第4節「とある女性マスターのオリジン」



パシン、と乾い音が聞こえた。
次に肩が崩れる程の力で強く掴まれた。



「何をしようとしたか分かっているのか……!!」

「……」



いつもは優しい声が怒りを露わを含んでいる。
少し離れた場所に転がっている刃物が視界に入る。
……だって、だって……!



「私にはもう、生きる理由がない……っ。あの人のいない世界なんて、生きる価値もない……!!」



寂しい
さびしい
サビシイ

……ドクター、私も貴方の元へ行きたいです
このを消せば、貴方の元へ行けますか

気付いた時にはどこから取ってきたのか、刃物を手に取っていた。



「君が消えてしまえば、彼も死んでしまう!」

「どういう……こと?」

「例え英霊の座から消滅したとしても……君が覚えている限り、彼は君の中で生き続ける!」

「!!」

「だからどうか……生きることを諦めないでくれ……!」



背中に何かが回り、温もりに包まれる。
肩に少し重みがかかり、くぐもった声が横から聞こえた。
彼の……アーサーのこんな声を聞いたのは初めてだった。

無意識に自分の胸に刃を立てようとしていた。
自分だけなら楽になれただろう。
だけど、私が死んでしまえば彼のように悲しむ人が生まれる。
……ドクターがいなくなって身を投げ出そうとした、私のように。



「私、もうこんな真似をしない……。ドクターが残してくれたこの世界を、最期の時まで生き抜く……っ」

「あぁ……」



この騒動は少し話題になった、というのは後の話。
この後にも何故か特異点は現れ、解決しにレイシフトも行った。……偶に首を傾げたくなるような特異点もあったけれど。

ドクターがいなくなった後、新たに6騎の英霊と契約した。
なかなかの問題児だらけだったけれど、共に特異点を解決していくうちに互いに信頼できる中になったと思う。





___一年後。
私の運命が終わりを告げた日がやってくる。


2017年12月26日
確認されていた特異点は全て消滅……人類の脅威は去った。
レイシフトの必要のなくなった為、全てのサーヴァントとの契約を解除した……と思っていたのだが。



「余が簡単に離すと思ったか、奏者よ!!」

「ぐえぇ」

「こらこら皇帝陛下。マスターが苦しそうだよ」



私と契約しているサーヴァント達は何故か契約を切っていなかった。
しかも、私と一緒にこのカルデアを出ると言い出したのだ。

……今思えば、このとき契約を切っていなくて良かったと思っている。
この後起きる事を知った今だから、言える事だけど。



***



カルデアに新たにやって来た、魔術協会からやって来た新しい職員達。
その中心に現れたのが新所長である『ゴルドルフ・ムジーク』。……私が去った後のカルデアの所長になる男性だ。

前所長オルガマリー所長と、所長代行だったドクターの次にこの人間が立つのか、と思うと……まあ濁しても仕方ないのではっきり言う。
2人の後任として任せられない。頼りがいがない。

あっという間に話が進み、私達は4人1組に分断されてしまった。
私は職員の人と一緒に個室に入れられた。……立香君とマシュ、ダヴィンチちゃんは大丈夫だろうか。

先に職員の人が呼び出され、最後を飾ったのは私だ。

何時間質問攻めにあっただろうか。まあ、それもそうか。向こうからすれば、私の出生は謎に包まれている。
だからなのか、どうやら私はこの後、魔術協会へ送られるらしい。

……ここを離れたくない。だけど、今の私にそれを拒否する権力はない。
溜息をつきながら個室へ戻っていた時だった。



「銃声……?」



背後から聞こえた音に後ろを振り返ると



「……!!」



目の前で人が殺された。
あの人間は確か……ごる何とかっていう新しい所長と一緒に来た人達では。
ならばあの仮面を付けた者達は……?
それに、なんだ……この魔力濃度は。これじゃあまるで……!!



「!!」



気付かれた!!
どうする、このままでは私もあの人達と同じように……



「!? ……くさ、り?」



黒い兵士の身体を鎖が貫通した。
そして私の後ろから飛んできた武器が兵士の身体に刺さる。
……この戦闘スタイルは、よく知っている。



「大丈夫かい、マスター?」

「……ふんっ」



後ろを振り返ると、そこにはエルキドゥとギルがいた。
しかし、2人の背後にもあの黒い兵士が!



「はっ!!」

「四郎!」

「私もいるよ、マイロードッ!」

「マーリン!」


二人の背後にいた黒い兵士を斬ったのは、四郎とマーリンだ。
ナイスタイミング、二人とも!


「一体何が起こっているのです、マスター」

「私にもさっぱり……」

「とりあえず、この兵達を何とかしよう。……それにこの兵、面白い仕組みのようだし」



……この兵、何だか可笑しいとは思っていたけど。
マーリンも同じように感じとってるという事は、ただの兵士と思わない方がよさそうだ……!



「他の職員達がどうなっているのかが気になる。ここを切り抜けて、他の人達がいる個室に向かおう!」



私の指示にそれぞれの返答が帰ってきた。
……この状況も気になるけど、他の人達はどうなっているのか。
あの人が残してくれたカルデアを、みんなを死なせなくない……!





2021/07/24


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