第4節「とある女性マスターのオリジン」



旅をした
そこで様々なものを知った
私に与えられた知識にはなかったものばかりを知る度、あの人は自分の事のように嬉しそうだった
その笑顔を見て、もっとこの人に笑って欲しい、と私は思ったのです



***



時が流れ、私はドクター……ロマニと共にある機関へ入った。
その機関の名は人理保障機関カルデア。正式名称『人理継続保障機関フィニス・カルデア』と呼ばれる、未来を保障する観測所。
私はドクターの付き添いとしてこの組織の所属者に含まれる事になった。

……何故ドクター呼びに変更したのかと言うと、公私混同を避けた結果呼び方が固定していっただけです。
でも本人は嫌がっている素振りもなかったですし、大丈夫でしょう。


この場所で行われていることは過ごすうちに分かっていった。
……隠れて行われていた”ある実験”の事についても。

それを知っても私はドクターと共にいることを選んだ。
だからこの場所がどれだけ気分の悪いものだったとしても、出て行く選択をしなかった。


前所長がなくなり、その人の娘である方が後を継いだ。……そんな時、ある異常が発生した。
カルデアスに異常発生。……100年先の未来の保障がなくなったのだ。


「君にはマスター適正がある。レイシフト適正があれば___」


レイシフトに必要なマスター候補として測定されたもの。
どうやら私には、その2点の適正があったらしい。


「君がやってみたいならやるといい」

「それは指示ですか?」

「はぁ……。自分でどうしたいのか決める事を教えただろう?」


この頃の私は自分でやりたい事を決める、という自立というものをまだ掴んでいませんでした。
ドクターにどうしたらいいか尋ねましたが、自分で決めろと言われてしまいました。


「もし私がその話を受けたら、貴方の役に立てますか?」


私は道具として生まれてきた。
だから、ドクターの役に立てる事ならば喜んで受けようと思っていた。


「君はいつまで道具らしく振る舞う気かい?僕は言ったはずだ。人として生きろ・・・・・・・と」

「でも、私は使われる為だけに生まれてきたから……」



ドクターは私が道具らしく振る舞う事を嫌っていた。

私は貴方の役に立ちたいだけ。……喜んで貰いたいだけなのに。
彼にマスター適正とレイシフト適正がある事を伝えた次の日には、私の意思関係なくマスター候補としてレイシフトのチームに入れられてしまいましたが。


「悪いわね。でも、役に立って死ねるのなら構わないのでしょう?前にそういってたじゃない」

「はい。でも、誰でも言い訳ではありませんよ、オルガマリー所長」

「……ああ、あの人ね」


隣に立っている女性は現カルデアの所長である『オルガマリー・アニムスフィア』。
彼女とは割と長い付き合いになると思います。


「何でこんなにしっかり者である貴女のご主人様が、あんな人なのかしら」

「ドクターだって、やるときはやりますよ。任された仕事はきちんとこなしてます」

「貴女、偶に毒を吐くわよね……」

「?」


今現在此処にいないドクターですが、きっと医務室に戻って何か作業を行っているのでしょう。
そう思いながら目の前でコフィンに入っていくマスター候補生を見つめる。
……そう言えば先程、1人のマスター候補生が所長のお叱りを受けていましたね。
ファーストミッションに外されていましたが、どうなるのでしょう……?

レイシフト実験が開始されようとしたその時。


「!!!」


急に起きた事だったから脳が判断できなかった。
やっと脳が仕事を再開した時にはもう


「う……ッ、あ゛ぁ……ッ」


身体に激痛が走っていた事と、昔見た記憶によく似た光景が広がっていた事しか考えられませんでした。
アナウンスの声が聞こえるが、聴覚がはっきりしない。
やっと聴覚が機能し、聞こえたのは


『アンサモンプログラム、スタート。霊子変換を開始します。レイシフト開始まで、あと3……2……1』


れい、しふと……?
それは、先程までやっていた実験の……ッ!


『全行程完了クリア。ファーストオーダー実証を開始します』



その声が聞こえ、気がついた時には



「……うっ、ここは……っ?」



___先程までいた場所とは全く別の場所にいた。
そこで私の運命は急激に変化していった。



「サーヴァント『セイバー』。貴女の召喚に応じ参上した。……“マスター”、指示を」



目の前に現れた金髪碧眼の男性……いや、サーヴァント。
彼との出会いで私の生きる歩みが変わっていったんだ。



***



目を覚ますと、最初に視界に入ったのは見慣れた天井だった。
起き上がって状況を確認すると、部屋に誰かが入ってきた。……ドクターだった。


「君には人間として幸せになってほしかったんだ。でも、僕と共にカルデアここに来てしまった時点で、既に運命が決まってしまっていたのかも知れない」

「気にしていません。……私は、貴方と共にいれるのなら、それで」


ファーストオーダーから帰還し、ベットで眠っていた私に付き添っていたのはドクターだった。
ミッション中には聞けなかったことを沢山話して貰った。

レイシフト実験が開始される寸前に起きた爆発。
それはかつてドクターと学友であり、私とも面識があった方……レフ教授の仕業だったのです。
その爆発に巻き込まれ、生き残ったのは特異点先で出会った少年……所長に追い出されてしまった一般採用のマスター候補生の『藤丸立香』と、私と似た境遇を持つ少女『マシュ・キリエライト』。
辛うじて生き残ったマスター候補生達やスタッフ達は冷凍睡眠状態だそうです……。

今回のレイシフトで新たに確認された特異点
その特異点を解決するのは___残ったマスターである私と藤丸君のたった2人。


「これは強制になってしまうけど……、人類の未来を君に背負って欲しい」

「命令ですね。……勿論です」


やっと欲しかった言葉を貰った。その時の私はドクターから貰えた命令に喜んでいた。
困ったように微笑んでいた彼の表情は、今でも忘れていない。


「このグランドオーダーが終わったら……ここを離れてほしい」

「分かりました。……ですが」

「?」


言葉の続きがある事に気づき、こちらを振り返ったドクター。
首を傾げながら私の言葉を待つ。


「貴方も一緒に来て下さい。……それができないのなら私はここを出て行きません」

「…………はぁ。うん、分かったよ」


長い間のあと、渋々と言った様子で口を開いたドクター。
約束、と言って交わした誓い。
……結局、その約束は果たされることはなかった。





2021/07/24


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