第6節「職場体験開始」
次の日
昨日は到着が遅くなったため、事務所にある一室で夜を明かし今日から職場体験開始だ。
きっと他のみんなは昨日から頑張っているはずだ。何だか申し訳ない……。
「おはよう名前。眠れたかい?」
「おはようお父さん。うん、ぐっすり」
「あら〜!コスチューム姿の名前も可愛いわっ」
「えっ、お母さん!?いつ来たの!?」
「深夜頃にねっ」
驚く私にお母さんはウインクをしながら答えた。
お母さんが言うように、今私はコスチュームを着ている。
「実はお前が寝ている間に要請が入ってね、良い機会だから名前も連れて行こうと思うんだ」
「どこに行くの?」
「保須市だ。今ヒーロー殺しが出没している場所だよ」
保須市
そのワードを聞いて浮かんだのは飯田君だ。
……って、今は職場体験中だ。余計なことは考えない!
「お母さんも一緒に行くの?」
「いいえ、私は此処に残るわ。事務所を空けちゃう事になるからね!」
サイドキックの人もいるみたいだけど、重要な案件が来たときに対応できないから夜中に事務所に来たらしい。
「お父さんがいるから大丈夫だと思うけど……気をつけてね」
「うん」
「帰ってきたら実際に此処で行っていることを手取り足取り体験させるからね」
「よ、よろしくお願いします……」
お母さんの言葉に苦笑いして、出口に向かったお父さんの背中を追いかける。
こちらを振り返って見ていたようで、待たせてしまったと申し訳なくなる。
「さて、僕はお前の事を何と呼べばいいのかな?」
「え?」
お父さんの発言に一瞬疑問に思ったが、すぐに意味を理解した。
普段通りに呼んで貰うんじゃない。
お父さんが求めている答えは___
「……『フェイ』です!宜しくお願いしますっ!」
「ヒーロー『アクア』だ。宜しく、フェイ」
きっとこれだ!
ここは家じゃない、事務所……ヒーローの世界だ。
憧れの存在に仮だとは言えヒーロー名で呼んで貰えるのがこんなにも嬉しいなんて。
「フェイ、今から君はヒーローとして現場に向かう! お前は敵との戦闘を経験しているが、油断はしないように」
「はい!」
「よし、さあ出動だ!」
お父さん…いや、アクアが事務所の扉を開ける。
ここを通ったらヒーローとしての活動を体験する事ができるんだ。
その事にわくわくする反面、飯田君のあの瞳も頭にちらついていた。
2021/12/10
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