第5節「轟焦凍」
『……それがどうかしたのかい?』
「セイバーやみんなは違うけれど、カルデアに召喚されたサーヴァントはあの召喚システムがあったから出会うことができた。……あの人もその1騎」
『……そうだね』
アーサーを召喚したのは、とある特異点なんだけど、帰還した後にカルデアに再召喚されたんだよね。
と、この話は置いておいて。
「セイバーはさ、フェイトの意味知ってる?」
『それはあの召喚システムの事かい?それとも単語の意味かな?』
「単語の意味だよ」
私の質問に質問で返してきたアーサーに、そう答える。
アーサーは勿論、と答えて意味を口にした。
フェイト。……その言葉はあまり良い意味では使われない。
なのに何故か、私はこの言葉をヒーロー名に入れたい、使いたいと思った。
「苗字さん、決まったかしら?」
「は、はいっ」
伏せていた顔を上げ、急いで返事をする。
白いボードの上にマジックペンを走らせる。……よし。ボードを持って教卓の前へと歩く。
「急いで書いてたみたいだけど……ちゃんと考えた?」
「はい、大丈夫です。……ちゃんと考えて決めました」
ミッドナイト先生の問いにそう答え、正面を向く。
持ってきた紙をみんなに見えるように立てる。
「『フェイ』。……ヒーロー名は『フェイ』です」
私の声は静まり帰った教室に良く響き渡った。告げ終わると、教室には拍手の音が広がった。
「良いじゃな〜い!可愛らしくて素敵よ!」
「あ、ありがとうございますっ」
「名前の由来を聞いても?」
ミッドナイト先生から、このヒーロー名を付けた由来を尋ねられた。
……そうだよね、聞かれるよね。その質問に答えるため、私は口を開いた。
「『運命』という英単語を借りました」
「運命?運命は英語で確か『destiny』じゃないかしら」
「もうひとつありますよ。……『fate』という単語が」
fateという単語の和訳は、どちらかというと『宿命』に近い。そして、この英単語は良い意味ではない。
fateの意味を分かったようで、ミッドナイト先生の表情から明るさが消える。
「『fate』という英単語はネガティブなイメージが強い。ヒーロー名にはあまりマイナスな単語はおすすめできないわ」
「はい。私はその意味を分かってこの単語から貰い、この名前を付けたんです」
ミッドナイト先生の言葉は最もだ。
だけど、私はこの単語でないといけないんだ。
……あの旅を表すのなら、この言葉が1番似合うと思う
目の前で人が死ぬ光景を何度も見た
辛い別れを沢山体験した
痛い思いをしたけど、あの日私が死ぬ事は運命によって定められていたものだったのならば、拒まずに受け入れよう
「例え、決められた運命だとしても、その運命の中で自分をどれだけ残せるか……それをこの名前に込めたんです」
前世で成し遂げた「未来を取り戻す旅」……グランドオーダー
きっとあの時に殺される運命を、死ぬ運命だと知っていたとしても私は戦ったと思う
何よりもあの人の役に立ちたかったから……自分を救ってくれた、あの人の役に
忘れてはいけないんだ……あの旅を、ドクターとの出会いを
それをこのヒーロー名に刻みたい
「そんな熱く言われると、否定できなくなっちゃうわね」
「!」
「決められた運命の中で、貴女という人物をどれだけ残せるか……。そこまで言うなら見せてみなさい」
「はいっ!」
ドクター、見てて
戦えなかった私はもういないよ
サーヴァントの力を借りる事は変わりないけれど、今度はサーヴァントを守る事だってできるかも知れない……いや、守るんだ
『フェイ、か。イメージした雰囲気に似合わない由来だね』
アーサーの声が脳に響いてきた。
どうやらあまり良い印象を抱いていないらしい。
「結構気に入ってるんだよ?」
『君がそう言うのなら否定しないさ。それに、君の運命に僕達は必要だろ?』
「勿論、私の運命はサーヴァントと共にある。嫌でも離れられないよ?」
『それは光栄だ。もう二度とあのような光景は見たくないからね』
きっとアーサーが言う『光景』と言うのは、私が彼らの目の前で死んだ事を指している。
命を張ってまで誰かを守れるのなら、それは本望だ。
自己犠牲の強いところは、元の作りが原因なのかな。だって道具だったからね、私。
「私が戦えたらドクターも……あの人も、消えなかったかもしれない」
『……』
「こうして戦える力があるのなら……使いこなせるようになりたい。みんなが私を守ってくれてたように、私だって守りたい」
『君の気持ちは良く分かった。でも、そういう自己犠牲の強いところは直すようにと昔から言ってるだろう?』
「むぅ……」
でも、『守られる立場』から『守り守られる立場』へと昇格したのは純粋に嬉しいんだよ?
そう言うと、覚えのある手つきで頭を撫でられるのを感じた。
2021/07/25
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