第7節「ヒーロー殺しステイン」



ヒーロー殺しが刀を構えてこちらへ向かってくる。
ジャックのステータスは受け太刀には向いていない。できないことはないけど、彼女の利点は元が人間ではない故の身体能力だ。


「……!」


ジャックに擬態した今、人間離れした動きが可能になっている。
個性という不思議な現象が発展したこの世界では、驚くことじゃないかもしれないけど。
ジャックほど小さい訳ではない私だけど、彼女に擬態しているからこそできる芸当故に、ヒーロー殺しの懐に潜ることは簡単だ。

いつもならこのまま一刺し。それがジャックのやり口であり、今まで私が生きてきた場所では当たり前のように何度も見てきた。自分だって似たような事をやっていた。
しかし、この世界では“殺す”という行為は犯してはならない。


「!」


視界の端でヒーロー殺しがナイフを抜こうとしたのが見えた。
咄嗟にナイフの柄の先で懐を突き、もう片方の手に持っていたナイフで向こうの攻撃を受け太刀する。
いくら女だからってサーヴァントの能力を嘗めない方が良い。攻撃する瞬間のみ力が増幅する子だっているからね。

だけどやっぱり


思いっきりやれないのは気分が良くないね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


これはジャックとしての本音なのか、自分の心の奥に眠る兵器としての本音なのか、両方なのか。

鳩尾を狙って突いた為、呼吸器官に影響が出ているらしい。
その隙を見て少し後退する。


「大丈夫か」

「それはこっちの台詞だよ」


見たところ焦凍君に怪我は見られない。地面に伏せているいーちゃん達は所々切り傷があるように見える。
まずは状況を確認したい。焦凍君に今の状況の説明を要求した。


事の発端は、プロヒーローのネイティブさんがステインに襲われ、そこに飯田君が助けに入ったらしい。
……やっぱり保須市のヒーロー事務所を職場体験先として選んでいたんだ。
嫌な予感が的中してしまい、少し顔を顰める。


「名前ちゃん……ッ、彼奴に血ィ見せたらダメだ……!」

「血?」

「個性だよ!彼奴に血を舐められると動けなくなる!!」



なるほど、血を舐めることで発動する個性か。
だからいーちゃん達は動けないんだね。

10年以上この世界で生きているけど、やっぱり個性は不思議だね。未だによく分からない。


「ありがとう、いーちゃん。気をつけるよ」


今の私は完全に接近型だ。
いくらジャックの身体能力があるとはいえ、油断できない。


いーちゃんとの会話を終えた瞬間、ヒーロー殺しが動き出した。
結構強く突いたつもりだったんだけど、あまり効いてなかったかな。
それとも、向こうの回復が早かったのか。
今は向かってくる相手をどうにかしなければ。……私と焦凍君、この場で動ける二人で。


「まずは武器を何とかしよう。血を舐められさえしなければ個性は発動できない」

「じゃあ私は向こうの注意を引くよ。焦凍君、君の氷で相手の動きを封じられる?」

「やってみる」


焦凍君が冷気を纏いだしたのを見て、私はナイフを構え直した。
向こうの持つ武器を弾く事だけを考える。

相手はどうやら私の動きを止めたいようで、焦凍君よりこちらの方を狙いを定めた。
それはそれで好都合……!


「女なのに俺の攻撃を簡単に受け止め、更に動きに着いて来れる……。英霊という存在に擬態するだけでそれほどまでに強化されるのか。面白い」

「それは褒め言葉?彼女も喜ぶよッ」


ヒーロー殺しが持っていた刀が宙に弾け飛ぶ。
このまま放置していては相手に拾われる事は間違いない。
ジャックに擬態した私と同じくらいの速さを持っているんだ。隙を与えてはならない。
落下してくる刀を拾おうと身体を動かした瞬間だった。


「なるほど、俺から刃物を奪おうっていう作戦か。……悪くない、だが」

「!? ぅぐ……ッ!!」

「___魂胆が見えているぞ」

「名前ちゃんッ!!」


後ろからいーちゃんが私の名を叫ぶ声が聞こえる。
同時に走る痛みと、腕に集まる熱。……あぁ、どうやら腕を刺されたらしい。
でもまだ、片腕が動く……!

刺されていない方の腕を思いっきり振りかざし、相手の腕めがけて振り下ろそうとした。


「っ!?」


ステインと私の間に割り込むように現れたのは氷だ。___焦凍君か!
お陰でステインに刃を向ける必要がなくなった。
ステインはナイフから手を離し、落下してきた刀を拾って後ろへ飛び退く。
私も腕にナイフが刺さったまま焦凍君の元へと後退する。

……焦凍君が割って入ってこなかったら、思いっきり刺してたかも。


「名前、腕が……!」

「これくらい、大したことない……ぐッ」



焦凍君にそう返しながら刺さったナイフを抜き、誰もいない場所に放る。
本来サーヴァントは放って置いても魔力によって怪我は再生するらしいが、私はサーヴァントではないため、彼らに擬態していようが怪我はそのまま残る。
だからといって、そのまま放置して置くわけにはいかない。
ダメージを負ったまま動くのって結構辛いからね。





2021/12/10


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