第5節「轟焦凍」



4歳になる前。それはつまり、前世の記憶を取り戻す前に轟君と会っていたという事になる。
だけど、何よりも私と轟君が許嫁の関係だった事に驚きを隠せない。……さっきから驚いてばっかりだな、私。



「まだその時、お互いに個性は発現していなかったが……俺の個性が”当たり”だった場合、親父はその個性を残す為に相応しい人を娶らせる気だったんだ」



その相手の第一候補が……お前だ。
轟君は私を見ながらゆっくりとこちらを指さす。



「お前の両親は強力な水の個性と回復の個性だ。彼奴の事だ、どうせ混ぜるのなら強個性、または相性のいい個性を選ぶ。だからお前と俺を引き合わせたんだ……オールマイトの次に認めているヒーローの娘って事でな」

「……そう、なんだ」

「結果、俺の個性は彼奴が望んだものが発現した。後はお前の個性がどうなるかって所で___アクアは許嫁の話を無かったことにしてほしい、と言ったそうだ」

「!」

「何でアクアが話を断ったのか、雄英で再会して分かったよ……だって、どっちの個性も継いでないんだから」



何故お父さんがその話を断ったのか。
……私がどちらの個性を継いでいないのは明確だ。それを理由にしたのか、はたまた私が前世の記憶を取り戻したからなのか。

私の中では後者だと思っている。何たって私は、轟君と初対面だと思っていた。だけど実際はお互いの両親が小さい頃に会わせていた為、彼の言う通り『再会』の方が正しい。


私がこの記憶を取り戻したとき、ギルが言っていた。現在の記憶を取り戻す前の記憶……苗字名前の記憶を上書きしているのでは、と。
実際に私はこの記憶を取り戻す前の記憶を未だ・・に思い出せていない。

ならば何故あの時、私はお父さんとお母さんを見て自分の親だと認識出来たのか。……きっと、本能的なものなんだと思う。前の私だったら絶対にあり得ない話だな、本能なんてものは。



「俺がそのことを知ったのは結構最近だった。……お前について思い出したのは、雄英でお前の顔と名前を聞いてからだったから」

「? そうなの?」

「ああ。今までずっと親父の力を使わずにヒーローになることだけを考えていた。だから、昔の事を忘れていたんだ」



その言葉を聞いて、お父さんに聞いた内容……轟君が受けてきたことを思い出す。
そして、轟君は語り始めた。自分の出生について。

轟君はエンデヴァーさんの上位互換として作られた子供だとお父さんが言っていた。それは、私達が生まれる前に問題視されていたという”個性婚”……個性だけで配偶者を選ぶもので、エンデヴァーさんは轟君のお母さんを娶ったという。

どうやら轟君は4人兄妹の末っ子らしく、彼のみエンデヴァーの理想を持った個性を発現しているようだ。
その後の彼は個性をひたすら伸ばす為に訓練という名の虐待に近いものを受けてきたらしい。まだ5歳という小さな頃から。
その時の轟君にとって、彼のお母さんだけが唯一心を落ち着かせる事が出来る存在だったそうだ。

しかし……


「この左の痕は、その頃にお母さんから浴びせられた煮え湯の痕だ」



轟君はそう言いながら、自分の顔の左側……火傷痕を触った。

轟君の口からは語られなかったが、お父さんから聞いた話と今まで聞いた内容を照らし合わせて考えると……彼のお母さんは心を病んでしまったのだろう。エンデヴァーさんが原因だと轟君が言うのも分かる。

その後、轟君のお母さんは病院(恐らく精神病院だろう)に入院しているようで、彼は10年も顔を見ていないという。
その事を始まりに轟君はずっとエンデヴァーを憎んできたという。



「だけど、緑谷との試合の後……よく分からなくなった」

「分からなくなった?」

「彼奴にも話したんだ。俺について」



どうやら自分の出生をいーちゃんにも話していたらしい。
……もしかして、いーちゃんがあんな試合…轟君に語りかけるような試合をしていたのは、彼の為……?



「……ほんと、お人好しなんだから」

「そういえば、苗字と緑谷は幼馴染なんだよな」

「! 知ってたんだ」

「隣で聞いてたからな」



どうやら私といーちゃん、かっちゃんが幼馴染の関係であると明言した日……後にUSJ事件となった日、バスでUSJに移動していたときの会話をしっかり聞いていたようだ。ごめんね、寝てると思ってた……起きてたんだね。



「そしてその後、お前と試合してる時……お前の言葉がぐちゃぐちゃになった頭ん中に入ってきて……」

「私の言葉?」

「覚えてないのか? お前、俺に向かってこう言ったんだぞ……『羨ましい』って」



どうしよう。全く覚えがない。無意識に言っていたのかな。
……彼が、轟君が羨ましいと思ったのは本当だ。だって、私と彼はヒーローの親を持つという共通点があるのに、私は彼と同じではない。



「……言った記憶はないけど、それは本当だよ。私は、お父さんの個性もお母さんの個性も使えない。使えるのは……使い方を誤れば、人を容易に殺せる力」



そして___私はヒーローアクアとサナーレの娘と世間に公表されていない。
それが、轟君と私の大きな違いだ。



「そうしないために、雄英ここに来たんだろ」

「!」



そうだ。だから私はヒーローになりたかったんじゃないか。
この力を誰かを傷つける為に使うのではなく、助けるために。……もう誰も、目の前でいなくなってほしくないから。助けられるのではなく、助ける為に。



「ま、お前が雄英に来たのは意外だったけど。アクアとサナーレは雄英出身じゃねーから」

「元々は雄英じゃなくて士傑に行くつもりだったんだけど……ま、まぁそこは……ちょっと、ね?」

「? 何か理由があるのか?」

「ざっくり言えば……個性関連かな」

「そうか」



話していくうちに、轟君との会話がスムーズになってきた気がした。
だから、ちょっと質問してみたかった。……少し前から抱いていた疑問を。





2021/07/25


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