第5節「轟焦凍」
目を覚ましたら教室にいて、体育祭が終わっていた。
どうやら一度目を覚ましたようだが、記憶にない。
2日間の休日が与えられたらしいんだけど、あまりにもの眠気で相澤先生の話をほとんど聞き取れておらず、全て四郎が教えてくれた。ありがとう、四郎……。
で、この眠気は恐らく個性の限度を超えすぎた結果ではないか、と四郎が言っていた。数名のサーヴァントから魔力を貰って酷使したのが1番の原因だとお叱りも受けた。これからはもうちょっと考えて個性使います……。
で、現在私は……
「……」
「……?」
何故か轟君と対面しています。
事の数分前、クラスメートに心配の声を掛けて貰いながら、帰宅の準備をしていた時だ。
『ちょっといいか』
轟君が話しかけてきたのだ。
どうやら私に用事があるらしい。断る理由もないので、彼の言葉に頷いた……と言うわけだ。
……何故か三奈ちゃん達に「どうぞどうぞ!!」とか「ごゆっくり〜」とニヤニヤしながら見送られたんだけど。
一緒に教室を出て、少し離れた場所まで移動した私達。
二人きりという訳ではない。何故なら、霊体化して四郎が付いて来ているからだ。
長い沈黙のまま、轟君のオッドアイが私を見つめていた。
「あの、轟君……?」
あまりの静かな空間に耐えきれず、自分から静寂を断ち切る。
目の前にいる轟君に声を掛けた時だった。
「……悪かった」
「え?」
急な謝罪に変な声が出てしまった。
何故、謝られたのだろうか。
「お前の事、前から知ってたんだ。……彼奴から聞かされて」
「彼奴って……エンデヴァーさん?」
私の言葉に轟はコクッと頷いた。
そして彼は話してくれた。……”同じだと思っていた”、”同情した”という言葉の意味を。
「私が、轟君みたいな目に遭ってないか心配してくれてたの?」
「ああ。彼奴の口からアクアの名が出ていたから」
つまり……お父さんとエンデヴァーさんの仲を知っているから、お父さんもエンデヴァーさんと同じような人ではないか、って思ってた事?
「轟君の家庭事情……悪いとは思ったけど、お父さんから聞いたよ。……私は轟君の家庭とは真逆の環境で育ってきたから、何ともなかったよ」
「……そうか」
「でも、心配してくれてありがとう。……優しいんだね」
普段の彼はそのような面が浮かばなかったため、その厚意が純粋に嬉しかった。
そう思いながら轟君を見つめていた時だ。
「……お前だったからだ」
急に言われた言葉に目を丸くする。
目の前には、少しだけ感情の篭もった轟君がいた。
「え? 私だった……から?」
「……やっぱり、覚えていないんだな」
「覚えて……ない?」
「ああ」
轟君は少し間を置いて口を開いた。
「俺達、雄英に入る前に会った事あるんだ」
「え……?!」
「だから俺はお前がアクアとサナーレの娘だって事を知ってた。……まさか、どっちの個性も継いでいないのは意外だったけどな」
「ちょ、ちょっと待って!! 私達……いつ会った事があるの?」
驚いている私を置いて、轟君が話を進めようとするので慌てて止める。
私と轟君が小さい頃に会っていた?そんな記憶、一つもない。
「俺達が4歳になる頃だ。親父とアクアが引き合わせたんだ___許嫁としてな」
轟君の放った言葉に、目が見開いていく感覚がした。
2021/07/25
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