第4節「とある女性マスターのオリジン」
立香君とマシュも同じ事を考えていたようで、私達は二手に分かれ、新所長の男性を探すことになった。
しかし、この黒い兵士……
「しつこいなぁ……!」
倒しても倒しても起き上がってくる。
一体どんな原理で動いているんだ……!
「……! マスター、藤丸達の所に魔力が集中している!」
「っ、待ち伏せか!」
エルキドゥのスキルのお陰で状況を判断できた。
彼のスキルを頼りに立香君の元へ向かう。
「この冷気……もしかして、例のサーヴァント!?」
急がなければ……!!
強力な氷を使うサーヴァントだ。弱っているマシュとダヴィンチちゃんだけでは逃げ切れない!
でも私のサーヴァント達が加勢すれば、倒せるかも知れない……!!
「加勢に来たよ……ッ、立香君!」
「名前さんっ!!」
どうやら間に合ったようだ。
しかし、マシュの様子が先程見たより弱っている。……ここは私が足止めに!
「ダヴィンチちゃん、3人の護衛を!!」
「でも、それじゃあ名前さんが!!」
「大丈夫」
不安そうな表情でこちらを見る立香君に微笑む。
「私だってカルデアのマスターだもの。……所長達が残してくれたカルデアを好き勝手されるのは、気に障るの……!」
足を止めているもう1人のマスターに早く行くように言う。
……大丈夫、私にはこんなにも頼れるサーヴァント達がいるんだから。
「良かったのかしら?今ならまだ間に合うかも知れませんわよ? それとも___死をご所望かしら?」
「……ふふっ」
「……何が可笑しいのかしら」
例え殺されようと構わない。
もう1人マスターがいるのなら、マシュがいるのならまだ勝利はある!
今はまだ勝てなくとも、2人が生きていさえすれば、この事態を何とかできる!
何故断言できるのかって?
___共に人理を修復した仲間だからだよ!
女性に向けて笑みと睨みを飛ばした後、魔術を発動した。
***
死の覚悟はあった
……だからなんだろう
「___かはっ」
急に自分を襲った痛みに、さほど恐怖を感じなかった
口の中に感じた鉄の味とお腹に走る痛み……あぁ、私刺されたのか
「マスターッ!!!」
死に対する恐怖はなかった
そんな恐怖よりも……ただただ、悔しかった
共に過ごしてきた日々を簡単に崩されたこと
仲間達が殺されたこと
何よりも……ドクターが助けてくれたこの命を、突然現れた人に奪われてしまった事
「こちらの手に乗ってくれれば生かす事も考えましたが……」
カツカツと足音を鳴らしながら近づいてくる女性……いや、あれはサーヴァントだ。それも、おそらくは___
「貴女はもう道具ではない、……使えませんね」
私を見下ろすその目は冷ややかなもので
……その高慢、今此処でしない方が身の為だよ?
「ッ!? まだサーヴァントが残っていたの!? 此処には既に7騎もいるのよ……!?」
……私、契約したサーヴァントが7騎だけとは言ってないよね?
カルデアはほとんどの機能が失われてしまった
それなのに何故サーヴァントを戦わせることができるかって?
「なるほど……これがあの魔術師が作りたかった理想の兵器の手前だって事ね……!」
このサーヴァントは私の…兵器の誕生について何か知っているらしい
命を削ってでも魔力を生みだし続ける使い捨ての兵器…それが、作成者が目指していた兵器の在り方だ
その証拠に私の魔力の多さは桁違いなもの……この命があるまでは簡単に尽きないよ
……それなのに、私は作成者の理想には慣れなかったんだよ?
「しっかりしろ、ナマエ!!」
……どうやら相手はターゲットを立香君達に変えたようだ。
このままではカルデアは全滅してしまう
「みん、な……っ」
右手を伸ばす
血に染まったその手を誰かが握った
……あぁ、もう誰なのかを認識する事すらもできないのか
「私の命令、聞いてくれる……?」
助からない
私だけならまだいい
彼らを……立香君達だけでも逃がさなければ
「令呪を持って命ずる___最後のマスター、藤丸立香を……守って」
死に抗う気は無い
だからといって、相手の思うようにさせるものか
あの人が私を”人間”にしてくれた
だから私は、最期まで人間らしく”抵抗”させて貰うよ
「ナマエッ!!!」
「余を置いていくなっ、奏者ッ!!」
「死なないでっ、おかあさんッ、おかあさんッ!!!」
「マスターッ!」
「主殿ッ!!」
「しっかりしなさいっ、ナマエッ!!」
「死ぬな……ナマエッ」
「……っ」
「マスター……?」
「マスター……!」
「我の許可なく死ぬな……ナマエッ!!」
……ああ、ごめんねサーヴァント
ごめんね、立香君、マシュ、ダヴィンチちゃん
後は、頼んだ……よ…………
2021/07/24
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