第1節「再会」
霊体化したギルを連れてお母さんと帰宅する。
どうやら私は豪邸と呼ぶのに相応しい家に住んでいるらしい。
と、家についても気になるがもう一つ気になることがある。
私は一度死んだはずだ。
死ぬ直前の事は勿論、今までの事も綺麗に覚えている。
それに、どうしてギルは……ギルガメッシュという英霊は私を覚えているのだろうか。
サーヴァントの記憶は引き継ぐことはできなかったはずだ。
いや、そもそもどうやって召喚されたの?
「名前?そんなに難しい顔をしてどうしたの?」
「あ…お、お母さん」
顔を上げると目の前にはお母さんの顔が。……よく見たら、私の顔によく似ている。
お母さんは私の隣に腰掛けて、私を見下ろす。
「ねぇ。さっきの男の人……知ってる人なの?」
お母さんの質問に固まってしまう。
そりゃそうだ、娘が知らない男性に抱きつきに行ったんだ、疑問に思って当然だ。
だけどどう言ったら良いのだろう……。私自身、今の状況を完全に理解出来ていない。だがこれだけは分かる。私は新たな命となって生まれ変わったのだと。……前の記憶を持ったまま。
だけどこの話を信じてくれるのだろうか。残念ながらこういう話は信じない人の方が多い。お母さんに話すべきか、と迷っていた時
「我が話そう」
「ギル……」
声が聞こえた方へ視線を移すと、そこには長い足と腕を組んでソファーに座るギルがいた。
服装も金色の鎧から現代に溶け込めるような服装へと替わっており、髪も下ろしている。
霊体化していたギルが突然現れたことにお母さんは驚いているようだ。私は慣れているから大して驚きはしなかったけど……。
「貴方は、娘とどういう関係なんですか……?」
「我に気安く話しかけるでない、雑種」
「ざ、雑種…?」とギルの言葉に困惑するお母さん。うーん、私が話すしかないよね。
「お、お母さん。この人は『ギルガメッシュ』っていうの。あの『ギルガメッシュ叙事詩』に出てくるギルガメッシュ本人」
「ギルガメッシュ……?」
私の説明にお母さんは更に困惑してしまった。日本でギルガメッシュ王の認知度がどれほどなのかは分からないけれど、とりあえずどのような人物なのか説明する。
まあでも、大昔の人間ですって説明されたらびっくりして当然だよね。もっと上手い説明がないかな…と考え込んでいると、ギルが咳払いをした。
「我の名は名前が申した通り、全ての英雄の王ギルガメッシュである。さて、まずは何から話すべきか……」
顎に手を当てて考えている素振りを見せるギル。……本当、絵になる美しさだ。
「そうだな、先に名前について話そう。雑種、貴様は今世の名前の母親故に、我と話すことを許す」
「は、はぁ……」
うん、お母さんの気持ちが分かるよ。何様だよってなるよね。というより、ギルが放った言葉の中にあった『今世』って……?
「ギル、『今世』ってどういう事……?」
「薄々気付いているだろう、自分は“生まれ変わった”という事に」
「生まれ変わった……?」
私の質問にギルが赤い瞳を細めながら答えた。
ギルの言葉にお母さんが驚いたような声を漏らす。
「名前には、前世の記憶がある。……いや、“取り戻した”と言った方がいいか」
「名前の前世……」
お母さんが私を見る。
驚いた目をしているお母さんと視線を合わせられず下を向く。
「我は名前に発現した個性の“一部”に過ぎん」
「ギルは個性というものを知ってるの?」
「……どうやら、記憶を取り戻したと同時に今世での記憶が少し抜けているようだな」
まだ実感がわかないけど、前世の記憶を取り戻す前の事を全く覚えていない。実際に隣に座っている女性は知らないはずなのに、私は『母親』だと認識していた。
だから、ギルの言う通り記憶を取り戻したと同時に前までの記憶が抜けてしまっているんだと思う。
2021/03/09
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