君や飯田君のポジションだったら、私もその人のこと心配するもの。





2021/12/10


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