第5節「轟焦凍」



「ねぇ轟君。轟君のお母さんもヒーローなの?」

「……いや」


私の質問に轟君は少し間を空け、表情を曇らせてそう言った。
あれ、聞いちゃいけなかったかな……。

明らかに変わった声音に申し訳なさを感じ始める。



「……お母さんとは、もう10年も会ってない」

「! 10年、も……」



そうだよ。
いくら大人びているように見えても彼はまだ15歳の子供だ。
10年も会っていなければ「寂しい」と感じて当たり前なのだ。



「丁度、苗字に似た髪型だった。……記憶の中のお母さんは」



……もしかして、度々悲しそうな視線を感じていたのは、私が轟君のお母さんに似ていたから!
ま、まあ10年も見ていなければ顔も薄れるだろうし、姿を重ねてしまうのも可笑しくない……かも?



「なら……その10年間、お母さんとは1つも連絡を取ってないって事?」

「ああ」

「会いに行こうとは……?」

「上の姉弟達は行ってるみてぇだが、俺は……」



言葉を詰まらせた轟君。その先の言葉は察せた。……行けなかった、と言う方が正しいのかな。
母親に煮え湯を浴びせられた、と言っていた左側の火傷痕を抑えている轟君がどこか寂しそうな感じがした。


「……轟君は会いたい? お母さんに」



私の問いに轟君は小さく頷いた。
……もう決まってるじゃん。なら私は、その背中を押すだけだ。


「……なら、会いに行きなよ」

「! でも……」



拒絶させるのが怖いのだろうか。少し震えている轟君の肩を軽く叩く。
ハッとした表情が私の視界に映る。



「私のお母さんが言ってたの。……親は子を想っているものなんだって」

「想って……」

「私はその期待に応えたいからヒーローを志した。……例え、世間が両親ふたりの子供ではない、と言おうとも」



これはこの世界に生まれ変わって、記憶を取り戻した私にお母さんが言ってくれたものだ。
私も『親』という存在に怯えていたから。……違うとはいえ、気持ちは分からない訳でもない。



「ほら、丁度明日から2日間学校休みなんだし。ね?」

「……お前もお人好しなんじゃねぇか」

「え? なんで?」

「なんでって……。俺、お前を怒らせたり傷つけるような事言ったし……」



中々めんどくさいな……。まあ、こういう所は年相応らしいと言えばらしい。
これは年長者である私がバシッと言おう!前世の分を含めたら、トータル年齢は30代だし、経験も豊富だし!……多分。



「もう気にしてないよ。……私も、ちょっと頭に血が上りすぎてた」

「……そうか」

「だから、これでお相子。ね?」



私の言葉に、轟君の表情が少し柔らかくなったような気がした。……轟君って、結構顔整ってるよなぁ。もう少し笑えば良いのに。

あと、さっきからずっと思ってたんだけど……轟君って誰かに似ているんだよなぁ。顔ではなく、性格とか雰囲気とかそこら辺が。
うーん……誰だっけ……。



「……なんだ?」



目をぱちくりとさせた轟君のオッドアイがこちらを見つめる。
…………あ、分かった!カルナだ!!
轟君ってカルナに似てるんだ!雰囲気が!炎という共通点があるし!







オマケ



「苗字。俺との試合でどんな英霊と擬態したたんだ?」

「君と同じ炎を使える子だよ。私はランサーって呼んでる」

「髪の色、白いのか?」

「うん。だから轟君がお母さんと似てるって勘違いしちゃったのかも」

「そうか……(と言うことは女なのか?)」

「あ、因みに男性なんだけど…」

「だん……、せい……!!」

「と、轟君?その氷どうにかしない?!」





2021/07/25


prev next

戻る














×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -